●TIME LIMIT〜学歴編〜 おまけ●

※櫻井君の元カノの新しい出会い(同僚視点)





「私、欠陥女なんで」



恒例の4月下旬に行われる新入職員の歓迎会。

偶然隣の席になったその彼女は、ソフトドリンクを飲みながら静かにそう呟いた。

飲めないわけではない。

ただ、昔お酒で失敗して以来、怖くてそれから一度も口にしてないらしかった――


 

 

 

 

 

 



「はい、いいよー。次の波で一気に行こうか」


僕の勤める総合病院では、産婦人科と小児科医は隣同士だ。

ハイリスク出産や帝王切開の際には、分娩室にも小児科医がもちろん立ち会うことになっている。


誕生を自分の家族のことのように喜び、時に悲しみ。

分娩時の突発的なトラブルにも冷静かつ迅速にテキパキと対応する。

そんな彼女の美しい仕事姿を毎日のように見ているうちに、自然と目で追うようになっていた。


……もちろんそれは僕だけじゃない。




「源先生、今恋人いないんですよね?オレが立候補してもいいですか?」


偶然通りかかったミーティング室で、彼女が告白されているところを見てしまった。

相手は32歳の心臓血管外科の若手エースで、イケメン。

31
歳の彼女には、誰がどう見てもお似合いな相手だと思った。


「ごめんなさい。私、恋愛とか興味ないんで」


でも、まさかの結果。

ガラッとドアが開いて、出てきた彼女と外にいた僕の目が合う。


「…長野先生、昼からの帝王切開立ち会いでしたよね?行きましょ」

「あ……うん」


彼女と並んで、一緒にお互いの医局に戻ることにした。

どうしても気になって、途中で思い切って聞いてみる。


「…源先生って、恋愛興味ないんですね…」

「駄目ですか?」

「あ…、いえ。何か意外で…」

「本当は興味はあるんですよ。恋人だって、普通に欲しいです。でも、相手を騙すようなものだから…、断ることにしてるんです」

「騙す…?」

「歓迎会の時、言いましたよね?欠陥女だって」

「あ…、はい」

「私、子供が産めないんです」



―――え?



「私の歳にもなると、交際イコール結婚も視野に入れられるじゃないですか?それには当然男性は子供も視野に入れてるわけで。そういうの、困るんですよね」


産めないのに…、と彼女が視線を伏せた。


産みたくない…じゃなくて、産めない。

昔、病気で卵巣を摘出してしまったと、彼女は僕に告白してきた。


「…そんな秘密、僕に言っちゃっていいんですか?」

「…だって、そしたら長野先生も諦めてくれるでしょ?」

「……!」


僕が惹かれていたことは、どうやら彼女にバレバレだったらしい。

だから、私のことなんてさっさと諦めて、次行った方がいいですよ――そう言われた気がした。



「……僕の話もしていいですか?」

「え?どうぞ…」

「バツイチなんです。研修医の時に看護師だった女性と授かり婚をしました…」


仕事が忙しすぎて、子育てを奥さんに任せきりにしてしまったことが、次第に夫婦関係を悪化させていきました。

最後は2年の別居生活の後に離婚しました……と正直に彼女に打ち明けた。


「子供が3人いるんです。だから、養育費の支払いで毎月ギリギリ生活で。恥ずかしながらほぼ貯金もありません」

「……」

「だから…僕は再婚とか全然考えられなくて。子供とかもっと考えられません」

「……」

「こんな状況なのに、あなたに惹かれてしまって……困ってました」


あなたにはもっと未来のある男性が相応しい。

若くて、まっさらな独身で。


「カッコよくて優しくて、高学歴高収入高身長なハイスペ男性なら尚いいですね…」

「ふふ…、そんな人と付き合ってたこともあるんですよ。でも、彼の未来の為に別れました…」


本当に好きでした。

私にとって、最高の彼氏でした――と彼女が綺麗に笑う。


「私にとって、最初で最後の恋人です…」


彼女が大学5年生の時の話らしい。

その後9年間、ずっと学業と仕事に生きてきたらしい。

自分の子供が持てないのに産婦人科医になって…、いや、持てないからこそ敢えてその道を選んだらしい。

本当なら目を背けたくなりそうなものなのに、真正面から向かっていく彼女は何て強いんだろう。

そして何て美しいんだろう。



「……あの、今夜一緒に食事に行きませんか?」

「……え?」


思わず口に出てしまって、我に返って恥ずかしくなる。


「すみません、生活ギリギリなのに。いい店も誘えないくせに何言ってるんだろう…」

彼女がクスッと笑ってきた。

「別にその辺のファミレスでも全然いいですよ。何なら牛丼だって、全然オッケーです」

もちろん割り勘しましょ、と勇ましく言ってくれた彼女。


もう僕が完全に落ちた瞬間だった。





それから何度か食事に誘って。

そしてついに休日のデートに漕ぎ着けた日に、思い切って打ち明けてみる。


「僕と正式に交際してくれませんか?」と――

「はい」と返された時は死ぬほど嬉しかった。





それから2年後。

僕は彼女にプロポーズした。


「あなたとこれから先も、ずっと二人で生きていきたいです」と――

なけなしの貯金で買った、世間一般から見れば安すぎる婚約指輪だったのに、彼女は涙を流して受け取ってくれた。


「こんな欠陥女でよければ…」

「僕にとっては全然欠陥じゃありません。むしろこれ以上デキても困るので好都合です……て、すみません。嫌な言い方しました」

「いえ…、そう言ってくれると救われます」









僕にとっては2度目の結婚だったけど、彼女にとっては初めてだったので、小さいながらもちゃんと結婚式もすることにした。

挙式前に、カップルが控室を訪ねてきた。

男の方は男の僕から見てもかなりのイケメンで、高身長で…。


(もしかして、この人が彼女が昔交際していたというハイスペイケメンか?絶対そんな気がする…)


「約束して下さい。彼女を絶対に幸せにすると…」


まるで彼女の父親に詰められてるような錯覚に陥る。


「…もちろんです。一生大切にすると約束します、絶対に」

「…約束ですからね」


そう言い捨てて新婦の元に移動した彼は

「おめでとう春華」

とさっき僕に見せてきた表情とまるで違う笑顔で、彼女を祝福していた。


横にいた彼の恋人に、彼女がハグをする。

そして耳元で何かを囁いていた。



カップルが控室を出て行った後、何を囁いたのか彼女に聞いてみた。


「お礼をね……どうしても言いたくて」

「お礼?」



『慎一を好きになってくれてありがとう』

『ずっと傍にいてあげてね』

『そしていつか――』



「家族を与えてあげて…って、言っちゃった」


私が与えてあげれなかった普通の幸せを……と彼女は一筋の涙をこぼした。


「好きだったんだね…、彼のことが」

「うん…、でも、今はあなたと結婚出来て良かったと思ってる」

「僕もだよ。一緒に幸せになろう。でないとキミの元カレに殺される」

「ふふ…」



抱き締めあって、うっかりキスしてしまって。

口紅がついてしまって慌てた僕ら。

可笑しくて何だか笑ってしまった。

そんな笑顔が絶えない、温かい家庭を築いていきたいと思う――


 

 

 

 



―END―



 

 

 

 

 

 

以上、櫻井君の元カノ・春華さんの新しい出会いのお話でした〜。

同僚視点ですが、最後は旦那さんに昇格してます。

小児科に勤める37歳のバツイチ医師です。(春華さんより6つ年上)

研修医(25)の時に見事にナースに捕まり、授かり婚に持ち込まれた模様です。

約10年の結婚生活の後、離婚。その2年後に春華さんに出会うのです。

元嫁とは擦れ違って別れてしまいましたが、養育費の支払いも月1回の子供との面会もちゃんしてる、優しいお父さんなのでした〜。

 

ちなみにトラウマでお酒をずっと飲めなかった春華さんですが、今後はきっと自宅で旦那さんと楽しむことでしょう。

 

にしても元カレを結婚式に招待する春華さん、凄いですね(笑)

きっと愛ちゃんに会いたかったんでしょう。

でもって結婚相手に一言言わないと気が済まない櫻井君です。

絶対に幸せにしないと許さん!って感じでしょうか。今はもう家族のような心境なのかもしれません。

でも、愛ちゃんがいるからこその余裕ですよね!

最後に小話を3つどうぞ!

↓

 

 

春華視点

 

愛視点

 

元嫁視点