●YOUR HOUSE, YOUR ROOM 5●


朝食を食べた後、取りあえず掃除機をかけて、洗濯をして、碁盤の用意も終えた―。

まだ8時…か。

お風呂にでも入ろうかな。

昨日の夜も入ったけど……念のためにもう一度隅々まできれいにしておこう。


「はぁ…」

服を脱いだ途端溜め息が出た。

なんて子供の体型なんだろう…。

胸だって小さいし…括れも微妙だし…お尻の肉付きも少ない。

この前の遠征イベントで温泉に行った時、一緒になった女流の人達の体と大違いだ。

特に桜野さんなんてすごかった。

あれこそ大人の女性の体の鏡だ。

男の人にとってはあれくらいの方が嬉しいよな…絶対。

進藤ってこの体のどこに欲情するんだろ。

やっぱり進藤っておかしい…。



ピンポーン
ピンポーン


髪を洗っている途中で玄関のチャイムの音が聞こえた。

えぇ?!ウソ!もう来たのか?!

慌ててお風呂から出て、適当に拭いた後、素早く着替えた。

髪も濡れたままの、化粧水さえ付けてないスッピンの顔で進藤を出迎えることになってしまった。

最悪…。



「はーいっ」

ガラッ


「アキラ!おっはよ〜!」

「お、おはよ…」

戸を開けた瞬間、いきなり進藤は抱き付いてきた。

「あー、一晩がこんなに長く感じたの初めてだったぜ」

「そ、そう…」

いきなりの言動に目を丸くしている僕に、彼は容赦なく頬に何度もキスしてきた。

「あれ?アキラ髪濡れてる…?」

「お風呂に入ってたんだ…」

「乾かしてやるよ」

「あ…ありがとう…」

いえいえ、と笑顔で濡れた髪にキスしてきた。


進藤は手慣れた手つきでドライヤーとブラシを上手く使いながら、丁寧に乾かしてくれている。

人に髪を触られるのって…好きだ。

美容室で洗ってもらうのも、乾かしてもらうのも、昔から好き―。

「オマエって髪細いなー」

「そうかな…?」

「うん、すげーサラサラしててキレイ」

そう言って髪やらうなじやらにまたキスをされる。

進藤って……キス魔?


「こんなもんかなー」

カチッとドライヤーを止めて、最後にもう一度ブラシで梳いてくれた。

「ありがとう」

「お礼はいいからさー…―」

後ろから抱き付かれて、耳元で囁かれる。

「―……しねぇ?」

「……」

たちまち顔中に熱が集まって、真っ赤になってしまった。

「本当はさ、午前中は碁打つつもりで来たんだけど―」

「じゃ、じゃあ…打つ?」

「無理。オマエ風呂上がりで色っぽ過ぎんだもん。我慢出来なくなった」

「……そう」

「うん、だからしよう?」

「………うん」

小さく返事をすると、体を立ち上がらされた。

「オマエの部屋どこ…?」

肩に手を回されて、逃げれない状態で聞いてくる。

覚悟を決めて――部屋に案内することにした。


向かう途中の廊下で、一番重要なことを聞いてみる。

「進藤……持ってる?」

「ん?何を?」

「その……アレ…」

「アレって?」

「……」

更に顔が湯だってきた。

正式名称を言わなくちゃいけないんだろうか…。

口に出したくないんだけど…。

「その……アレだよ」

「うん?」

「………避妊の…」

「あぁ、ゴム?うん、持ってるぜ」

ギャーーーッ!!

そんなハッキリ言わないでくれ!

更に赤くなる顔を勢いよく両手で覆ってしまった。

――でも…良かった。

ちゃんと用意してくれてたんだ…。


「…買うの…恥ずかしくなかった…?」

「え…?何で?」

何でって……。

普通は恥ずかしいもんじゃないのか…?!

困惑している僕の顔を見て、進藤は当たり前のように言ってきた。

「あのさ…恥ずかしいとか恥ずかしくないとかいう以前に、なかったら出来ねぇじゃん」

「そりゃ…そうだけど―」

「オマエも妊娠したら困るだろ?」

「………うん」

「オレも困るし」



え……?



そ、そうなんだ…。

進藤は僕が妊娠したら困るんだ…。

そりゃ…普通に考えたらそうなんだろうけど……

でも…

やっぱり…

そうハッキリ言われてしまうと…ショックだ…―。


「塔矢…?」


この方法は100%じゃない…。

もしかしたら…出来ちゃうかも…。

そしたら進藤は……おろせって言うのかな…?

そうだよね…。

この歳で子持ちになるなんて…御免だよね…。

まだまだ遊びたい年頃だもんね…。

おろせって言わなくても…きっと出来ちゃったら僕のことなんて捨てるよね…。


「塔矢っ!」


お父さん達にも怒られて…

勘当されちゃったらどうしよう…


「塔矢って!」


僕一人で育てていけるかな…

無理だよ…

周りからも何て言われるか…

棋士なんてもう続けれないんじゃ…


「おいっ!塔矢ってば!!」

進藤が僕の肩を揺すって、思い詰めてる僕を正気に戻そうとしてきた。

「…進藤、…やっぱりやめよう…?」

「え?なん…で?」

「だって…だって…出来たら困るんだろう…?」

「だから避妊するんじゃん」

「それでも、もしも…という場合がある」

「そん時はそん時だよ」

「ぼ、僕はおろさないからなっ?!キミに捨てられて認知されなくても絶対に産んでやる!」

「何でそうなるんだよっ!!」

進藤が呆れ気味に僕の頭を髪ごとくしゃくしゃ撫でてきた。

「オレってそんな最低な奴に見える?」

「……」

見えないこともないけど………て言うのはマズいかな…。

「そりゃオレらってまだ15だし、結婚も出来ねぇし、出来たら普通困るだろ?」

「……うん」

「だけどな、たとえ出来ちまってもオレはおろせなんて言わねぇよ。むしろ何がなんでも産ませる」

「え…?」

「オマエも知ってるだろ…?中絶ってすげー体に負担かかるんだせ?下手したらもう二度と子供なんて出来ない体になっちまうんだ」

「……」

「オレはアキラにそんな危ないことさせたくない。するぐらいならたとえ15だろうがもっと若かろうが、産んだ方が絶対いいんだ」

「それは…そうだけど…」

「でもそれがどういう結果を招くかなんてオレにも想像つかねぇ…。きっと世間の目とかも半端じゃないぐらいキツいんだろうな…」

「……」

「でもそれも含めて、何もかもからオマエを守ってやる覚悟はあるよ?オレ、オマエのこと本気だし―」

「……進藤」

「だからアキラは何も心配しなくていいから。責任は全部オレが取る―」

「……ありがとう」



『安心して抱かれて…?』



そう言ってきた進藤の顔は真剣だった―。











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