●7 DAYS LOVERS 10●
家に帰る途中にコンビニに寄って、夜食やら明日の朝食やら色々買い込んだ。
「朝食ぐらい僕が作るのに…」
「マジ?じゃあ明後日からは作ってもらおうかな。明日は朝早いしさ…」
「進藤の方は明日何戦?」
「オレは本因坊戦の二次予選準決勝。相手は…六段だったかな」
負けられねぇ―と進藤が意気込んだ。
僕だって負けない―。
十段戦のリーグ入りまであと少しだ。
約束通り帰ってからはまた打ってもらった。
一局目はお互い無言で打っていたけど、二局目は少し話しながら打つことにした。
「オマエって料理出来んの?」
「出来るよ…―少しは」
お母さんが帰ってくる度に少しずつ教えてもらってるし…。
でも家族以外の人に食べてもらうのは始めてだな。
進藤の口に合うだろうか…。
なんせ僕がお母さんに習ったのは和食ばかりだ。
「キミって和食より…洋食の方が好きだよね?」
「まぁな。あ、でも朝食は和食にしてくれよ?」
「どうして?」
さっきコンビニで買った朝食はパン類ばかりだったのに。
「えー…だって憧れじゃん?好きな子に味噌汁作ってもらうのって」
進藤が照れながらそう言ったので、僕の方も一気に顔が真っ赤になってしまった。
好きな子って…。
「じゃ、じゃあ作るよ。口に合うかは分からないけど…」
「おぅ!」
オマエの作ったもんだったら何でも食うし〜、と進藤は意気揚々だ。
頑張らないと…。
「明日芦原さんに習ってこようかな…」
「今、何て?」
ボソりと呟いた言葉に進藤が食いついた。
「え?あぁ…、芦原さんて料理上手だから教えて貰おうかなって…」
「ダメだ」
え…?
「どうして…?せっかく少しでも美味しいもの作ってあげようって…」
「ダメなものはダメ!」
何だそれは。
意味が分からない。
人がせっかく…。
「芦原さんてお前のこと好きなんじゃねーの?前々から思ってたけど、オマエにちょっかい出しすぎ!」
その言葉にムッとなった。
「何言って…芦原さんは友達だよ!」
「友達って、あの人いくつだよ?!あんなに歳の離れた人が友達になんてなれるもんか!」
「なれるよ!君だって伊角さん達と友達じゃないか!」
「伊角さんとは4つしか離れていねぇ!」
「芦原さんとだってたった7つだ!」
「7つはダメなんだよ!」
「意味が分からないぞ進藤!」
お互い睨み合って一歩も引かない。
これじゃ検討の時と同じだ。
「あーもう!何で分かんねーかな!オマエと話してたらイライラする!」
「僕だって!」
「とにかく!芦原さんに教えてもらうのだけは禁止だからな!」
「何で僕がキミのいうことを聞かなくちゃいけないんだ」
「……っ」
その後はお互い無言で続きを打った。
怒りにまかせてバチバチ打ってたので、いつの間にか早碁になっていた。
「はい!終わり!オレの負け!投了!」
進藤がまだ戦えるのにあっさり投了して、ガチャガチャ碁石を片付け始めた。
「進藤、検討は?」
「知るか!一人ですれば!」
そう言って立ち上がってドスドス部屋を出ていった。
「挨拶ぐらいちゃんとしろ!」
「はいはいありがとーございました〜」
投げやりに適当に言うのが廊下の向こうから聞こえた。
あの態度はなんだ!
すごくムカムカする。
「はぁー…」
大きなため息をついて、心の怒りを沈めさせる。
何でこんなことになったんだっけ…。
そうだ、芦原さんのことだ。
進藤はそんなに僕が芦原さんと仲良くするのが気に入らないんだろうか…。
そういえば昼間もそのことを気にしていたな…。
でも君にだって友達がたくさんいるじゃないか。
僕は一度もそのことに口を出した覚えはないぞ。
それなのに僕だけ言われるのは不公平じゃないのか?
そう考えているうちに進藤が部屋に戻ってきた。
「風呂出たぜ。さっさとお前も入ってこいよ」
「分かってるよ」
もう出たのか…。
ずいぶん早いな…。
僕も急いでお風呂場に向かった。
進藤はいつまであの様子なんだろう。
居心地が悪い。
でも僕が悪いわけじゃないから、絶対にこっちから折れてやるもんか。
お風呂を出て先ほどの部屋に戻って来たら――進藤の姿はなかった。
どこに行ったんだ…?
台所にも居間にもいないし…。
僕の部屋かな…。
「あ…」
居た。
もう布団に入って、携帯をいじっていた。
嫌だな…。
ここに居るってことは今晩もするつもりなんだろうか…。
正直…したくない。
こんな嫌悪感を持ってる状態で抱かれたくない。
「僕…客間で寝るから」
そう言って部屋を出て行こうとした途端――
手を掴まれた―。
「放してくれ…」
「オマエ約束守れよ」
進藤の睨みつけているような目が怖い。
「オレはちゃんと打ったぜ」
「…今はしたくない」
「何それ。したくないって言えば諦めてもらえると思ってんのか?」
そうは思ってないけど…。
「…キミだって嫌だろ?嫌がってる相手に無理やりするのは…」
「全然。むしろそそるし」
その言葉にカッとなった。
「この…っ、変態!離せ!」
いくら腕を引っ張っても全く解けない。
反対に更に引っ張られて――
そのまま押し倒された――
両腕を力いっぱい握られて身動きが出来ない。
進藤の眼が思いっきり僕を睨んで見下ろしている。
「オマエ見てるとめちゃくちゃにしてやりたくなる…」
え…?
更に強く両腕を握られて――唇を押しつけられた―。
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