●YOUR HOUSE, YOUR ROOM 4●


唇をついばまれる一方――手はブラの上から胸に触れて…優しく揉まれている。

これはもう…キスどころじゃないかもしれない。

彼の手の動きが気になって、そっちにばかり意識が集中する…。

進藤の方も同じなのか、徐々に唇に力がなくなって、離されてしまった。

代わりに今度は鎖骨のあたりに押しつけて…手が背中のフォックを外そうと探り始めて――…



ガチャ





「ヒカルー!帰ったわよー!」






!!






玄関が開く音とその声に驚いた僕らは、慌てて体を起こした。

「やべ…もう帰って来た」

「えっ?!おばさん…?」

進藤が頷いて、ベッドから下りた。

制服ではなくジャージに着替え始めている。

どうしよう…。

僕も何か着た方が…。

着ていた制服に手を伸ばそうとしたら――進藤が手首を掴んでそれを阻止した。

頬に優しくキスをして――

「…ちょっと待ってて?」

と耳元で囁いて部屋を出ていった。


「母さんお帰りー。遅かったじゃん」

「仕方ないわよ。会場が横浜で遠かったんだから。ヒカル、夕飯は?」

「食べたよ。明日朝一で仕事あるからもう寝るから」

「…ちょっと待ちなさい」

「………」

「………」


あれ…?

今までハッキリ聞こえてた進藤とおばさんの声が急に聞こえなくなった。

部屋のドアを閉めたのかな…?

でも微かに啀み合ってる声が聞こえる。

ものすごく嫌な予感が…。

進藤には止められたけど、やっぱり制服着ておこう。



ガチャ

「…塔矢?」

数分後…進藤が罰の悪そうな顔をして戻ってきた。

僕が制服に着替えてるのを見てか、ほっと胸を撫で下ろしている。

「…ゴメン。駅まで送るよ」

「え?あぁ…、うん…」

進藤の後に付いて階段を下りると、下で進藤のお母さんが待ち構えていた。


え?

えぇ?

どういうことなんだ??


「またいらしてね、塔矢さん」

「はい…、お邪魔しました」

僕の方には笑顔を向けてくれたおばさんだけど、進藤を明らかに睨み付けている。


バタン


「……」

「……」


しばらくお互い無言で歩いていたけど、家から数十メートル離れた所で、進藤がいきなり

「ゴメンっ!!」

と謝ってきた。

「母さんに速攻オマエがいることバレた」

「はは…」

もう笑うしかない。

「…おばさん凄いね。どうして分かったんだろう…」

「玄関に靴置きっ放しだったじゃん?あれが一番の敗着」

「あ、そうか…」

「色々問い詰められてもう最悪。あーあ、せっかくイイところまでいってたのに」

イイところって…。

ふとさっきの様子を思い出して顔が赤面し出す。

そうなんだよね…。

さっきまで僕…進藤と…。

思い出せば思い出すほど顔がゆでダコになっていく僕を見て、進藤が肩に手を回してきた。

「…な、オマエん家で続きしねェ?」

あ、最初っからそうすれば良かったんだ、と進藤は一人納得している。

「…早く帰った方がいいと思うよ?おばさんきっと、痺れをきらして待ってる」

「いいんだよ、どーせ部屋に連れ込んでたことはバレちゃったんだし。未遂だろうが事後だろうが今更変わんねーよ」

「……」

「いいだろ…?」

優しく促して来る進藤の手を払った。

「やっぱりダメだよ…。もう9時過ぎてるし、今から僕の家に行ってたんじゃ終わる頃には終電なくなってるよ…」

はっ!

何を言ってるんだ僕は!

終わる頃って何?!

何が終わるんだ?!

真っ赤な顔になって自分の言動にあたふたしている僕に、お構いなしに進藤は再び口を耳に近付けて――囁くように言ってきた。

「じゃあ泊めてよ…」

「だ、だからダメだって!無断外泊を快く思う親なんていないだろ?!おばさんの為にも今日は大人しく家で寝てくれ!」

「ちぇっ…分かったよ」

了解してくれてホッとしたのも束の間、進藤が笑顔で続きを口にした―。

「じゃあ明日しような」

「え…えぇ?!明日?!」

「そ。何時がいいかな?お昼頃オマエん家行ってもいい?」

お昼?!

昼間っからするつもりなのか?!

あ、でも夜だとどっちみち外泊になってしまうから…明日にする意味がなくなるのか…。

「んー…やっぱり朝から行くよ。碁も打ちたいしさ」

「そ、そうだね。じゃあ碁盤用意して待ってるよ…」

「うん」

その後進藤が小声で、布団の用意も忘れずにな、とか言ってきたので、また僕の顔が真っ赤になってしまったのは言うまでもない。






――翌朝

いつも通り朝6時に起きた僕は、朝食を作りながら今日のことについて悩んでいた。

どうしよう…。

進藤が来るのは9時か10時あたりだとして、今から何をしよう…。

掃除は普段からしてるから、今日も掃除機ぐらいでいいだろう。

進藤はお昼ご飯とか夕飯も食べていくつもりなんだろうか…。

だとしたら買い出しに……いや、ダメだ。

スーパーの開く時間には進藤は来てるかも。

取りあえず碁盤の用意と…………布団?

待て待て待て、そんなの用意してたら、いかにもヤる気満々って感じじゃないか。

でも進藤は用意しといて、と―。

進藤はする気満々なのかな…?

だろうな。

昨日途中でやめちゃって、すごく悔しがってたし。

でも両思いになったその日とか次の日にしちゃうのって…どうなんだろ。

それによく考えたら僕らはまだ中学生だぞ?

早過ぎのような気が…。

そりゃクラスで一人や二人は経験してる子が出てくる歳だとは思うけど……進藤としてしまったら僕もその部類に入るのか。

ちょっと……嫌だ。

…とはいえ、昨日の彼の様子を見る限り……断るのは難しそうだ。

僕も昨日は覚悟を決めていたんだし……別にいいか。

どうせいつかはすることになるんだろうし―。


問題は……それがどういうものなのか全く知識がないってことだ。

僕は女だからそんなイヤらしい本とか読んだこともないし…。

ネットで調べるにも下手したら有料サイトとかに入ってしまいそうで、ちょっと気がひける…。

保険体育の時間に物理的なことは習ってるから、どれをどうすれば子供が作れるというぐらいは知ってるけど…。

いや、待てよ。

あれは悪魔で子供を作る行為なんだ。

まだ中3で、結婚も出来ない僕らは当然出来てしまったら困る。

つまり避妊をしなくてはならない。

…進藤はちゃんとしてくれるんだろうか…。

いや、先生が男任せにしてはいけないとか言っていた記憶がある。

じゃあ僕が用意…………出来るか!

恥ずかしくて絶対買えないっ!

最近は薬局のみならずコンビニでも売ってるけど……それでも恥ずかしい。

いや、あれだって100%の避妊率じゃないんだ。

どうせするなら100%のを……。

何だったかな…と教科書を読み返してみた。


薬系……は無理だな。

病院でしかもらえないし、副作用が怖い。

器具系……は絶対嫌だ。

…結局あれが一番手っ取り早くて簡単なんだな…。

だけど僕の方で用意なんて出来るわけがない!


…そうだ。

進藤が用意してくれてたら、することにしよう。

用意してなかったら今日もお預けってことで。

うん、そうしよう。











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