●START●





佐為が一人暮らしを始めた――



「お帰りなさい。防衛おめでとう…佐為」

「ただいま。ありがとう」


高校を卒業し、佐為が実家を出てから一週間が経った。

引越し後、初めての遠征となった今回の十段戦・第三局。

無事防衛となり、翌日長野から帰宅した恋人に、私は直ぐ様玄関で祝福のキスをした――


「……着替えて来て?お昼ご飯の準備してくるから」

「うん…」


キッチンに戻り、途中になっていた料理を再開する。

何だか顔が熱い気がした……


(お帰りなさい…だなんて、何だかまるで一緒に住んでるみたい……)


ドキドキ胸が鳴り響く。

佐為と結婚したらこんな感じなのかなぁ…と勝手に妄想が膨らんだ。



「いい匂い」


スーツから私服に着替えてきた佐為がダイニングにやってきた。

と思ったら、そのままこっち(キッチン)にやってくる。

でもって後ろから抱き締められた……


「一週間ぶりだな…」

「うん…そうだね」

「今夜は泊まっていける?」

「うん…いいよ。まだ春休みだし」

「よかった」


チュッと私のうなじにキスをして、彼はご機嫌にダイニングに戻って行った。



5分後。

昼食が完成し、一緒に「「いただきます」」と食べ始めた。

引っ越し初日に泊まった時はまだ荷物が全然片付いてなかったから、こんな風に手料理を振る舞うことは出来なかった。

前に作ってあげたのはいつだっただろう?

一年以上前な気がする。


(相変わらず綺麗な食べ方……)


お箸の使い方もおばあ様仕込みな彼は、思わず見惚れてしまうくらいいつも上品に食べる。

じっと見られてることに気付いた彼が、

「美味しいよ」

と料理の感想を言ってきた。


「よかった。でも味付けとか気になることがあったらいつでも言ってね。進藤家の味も作れるようになりたいから」

「そんなものないから好きに作ってくれて構わないよ。実家の夕飯なんてほぼお手伝いの楠さんが作ってるし…」

「楠さんの料理は好き?」

「好きだよ」

「じゃあ…目指せ楠さん、だね」

「はは」


――でも私は知ってる。

実は楠さんは塔矢家の味付けを再現しているのだ。

そしてそれは、幼少期をほぼ塔矢家で過ごしていた佐為好みの味なのだ。

(やっぱり楠さんより、本家本元の明子おばあ様に習わなきゃね)

今度お父さんとまた塔矢門下の研究会に参加した時に、こっそり教わっちゃおうと思った。



佐為が一人暮らしをスタートした今、彼の妻になる為の花嫁修行はもう始まってると言っても過言じゃない。

料理、洗濯、掃除その他諸々の家事はもちろんのこと。

夜のお勤めだって、私はしっかりこなすつもりだ。


「佐為……」

「……ん………」


寝室のベッドでキスを繰り返す。

そのまま体を倒されて、夜の営みがスタートする。

一週間ぶりに私に触れる彼が、今夜どのくらい求めてくるのか分からないけど。

(満足するまで付き合ってあげよう…)



「佐為……大好き」

「僕もだよ……」



いつかきっとプロポーズしてくれると信じて――








―END―








十段防衛の翌日、帰宅した日の佐為と精菜の1コマでした〜。
ここまで尽くしてプロポーズされなかったらどうしましょうw
大丈夫、プロポーズまであと4年です(笑)

さて、明子さんの友人である楠さん。
進藤家で働くことになった彼女は、やはり奥様(アキラ=塔矢家)の味付けをマスターしようと、明子さんに事前に教わっていました。
だから進藤家のメンバーはお手伝いさんの料理を気に入っているのです。

佐為が一人暮らしを始めたのと入れ違いに、双子はヒカアキと暮らすことになりました。
また行洋さんと二人きりの生活になって暇を持て余し始めた明子さんなので、精菜が
「お料理教えてくれませんか?」
と来るのはもちろん大歓迎なのですよ!!

そんな感じのおまけ話はこちら↓↓




〜〜ある日の研究会 in 塔矢家〜〜


芦原「あれ?そういえば精菜ちゃんどこ行っちゃったんですかね?」

緒方「フン どうせまた明子さんのところだろう」

芦原「明子さんの…?」


芦原さんが台所を覗くと、明子さんと一緒に夕飯を作る精菜の姿が。

でもって研究会の後、塔矢門下全員でいただくことに。


明子「皆さんいかがかしら?精菜ちゃんがほとんど作ってくれたのよ」

芦原「すっごく美味しいよ〜。精菜ちゃんいつでもお嫁に行けるね」

精菜「///」

芦原「ねぇ?先生?」

緒方さん、芦原さんをギロッと睨みます。

明子「本当、精菜ちゃんが佐為さんのお嫁さんになる日が待ち遠しいわぁ」

二人の関係を何も知らなかった行洋さんはご飯を喉に詰まらせて噎せます。

芦原「明子さんも二人の関係ご存知なんですね〜」

明子「ホホホ もちろん。二人が小学生の頃から知ってるわよ」

精菜「///」

明子「精菜ちゃん、佐為さんは煮付けも好きだから、今度また一緒に作りましょうね。お魚の下処理の仕方から教えてあげるわ♪」

精菜「ありがとうございます」



孫嫁と料理するのも楽しいわ〜♪と張り切る明子さんなのでした★
明子さんはELEMENTARY LOVERで二人が泊まりに来た時から既に気付いているのですよw

更に後日を書いたおまけの佐為視点もよろしければどうぞ!

おまけ(佐為視点)