TIME LIMIT〜櫻井仁編〜 1

※これはAIが作ったお話です(笑)仁君が初登場する回はこちらから※





「仁、お前また溜め息ついてるぞ」



産科の医局の片隅で、兄の慎一がカルテに目を落としたまま呆れたように声をかけてきた。


「……だってさ、兄さん。オレ、本当に何のためにT医科大に来たんだろ……」

 

 

缶コーヒーの冷たさが、じわりと手のひらに染み込んでいく。

 

 

 

 

 

5年生の秋に行われた、医学会主催の若手医師と医学生の討論会。

 

そこでロールモデルとして登壇していたのが、T医科大学病院の小児科医・須本大樹先生だった。

 

圧倒的な知識と、子どもたちの未来を真摯に見据える情熱。

 

先生の言葉一つひとつが、オレの胸に突き刺さった。

 


「オレも須本先生のような小児科医になりたい」

 

その一心で、オレは周囲を驚かせる決断を下した。

 

東大病院ではなく、須本先生がいるT医大病院の研修医マッチングに第一志望を出したんだ。



『どうして東大病院に残ってくれないの!? 一緒にキャリアを積んでいけると思ってたのに!』


2歳年下で、同じ東大医学部の4年だった恋人の凛。

彼女の泣き顔が脳裏をよぎる。

東大病院に進んでほしかった凛とは激しい口論になり、結局、オレたちは破局した。

身を切られるような痛みを抱えながらも、「すべては須本先生のもとで働くためだ」と自分に言い聞かせた。

 

まるでストーカーか何かのようだけど、あの人に執着してT医大病院を志望した自分の選択に、後悔はなかった。

 

 

だが、マッチングの手続きがすべて完了し、T医大病院への配属が確定した直後――医療界に激震が走った。

 

須本先生が執筆した小児白血病の論文が、世界最高峰の医学雑誌『NEJM』に掲載され、それを見たアメリカのシンシナティ大学の教授から直々にスカウトされたのだ。

 

奥さんを伴い、3年契約で渡米することが瞬く間に知れ渡った。

 

 

「嘘だろ……」

 

 

頭の中が真っ白になった。


須本先生がアメリカに行ってしまう。

 

しかし、研修医マッチングは一度決定してしまえば、もう変更することは不可能なシステムだ。

 

他院へ行く選択肢は残されていない。

 

凛と別れ、ストーカーじみた熱量で選んだ場所に、オレの目的だったはずの人はもういない。

 

引き返せない絶望を抱えたまま、オレはT医大病院に行くしかなかった。

 

 

 

案の定、春に入職したT医大病院に、須本先生の姿はなかった。


それからの日々は、ひたすら虚無感との戦いだった。


研修医としての毎日は忙殺されるばかりで、何のためにここで身を削っているのか、もう分からなくなっていた。



「お前なぁ、須本をストーカーみたいに追いかけておいて、いざいなくなったらこれか。ここで腐ってたら、それこそ何のために凛ちゃんと別れたんだよ。ここで技術を磨いて、待つしかないんじゃないのか?」

「分かってるよ、そんなこと……」

 

 

口ではそう言いながらも、心にぽっかりと開いた穴は埋まらなかった。

 

何をしていても「もし須本先生がいたら、どう指導してくれただろう」と考えてしまう。

 

それでもオレは、いつか戻ってくるかもしれない憧れの背中を追いかけるように、必死で小児科の激務にしがみつき、3年の月日を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 


――そして、約束の3年が経った、春。

 

 

 

小児科のカンファレンスルームで、オレは聞き覚えのある、しかし少し深みの増した声を耳にした。

 

 

「今日から復職しました、須本大樹です。シンシナティでは最先端の免疫療法を学んできました。また皆さんと一緒に日本の小児医療を支えていきたいと思います」

 

 

弾かれたように顔を上げた。

 

そこには4年前と変わらない、知的で、どこか穏やかなオーラをまとった須本先生の姿があった。

 

 

「須本……先生……!」

 

 

目頭が、じわじわと熱くなる。

挨拶を終えた須本先生が、真っ直ぐに俺の方へ歩いてきた。

 

 

「君が櫻井仁くんだね。話は聞いてたよ。俺を追いかけてここに来てくれたって。留守にしていて悪かった。待たせたね」

 

 

その一言で、3年間の暗闇がすべて吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

それからのオレの毎日は、180度変わった。

 

「須本先生! この症例の画像データ、僕がまとめておきました!」

「須本先生、次の回診、ご一緒してもよろしいですか?」

「須本先生、さっきの穿刺のやり方、もう一度詳しく教えてください!」

 

 

医局でも病棟でも、オレは完全に大型犬状態だった。

 

「須本先生、須本先生」と後ろを追いかけ回すオレに、先生は「相変わらず熱心だなぁ」と苦笑しながらも、アメリカで培った最先端の知識を惜しみなく注ぎ込んでくれた。

 

 

遠回りをした3年間は、決して無駄じゃなかった。

 

オレの小児科医としての本当の歩みが、ようやくここから始まるんだ。




「櫻井くん、午後から外来のシャドーイング(見学)に来るかい?」

「はい! ぜひ行かせてください、須本先生!」


オレは大きく返事をして、憧れの背中を追いかけ、力強く一歩を踏み出した――

 

 

 

 

 

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