●AFTER SCHOOL DATE●





クラスの女の子が、放課後に彼氏と帰ってるところを目撃した。

私がきっと生涯体験することのない放課後の制服デート。

心の底からそのクラスメートを羨ましく思った。



くすっ



一緒に帰っていた精菜に笑われる。


「彩も京田さんと制服デートしたいの?」

「……そりゃね」

「ストレートにお願いしたらいいのに」

「……」


もし私が正式な彼女ならお願いすることも簡単だっただろう。

でも実際今の私はただの『師匠の娘』ポジションだ。

京田さんの学校からここまで一体何十分かかるか分からないのに、わざわざ遠回りして来て貰うことなんて出来ない。

ただでさえお兄ちゃんに「あんまり京田さんを振り回すなよ」と釘を刺されているのに……



「京田さんあっという間に卒業しちゃうよ?もう高3でしょ?」

「うん…」

「進路決まってる3年生って1月からほとんど学校行かないらしいしね」

「そうだけど…」

「……」


精菜が携帯を取り出した。

「私もたまには佐為と制服デートしようかな♪」

とお兄ちゃんに直ぐ様連絡し出した。



(いいなぁ……)



精菜はもちろんお兄ちゃんの正式な彼女だ。

何の躊躇いもなく誘える立場の彼女が羨ましい。


「彩も私達のデートにちょっと付き合ってね。佐為と二人きりだと目立つから」

「えー…もう、仕方ないなぁ…。その代わり奢ってよね?」

「分かってるって。パフェでもポテトでも何でも好きなだけ頼んでいいよ」


何が悲しくて兄と親友のデートに同席しなくてはならないんだろう。

しぶしぶ駅前のファミレスに入る。

この時間はほぼ海王の生徒で埋め尽くされているこのファミレス。

ドリンクバーを飲みながらポテトをつまみ、精菜と駄弁ること10分。

急にざわっと周りが反応し出したので、入り口の方に視線を向けると――お兄ちゃんがいた。


「佐為こっち♪」

「お待たせ、精菜」


お兄ちゃんが精菜の横に座る。


「ごめんね、急に呼び出して。何か急に制服デートしたくなっちゃって」

「全然いいよ。僕もたまには外で精菜と会いたかったし」

「宿題見てくれる?」

「うん」


学年トップのくせに宿題くらい瞬殺でしょ、とツッコミたくなる。

妹の前なのに気にせず自分達の世界に入ろうとする兄に、我慢出来ず冷たい殺気を送ってやる。


「彩、そんなに睨むなよ?」

「だってお兄ちゃん達私を出しにしてるし…」

「感謝してるよ、お前無しじゃ精菜とこんな目立つ場所でなんか絶対会えないし」

「じゃあ私の宿題も見てよね!」

「彩にはちゃんともっといい家庭教師呼んであるから」

「……え?誰?」

「さてね」



しばらくして、また入り口の方がざわめき出す。


『見て見てあの制服』

『きゃーvv』


私も振り返ると、信じられない人物がそこに立っていた。

私と視線が合った後、その人が一目散にこっちにやってくる。


「ごめん、遅くなって」

「きょ、きょきょきょ……京田さん…!!」


そう――やって来たのは紛れもなく間違いなく私の好きな人、京田さんだった。

しかも制服姿。

突然やって来た放課後デートのフラグにもちろん私の脳はパニックだ。


「すみません京田さん、急に呼び出して」

「構わないよ、何も予定なかったし」


京田さんが私の隣に座った。

この4人掛けのテーブルはそんなに広くない。

あまりの近さに私の心臓はドキドキしすぎて破裂しそうだった。


(京田さんの制服姿…やっぱり超カッコいいvv)


ボーっと見とれていると、

「彩ちゃんは宿題ないの?」

と顔を覗きこまれる。


「あ、あります…!」

慌てて鞄からプリントを取り出した。

「へー方程式かぁ。懐かしいなぁ」

「私…あんまり数学得意じゃなくて。京田さん後で合ってるか見てくれる…?」

「いいよ、もちろん。ひとまず自力で解いてみて」

「うん」


京田さんの横でドキドキしながら私はシャーペンを動かし出した。

たまにチラリと見ると、横でコーヒーを飲みながら詰碁を解いてる彼がいた。


(真剣な顔もやっぱりカッコいいなぁ…vv)



ちなみに前を見ると、とっくに宿題を終えた精菜がお兄ちゃんとマグ碁で打ち始めていた。

パッと見真面目な対局に見えるけど、私にはイチャイチャしてるようにしか見えない。

それはもちろん、明らかにおかしい箇所があるからだ。

何故かお兄ちゃんが左手で打ってるのだ。

右利きの兄が左手で打つ理由なんか一つしかない。

右手が塞がっているからだ――精菜と手を繋いでいて!!


(しかも恋人繋ぎ!しかもたまに精菜の太ももとかにも手を伸ばしてたり。ヤラシイヤラシイ超イヤらしい!お兄ちゃんのエッチ!!全部見えてるんだからね?!)



「彩ちゃん、解けた?」

「う、うん…一応」

「どれどれ」


京田さんにプリントをチェックされる。

目の動きを追うと、彼がものすごい早さで添削してるのが分かる。


(やっぱり頭いいんだなぁ…)


その制服が伊達じゃないことが分かる。

さっきからチラチラと、何人もの海王の生徒が通り過ぎに京田さんを見ていく。

もちろんお兄ちゃんも見られてるけど、それと同じくらい皆京田さんをも見ているのだ。

彼が着ている制服は、そのくらい有名な超難関進学校のものなのだ。


「ここだけ直したら後は合ってるかな」

「あ、はーい」


凡ミスを指摘され、私は慌てて消しゴムで消して正しい答えを記入した。



「ね、京田さんドリンクバー取りに行こ?私次はコーラにしよっかな」

「この寒い日によくコールドドリンク飲めるな」

と笑われる。

「えー、だって何か熱いんだもん」


どさくさに紛れて彼の腕に手を絡めた。

たちまちドキドキと更に体が熱くなった気がした。

冷たい飲み物でも飲まないと緊張で汗だくになりそうだ。



「ね、今日は来てくれてありがとう…。私ね、京田さんとこんな風に制服で放課後過ごしてみたかったの…」

「俺もだよ」

「……へ?」


思わぬ返答に声が裏返る。


「そう…なの?」

「うん。俺あと何回制服着れるか分かんないし。俺も彩ちゃんと記念に一回くらい放課後を過ごしたかったから」

「そうだったんだ……一緒だね」


腕に回していた手を、私は少しずつ降ろして……手を繋いだ。

京田さんも優しく握り返してくれる。

見上げると、彼の頬も私と同じくらい赤く染まっていた。



(早く付き合いたいなぁ……)

(早く16歳になりたい……)



二年半後を心待ちに、私達は二人してコールドドリンクをお代わりして席に戻ったのだった――








―END―








以上、放課後制服デートなお話でした〜。
付き合ってないのに既に何かもうラブラブな彩と京田さんです。
京田さんは高3の7月に彩のことを好きだと自覚するので(DISCIPLEおまけ参照で)、この話はもう自覚した後ですね。














〜〜おまけ〜〜

(京田さん視点です)



帰りのHRも終わり、教室を出ようとしたところで携帯が震えた。

確認すると、進藤君からLINEだった。


『今日学校が終わったら、海王中の最寄り駅前のファミレスに来て貰えませんか?』

『了解、着替えたらすぐ行くよ』

と返事をしたら、直ぐ様もう一文送られてくる。

『いえ、制服のままで』


制服のまま?

何でだろ……急いでるのかな?

首を傾げてると、更にもう一文。


『彩が京田さんと制服デートしたいらしくて』

と。


せ、制服デート……?!

どうしよう……俺も滅茶苦茶したい、かも。

だって彩ちゃんの制服姿…滅茶苦茶可愛いし。


もう高3の12月の今、俺に残された学生の時間は少ない。

今しか出来ないデートをする為に、俺は指定されたファミレスに急いで向かったのだった――



―END―



佐為もたまにはいい仕事するね!
よろしければ佐為と精菜の話もどうぞ!

おまけ(side:精菜)