●SAKURA 1●
※このお話はSCHOOLで初登場した内海さくらの話です。
私は小2の時におじいちゃんから囲碁を教わった――
元プロだったおじいちゃん。
教え方が上手かったのか、私にもそれなりに才能があったのか。
一年も続けると、それなりの棋力になった。
「さくら、一度大会に出てみないかい?」
とおじいちゃんが言った。
「大会…?」
そこで私は夏休みに行われた子供囲碁大会に出場した。
まずは埼玉大会。
この大会で優勝すると全国大会に進めるらしい。
埼玉大会当日。
私は順調に勝ち進んだ。
この大会は棋力別ではない。
年齢別のみ。
つまりこの大会で優勝すると、純粋に同年代で「埼玉一」強いということになる。
そして私は見事優勝し、埼玉一の称号を手に入れた。
よし、この勢いのまま全国一になってやる!
全国大会当日。
私はドキドキしながらお母さんに付き添われて日本棋院にやってきた。
日本棋院は囲碁を打つ者にとっては聖地だ。
私も一度は来てみたいと思っていた場所だった。
大会の会場には各都道府県代表の子供達、その保護者、スタッフ、そしてお手伝いのプロ棋士も大勢いた。
「おはようございます、進藤先生」
「あ、おはようございまーす」
――え?
私の横を通り過ぎたのは、紛れもなくあの進藤本因坊。
まさかタイトルホルダーがいるなんて思ってもなかった私は、一気にテンションが上がる。
「今日はどうされたんですか?」
「付き添いです。息子が大会に出てるので」
「ああ!中学年の部の東京代表の進藤君って、やっぱり進藤先生の息子さんでしたか」
進藤本因坊の横にいる男の子――進藤佐為君に私が初めて会った瞬間だった。
(カッコいい…)
本因坊とは全然顔立ちが違う。
どちらかというと本因坊の奥さん、塔矢王座に似ている。
両親共にタイトルホルダー。
やっぱり棋力もスゴいんだろうか。
時間になり大会がスタートした。
私の一回戦の相手は熊本代表。
さすがに向こうも熊本一というだけあって、一筋縄ではいかなかった。
持ち時間もほとんど使いきって、ギリギリ半目勝ち。
何とか勝てた。
すぐに二回戦がスタートする。
次の相手は岩手代表。
さっきの子よりは弱かった。
私の4目半勝ちだった。
三回戦の相手は高知代表。
これまた強い。
事実途中まで負けていた。
でも盤面が進んで複雑になってきたところでやってきたチャンスを私は見逃さなかった。
(勝てた……)
そして準々決勝。
私の前に座ったのが、さっきの男の子――進藤佐為君。
(やっぱりカッコいい……)
ドキドキしながらニギって対局が始まった。
でもそんなドキドキはすぐに消え失せた。
真っ青になった。
全然敵わなかった。
まるでおじいちゃんと互先で打ってるような感じがした。
何これ。
本当に小学生?3年生?
つか、プロでしょ?
途中からはもう…指導碁をされてる気分だった。
「……ありません」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました……」
その後も覗かせてもらったけど、準決勝の相手の大阪代表の子も、決勝戦の相手の千葉代表の子も全然歯が立ってなかった。
圧勝の楽勝で彼は優勝した。
帰り際、私は玄関で話してる本因坊と彼の横を通り過ぎた。
「佐為、どうだった?久々の大会は」
「つまらなかった」
――え?
「もう大会はいいや。お父さん、帰ったら一局打ってよ」
「分かった」
ショックだった。
ただ悔しかった。
これからもっともっと頑張って強くなりたい。
そしてもう一度――彼に打ってもらいたいと思った。
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