●START 〜side:佐為〜●





思ったより取材が早く済んで、昼からフリーになった。

今日は一日オフのはずの精菜を家に誘ったら

『ごめんね。先約があるの』

と断られる。

仕方ないので、今日は久しぶりに祖父の家に行くことにした――






ピンポーン


玄関のベルを鳴らすと、珍しく祖父が出迎えてくれた。

「おじいちゃん、一局打って欲しいんだけど」

「もちろん構わないよ」


一緒に祖父の部屋に向かう途中、他には誰もいないことに気付く。


「おばあちゃんは?」

「買い物に行ってる」

「そうなんだ」

「精菜ちゃんと」



――え?



「精菜と…?」

「ああ」

「……」


(一体どういう組み合わせ?)

(というか、僕の誘いを断ったのは祖母と約束してたからなのか?)






碁盤を挟んで祖父と向かい合い、早速ニギる。

祖父と打つ時はずっと先手を持たせて貰ってたけど、僕がタイトルを取った以降はニギることになった。

祖父が先手に決まり、

「「お願いします」」

と一緒に頭を下げた。

一手目を待っていると、珍しく祖父が口を開いた。


「…佐為君は精菜ちゃんと交際してると聞いたんだが」

「え?!う、うん……まぁ」


まさかこの祖父にそんなことを聞かれるとは思ってなかった。

何だか無性に恥ずかしくて顔の温度が上がる……


「長いのか?」

「うん……僕が小5の時からだから、8年くらいかな…」

「将来は一緒になるつもりなのか?」

「うん……精菜がハタチになったら」

「そうか…、なら私からも緒方君に挨拶しておこう」

「え?!別におじいちゃんがしなくても…っ」

「4年後に私が生きてる保証はどこにもないからな。出来る時にしておくよ」

「……」


そう言われてしまうと……返す言葉はない。

その後は無言で打ち合った。


中盤に入ったところで、

「「ただいまー」」

という祖母と精菜の声が玄関の方から聞こえた。


「あら?お客様かしら?」

「げ、佐為の靴…っ」


「げ」って何だよ…と内心突っ込む。


「あら佐為さんの靴なのね。ちょうどいいじゃない、本人に食べて貰えて」

「それはそうですけど……」


どうやら僕の為に何かを作ってくれるらしい。

楽しみに待ちながら祖父と一局打ち終えて、検討すること約一時間。


「お夕飯出来ましたよ」

と祖母が呼びに来た。

居間に移動すると、エプロン姿の精菜がいた。

ちょっと拗ねている。


「先約って、おばあちゃんだったんだな」

と意地悪く言ってやる。

「僕といるよりおばあちゃんと料理してる方が楽しいってこと?」

「だ、誰もそんなこと言ってないじゃない…。佐為こそ、何で突然いるの?」

「ここは僕の祖父母の家なんだから、いつ来ようが僕の勝手だろ」

「まぁまぁ二人とも。痴話喧嘩は後にして先にいただきましょう。お料理が冷めちゃうわ」


祖母に促されて、僕達は向かい合って座った。

「いただきます」

と4人で夕飯を食べ始める。


「どう?佐為さん。美味しい?」

「うん…すごく」

「精菜ちゃんがほとんど一人で作ったのよ。私は後ろで指示しただけ」

「……へぇ」

「佐為さんの為に精菜ちゃん、私にお料理を教わりに来たのよ」



――え?



精菜の顔は真っ赤になってしまっていた。

「……佐為に内緒で上手くなりたかったのに」

とガッカリ気味に呟いていた。

だから僕に見つかって拗ねていたらしい。



(……可愛いなぁ……)



祖父母のがいなかったら僕は間違いなく直ぐ様精菜を抱き締めていたことだろう。

僕の為に僕の家の味を習得しようとしてくれる、その気持ちが嬉しかった。





夕飯の後はお茶を飲みながら少しだけ談笑する。

そのあと僕と精菜はお暇することになった。

タクシーが到着する頃には僕はいつもの眼鏡にマスク姿になっていて、

「佐為さんも大変ね」

と祖母に笑われてしまった。


「精菜ちゃん、またいつでもいらしてね」

「ありがとうございます」

「佐為さん、ちゃんと精菜ちゃんを送り届けてね」

「うん」


二人でタクシーに乗り込み、祖母に手を振って出発した。

行き先はもちろん――僕のマンションだ。


「送り届けてくれるんじゃなかったの?私、明日学校あるんだけど?」

「………駄目?」


精菜の左手をそっと握った。

たちまち彼女の顔が赤く染まる。


「……ちょっとだけなら、いいよ」

「よかった」



マンションに着いて、部屋に入った途端に僕は彼女を抱き締めた。

玄関で熱くて深いキスを繰り返す。


「……ん…ん……」


ちょっとだけと言ったけど、絶対にちょっとじゃ済まない気がした。

溢れてくる精菜への愛が止まらなかったからだ。


「精菜……」


キスを解いた後、彼女を寝室に引っ張って行った。

ベッドに倒して、また何度もキスをする。

唇にも頬にも額にも耳にも首筋にも――


「……ぁ……佐…為……」

「…今日は会えないと思ってたから…すごく嬉しいよ」

「ん……私も」

「夕飯もすごく美味しかった…。僕の為に練習してくれてありがとう」

「佐為……」

「精菜と結婚する日が待ち遠しいよ…」

「本当…?楽しみ?」

「うん……すごくね」

「私も…。それまでに私、今よりもっともっと上手くなるね」

「それは楽しみだな」


精菜がハタチになるまであと4年。

4年後ももちろん楽しみだけど。

でも今、この瞬間も楽しむ為に僕は愛撫をスタートさせ、そして夜遅くまで彼女を愛しまくったのだった――





―END―



精菜はもちろん朝帰りになっちゃったよ★
行洋おじいちゃんに「佐為をよろしく頼む」と挨拶されて、複雑な心境になる緒方さんなのでした!