●ELEMENTARY LOVER 1●


「ねーねー、お父さんたちには幼なじみっていた?」

「は?」


妹のその唐突な質問に、父は一瞬目をしかめ、母はそんな父に横目で視線を移した―。


「今日ね、クラスメートからマンガが回って来たの。幼なじみの女の子と男の子がね恋に落ちてね、最後は結婚までしちゃうって話」

「はは、有りがちだな」

「お父さんには幼なじみの女の子いたの?」

「ああ、一人いたな」

「好きになったりした?」

父がブハッと飲んでたお茶を吹き出した―。


「なるわけねーじゃん!幼馴染みっつー時点で、恋愛対象から除外してたし!」

「どうして?」

「どうしてって……嫌じゃん。忘れたい痛い過去も全部知ってる奴なんてさ」

「でもキミとあかりさんはすごく仲が良かったよね…」

母がトゲのある声でボソッと呟いた。


「あれ?アキラ焼きもち〜?」

そんな母に嬉しそうに父は肩に手を回し、引き寄せた。

頬にキスをして、途端に赤くなった母を今度は両手で抱き締めてる。


「オレには小6ん時からアキラがいたからな。他の女なんて目に入らなかったんだよ」

「つまんないの〜」

妹が溜め息を吐いて、食事の続きをしだした。


「お母さんにはいなかったの?」

「うん。生憎一人もね」

「私も〜。幼なじみなんて精菜ぐらいだし」


すると妹はハッと気付いたように僕の方に顔を向けてきた。


「お兄ちゃんも精菜と幼なじみだよね?ね、精菜のこと好き?」

「…ばーか」

「私、精菜がお義姉ちゃんになるの大歓迎だよ?」

「オレも精菜ちゃんが娘になるの大歓迎〜」

「………」







同じクラスの妹と違って、僕が精菜に会える機会はものすごく少ない。

うちに遊びに来てる時か、祖父の家に緒方先生に連れられて来てる時に偶然会うぐらい…か。

それと今日のような月に一度のクラス委員集会の時もだ。


「佐為!」

「精菜、早いな」

「うん。佐為いつも来るの早いから…。私も給食早く食べて飛んで来ちゃった」


僕も精菜もクラス委員長。

開始20分前ではまだ会議室は誰も来てないので、二人きりの時間を過ごせる。


「え?彩ったらおじさん達の前であの話したの?」

「うん。かなり焦ったー。お父さんなんて精菜が娘になるの大歓迎〜なんて言うし…」

「あはは、おじさんらしい」

可愛く笑った精菜の額にキスしてみた―。


「…佐為って、顔も性格もおばさん似なのに、こういうことだけはおじさん似だよね」

「伊達に11年間あの両親と一緒にいてませんから」

「すっごいラブラブ夫婦だもんね〜佐為ん家は」

「精菜ともそうなれるといいな…」

「…うん」

誰かが来ないうちに、そっと唇を重ねた―。



もう1年以上も前から続いてる僕と精菜の関係。

まだ周りの誰にも言ってない。

どうせバカにされるか、冷やかされるのがオチだし。


でも小学生だって真剣に恋ぐらいする。

僕は精菜が好きだ。

この世の誰よりも―。


もうしばらくは秘密だけどな――










「じゃあ明日と明後日はお祖父ちゃん家に泊まってね」

「分かった」

「お母さん、お土産は八ツ橋ね。生の方」

「はいはい」


明日から両親揃って京都であるイベントを手伝いに行ってしまうので、僕と彩は祖父の家に預けられることになった。

こういうことは月に最低でも1回はある。

洗濯も料理も困らない程度には自分で出来るので、別にもう祖父の家に行く必要はないと思うんだけど……やっぱり一応まだ僕らは小学生だから心配らしい。

信用されてないわけじゃないけど、僕らが祖父の家に居てくれると、両親は安心して仕事に専念出来るらしいのだ。

でも祖父と打ちまくれるので僕的には万々歳だ。


「精菜も誘おうかな〜」

「え?」

彩の呟きにドキッと反応してしまった―。


「だってどうせお祖父ちゃんはお兄ちゃんが取っちゃうでしょ?私も打ち手が欲しいもん」

「はは、合宿っぽくて楽しそうだな。オレの方からも緒方先生に頼んでやろうか?」

「わ、ありがとう!お父さん!」


早速妹と父は似た者同士、勝手に盛り上がり始めた。

僕は少し溜め息が出る。

精菜も泊まる…のか。

そうか…精菜も…。

うーん…。










「精菜、一緒にお風呂入ろ♪」

「うん!」


金曜の午後――祖父の家でいつものお泊まり会が始まった。

ただいつもと違うのは……精菜も一緒ってことだ。


「じゃあお布団敷いてきますね」

朝食の下拵えを終えた祖母が隣りの客間に行ってしまった。

一体どういう感じで敷くつもりだろ…。

3つ共並べて敷くのかな…?

川の字みたいに?

出来たら2対1で二部屋使ってくれないかな…。

僕は二人とは別の部屋がいい…。


祖父と対局中だというのに、僕はそんな心配ばかりしていた。

だけど終局してその客室を覗いてみると……見事に川の字になっていた。


「はぁ…」


祖母は年頃の男を何だと思ってるんだろう。

それとも11歳はまだまだ子供だとでも?

これでももうちゃんと精通もあるんだ。

精菜だって……生理があるらしい。

(この前廊下で彩と話してるのを偶然聞いてしまった)

ちゃんと大人の機能を備えた僕らを一緒の部屋に寝かすなんて……………どうしよう。





入れ違いで入ったお風呂から出ると、二人は既に布団に横になり…コソコソ何やら話していた。

「あ、お兄ちゃん」

「なに話してたんだ?」

「ナイショ〜。女の子だけの会話だもん♪ね、精菜」

「うん」

精菜が恥ずかしそうに可愛く笑った。

パジャマ姿だし、普段の可愛さの3倍増しだ。


「僕は…こっちの端の布団か?」

「うん。精菜が真ん中だよ」

「…普通繋がりから考えたら彩が真ん中だろ」

「だって……寝相悪いんだもん」

「あ、そっか」

順番に納得はしたものの、精菜が隣りだということに少し心臓が高鳴る。

今日…寝れるかな?

背を向けて端の端で蹲ったら何とかなる…か?


僕が布団に入ると精菜はジッとこっちを見つめてきた。

「……なに?」

「あのね、6年生って来月修学旅行なんだよね?」

「あー…うん。京都・奈良だったかな」

「お兄ちゃん!お土産は八ツ橋ね!」

「八ツ橋八ツ橋うるさい奴だな!昨日お母さんにもねだってなかったか?!」

「だって好きなんだもん♪」

「…私は京都っぽい和風のお土産がいいな」

「うん…」

彩から見えないように布団の中を通して、精菜が僕のパジャマを引っ張ってきた。

その手をそっと掴んでみる。


「ちょっとお手洗い行ってくるー」


彩が部屋を出た途端、精菜は僕に顔を近付けてきた。


「…告白されてもちゃんと断ってね?」

「え?うん、もちろん…―」


優しく重なった唇を少しついばんで…少し生々しいキスをしてみた―。



「佐為…好きだよ」

「ん…僕も…―」














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