●SAKURA 2●





私は小6になった――



埼玉の中でも東京寄りに私は住んでいる。

最寄り駅から二駅先はもう東京都。

だから私と同じ塾に通ってる子は東京の小学校に通ってる子も多かった。


その塾で出会ったのが――別宮さんだった。




「さくらは中学どこにするの?もう決めた?」

「うーん…まだ悩み中。朋美ちゃんは?」

「私はもうそのまま海王中に上がるつもり」

「海王中かぁ…。海王中って確か囲碁部強いんだよね…?」

「え!さくら囲碁に興味あるの?!」

「え?うん…」

「私も実は囲碁超好きなんだ!今度一緒に打とうよ!」

「うん…!!」


嬉しかった。

私の周りに囲碁を打つ子はいなかったから。

おじいちゃんも亡くなって、更に私は孤独になってしまった。

だから中学校は囲碁部のある中学にしようと決めていた。


その週末、朋美ちゃんの家で早速打つことになった。



パチッ パチッ パチッ……



朋美ちゃんは私の予想以上に強かった。

もしかしたら院生試験も受かるんじゃないだろうか?

それくらいの強さ。


「負けました…っ」

朋美ちゃんが頭を下げてきた。


「さくら、あんた強すぎじゃない?まさか院生?」

「え?ううん…」

「才能あるよ!プロ試験受けてみたら?」

「無理だよプロなんて…」

「そうかなぁ…」

「朋美ちゃんは囲碁部に入るの?」

「入るよー。もちろん!」

「じゃあ私も入ろうかな」

「え?」

「私も海王受けて、囲碁部入ろうかな…」

「うん、そうしなよ!一緒に入ろう!」




こうして私は第一志望を海王中に決めた。

そして見事合格。

しかも朋美ちゃんと同じクラスにもなって、一緒に囲碁部に入りに行った。


女子囲碁部は各学年8人くらいで、男子の3分の1くらいしかいなかった。

まずは顧問の先生に棋力を計られて、私は一年生なのに見事主将の座を手に入れた。

ちなみに副将が三年の部長。

三将が朋美ちゃんになった。

しかも朋美ちゃんは女子囲碁部の副部長にもなった。

(棋力からしたら私の方が上なんだけど、性格上私は辞退した)


放課後、毎日囲碁がまた打てるようになって私は幸せだった。

私に敵う女子部員はいなかったので、私は男子とも打ち始めた。



ある日、対局相手だった三年の先輩が私に言った。


「内海さん知ってる?今年の新入生に進藤本因坊の息子がいるらしいよ」



――え?



「今年プロ試験受けるってウワサ本当かな?受かったら一度くらい指導碁来てくれないかなぁ」



――プロ試験?



その日の帰り、朋美ちゃんに聞いてみた。


「…朋美ちゃんは知ってた?進藤本因坊の息子が海王中にいるって…」

「進藤?もちろん知ってるよ、小学校も一緒だし」

「え?そうなの?」

「E組でしょ?クラスの子が確かそうウワサしてた」

「え?ウワサ…?」

「アイツ顔だけはいいからね〜。いや、頭もいいか?とにかく小学校の時から王子とか言われてモテモテでさ〜。修学旅行では20人には告られて振りまくってたね」

「…そうだったんだ」

「今年ついにプロ試験受けるらしいよね」

「プロ試験……」

「ま、アイツなら間違いなく一発合格だろうけど」

「一発合格……」


私は女子囲碁部の中では一番強い。

おそらく院生にだってなろうと思えばなれる…と思う。

でもきっとプロ試験に受かるだけの力はない。

一緒に受けたところで私は受からない。


「あ、ウワサをすれば」

「え?」


朋美ちゃんの声に顔を上げると――進藤君がいた。

私の前を友達と通り過ぎた彼は、紛れもなくあの進藤佐為君だった。



(カッコいい……)



身長もだいぶ伸びて、もう170近くあるんじゃないだろうか。

更にイケメンに成長してる彼を目の当たりにして、私は顔が直ぐ様赤くなるのを感じた。


「あれ?まさかさくらまで進藤の毒牙にかかっちゃった?」

「べ、別に…」

「隠さなくてもいいよ〜。私、慣れてるから」

「え…?」

「進藤に一目惚れする女子に」

「……」

「アイツを落とすには一筋縄じゃいかないよ〜きっと。そもそも女子と話すこと自体が嫌いだしね、進藤って」

「……そうなんだ」

「そうだなぁ…興味持ってもらうには、まずは同じ土俵に立たなくちゃね」

「でも私の棋力じゃプロ試験なんて…」

「まぁねぇ。あ、でも特別採用枠あるじゃん。アレ狙えば?」

「……女流枠?」

「そう。あれって11月からでしょ?それなら夏の囲碁部の大会も出れるし、一石二鳥じゃん!」

「そうか、そうだよね。そうしようかな」

「うん、そうしなよ〜」



こうして私は女流枠に絞ってプロ試験を受けることにした――











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