TIME LIMIT〜学歴編〜 おまけ

※春華さんの夫・長野先生の元嫁視点





「知ってる?長野先生、再婚したんだよ」

「……え?」



元夫が再婚したらしい。

私と離婚して、まだ4年しか経ってないのに……






私は元々医者狙いだった。

その為に看護師になったと言っても過言じゃない。

研修医の彼に近付いて、見事妊娠して、授かり婚に持ち込んだのはよかった。

優しい、いい父親だったと思う。

だけど、医者は当然激務で。

子供が3人もいるのに家にほとんど帰れない夫に、次第に嫌気がさしていった。

妊娠しやすい体質なのは自負していたので、4人目なんて絶対嫌だと思った私は、3人目を出産以降……彼と夜を共にすることはなかった。

だから元々なかった気持ちが更に離れて……とうとう別居して。

最後は離婚し、約10年間の夫婦生活を終わらせた。



毎月30万という高い養育費を、遅れることなくきちんと払ってくれる、相変わらずいい父親だと思う。

でも30万は決して楽ではない。

10万は家のローン返済に消える。

塾を始めとする習い事代だってバカ高い。

生活費として残るのはごく僅かだ。


それに――遺伝子というのは怖ろしい。

元夫に顔が似ている長男は、頭脳も彼似で成績が良すぎて。

おまけに今でも欠かさず月1回の面会で会う父親に影響されたのか

「将来はお父さんみたいに医者になりたい」

と言ってきた。


「国立大ならいいわよ」

OKしたが、国立の医学部に入る為に一体どのくらいの塾代がかかるんだろう。

多子世帯だから授業料はかからないかもしれない。

でも家から通える国立医学部なんて限られている。

東大、科学大、千葉大……どれも現実的ではない偏差値だ。


だからといって、一人暮らしをさせる余裕が我が家にあるだろうか

もちろん私立の医学部なんて論外だ。


それでも長男だけなら何とかなるかもしれない。

だけど次男も長女も同じ道を選んだら?

将来を考えれば考えるほどお先真っ暗になる……



それなのに、元夫は呑気に再婚したらしい。

彼と同じ病院に勤める昔の同期からその話を聞かされ……私はぎゅっと唇を噛み締めた。



「……誰と再婚したの?私も知ってる人?」

2年前に新しく来た女医だから知らないと思う」

「女医…」

「めちゃくちゃ美人でね、独身の医師は皆狙ってたよ。何でバツイチなアンタの元夫が選ばれるかね〜」

「……」

「まぁ長野先生、真面目だし優しいし子供好きだし、気持ちは分からなくもないけど。ていうかアンタ何で離婚したの」

「……」

「もし女医との間に子供が出来たら、アンタ養育費減らされちゃったらどうする〜?」

「え…っ」


養育費は私が無職の時に計算された金額だ。

離婚して看護師に復帰してからも同じ金額、ずっと30万を払い続けてくれてる彼だけど……もし計算し直したいと言われてしまったら、確実に養育費は減らされるだろう。



……本気で困る……



どうかどうか、再婚相手との間に子供が出来ませんように!と願う日々が始まった。








でも、それから4年間そんな兆候はなく、養育費も減らされることはなかった。

そしてついに長男の大学受験シーズンがやってくる。

結果は22敗。

国立大は地方医学部を狙ったのにも限らず、共通テストの点数が奮わなく前期も後期も不合格。

都内の私立大学は2校合格したものの、学費は国立の10倍近くかかる。

受かるかどうかも分からない来年にかけて予備校に通わすか、かき集めて奨学金も限界まで借りて無理して私立に行かすか……究極の二択だった。

しかも次男も高1、長女は中3だ。

二人とも有名私立に通っている為、我が家は既に火の車なのに……



「予備校に1年だけ通ってもいい?」


来年国立が受からなかったら、もう医者は諦めるという。


「…分かったわ。お父さんには自分で言いなさい」

「分かった」


その日のうちに長男は元夫に報告しに行った。

夕方、長男が涙目で帰って来た。

手に通帳を持って――



「…お父さんと奥さんが、もし金銭的な理由だけで浪人するつもりなら……現役で私立に行きなさいって」

「……え?」


何と養育費とは別に、元夫はずっと教育費を積み立ててくれたらしい。

通帳にはとりあえず初年度に必要な600万もの金額が記載されていた。


以降5年間、毎年4月に同じ金額を振り込んで来た元夫。

次男、長女の時も同じように振り込んでくれて、結果子供達は奨学金も貰わずに希望通りの進路に進むことが出来た。

最後の最後までいい父親だった。



そして最後の養育費が振り込まれたその日、私は彼に電話をかけた。

既に別れてから17年もの歳月が流れている私達。

結婚した時研修医だった彼も、もう52歳。

あの再婚した奥さんと一緒に、5年前にクリニックを開業したらしい。



『実は僕だけの力じゃないんだ』

と真実を教えてくれる。

『僕一人だったら、あの時長男には予備校に行ってもらってたと思う

でも妻が足りない分を援助してくれたんだよ――と。


「そうだったの…」

『長男が産婦人科医の道に進んだのも、妻の影響かもしれないね』


元夫の奥さんは産婦人科医だという。

長男からは進学したT医科大で「尊敬する先生に出会えた」と聞いていた私。

その先生を追って、今は埼玉のレディースクリニックで働いてる。

そしてそこで出会った看護師と交際している長男。

夏には結婚予定だ。


「全く、ナースと結婚するなんて…」

『僕らが言える立場じゃないけどね』

「そうね…、その通りだわ」

『まぁレディースクリニックの院長の奥さんも看護師みたいだから、僕らというよりは、そっちに影響されたのかもしれないけどね』

「そう…。ところで、結婚式にはあなたも来るんでしょう?」

『うん。嬉しいことに妻と一緒に招待されていてね』

「あら、じゃあ挨拶しないとね。元妻ですって」

『ははは…、お手柔らかに』



とりあえず、奥さんには子供達の母親としてお礼を言わないといけない。

あなたのお陰で、子供達が希望通りに進学出来ました、ありがとう――と。

まさか「夫の子供達は私の子供同然なので」と返されるとは思ってもなかったけど。



とりあえず今日は長男の晴れ舞台だ。

勤めているレディースクリニックの院長夫妻も出席してくれているから、真っ先に挨拶に行かなくちゃね――

 

 

 

END

 

 

 

いや、もう、人ってどこでどう繋がってるか分かりませんね!怖ろしや〜

院長夫妻とはもちろん、櫻井君と愛ちゃんですよー。

ラストはもう32歳の愛ちゃんです(笑)

小学生・保育園の子供が3人くらいいそうですね〜v

 

結局巡り巡って自分に返ってきた感じですかね?

春華さんの為に取り立てた慰謝料が、学費になって、医者になった後自分の病院で勤務してくれてますので。

櫻井君にめちゃくちゃしごかれてそうですけどねw

でも尊敬する先生にマンツーマンで指導して貰えて、長男君は内心喜んでるかと〜。

尊敬し過ぎて結婚相手も櫻井君と同じで看護師を選んじゃう長男君27)なのでした!