●You are me, I am you 9●
……酷い碁だった……
ガックリと肩を落として、僕は進藤の部屋の方向行きのメトロに乗っていた。
もちろん勝った。
勝ちはしたけど、お世辞でも進藤の碁とは言い難い内容となってしまった。
申し訳なさすぎて彼には絶対に見せられない。
勝敗を聞かれたら、勝ったとだけ言おう。
内容を聞かれたら、適当に流そう。
そんなことを考えながら僕はスーパーで買い物をし、進藤の部屋の台所に立った。
それにしても…生活感がないキッチンだ。
物がない。
一応調理道具は揃ってるみたいだけど……うわ、埃がたまってる!
冷蔵庫の中をチェックすると、案の定飲み物ぐらいしか入っていなかった。
反対に冷凍庫には冷凍食品がぎっしり。
何となくそんな気はしてたけど……やっぱり進藤は料理をしないらしい。
「お〜いい匂い♪」
夜の9時を過ぎて進藤が帰ってきた。
食卓に並んだ料理の数々を見て目を輝かせている。
「オレの好きなものばっかりだ♪」
「そう?よかった」
「いただきまーす」
「いただきます」
進藤と向かい合って食べ始めた。
もぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐ。
テレビも付けてないから、ひたすら食器があたる音と食べる音だけが聞こえる。
下手に話すと今日の内容を聞かれそうで怖かったから、僕はひたすら無言で食べ続けた。
「あ〜うまかった。ご馳走さま」
「口に合ってよかったよ」
「オレもう風呂入って寝るな。10時になったら眠たくなる体だし、もう9時半だし」
「あ…ああ」
進藤は何だか僕から逃げるようにバスルームに向かってしまった。
まるで、僕と話したくないみたいに…目も合わさずに。
何も聞かれたくないみたいに…そそくさと。
もしかしたら……進藤の方も散々な結果だったのか?!
「進藤!」
「な、なに?」
ギクッとしたように、恐る恐る進藤が振り返った。
「今日…どうだった?」
「な、何が?」
「緒方さんとの対局」
「あ、ああ。問題なし。バッチリうまいことオマエらしく負けておいた」
「そう…」
「そ、そういうオマエは?」
「も、もちろん勝ったよ。当たり前だろう」
「そっか、よかった。じゃ、オレ、風呂入るから」
バタンッ
………やっぱり何かおかしい………
僕も人のことを言えないけれど、今の進藤の受け答えは挙動不審すぎる。
何かあったのか?
まさか………バレた?
「進藤っ!!!」
「うわっ!」
バンッとバスルームのドアを勢いよく開けると、既に服を脱いで裸になった進藤が慌てて体を隠していた。
なぜ隠す必要があるんだ、僕の体なのに。
「きゅ、急に開けるなよな。塔矢のエッチ!」
「そんなことより進藤、まさか緒方さんに……バレた?」
彼の肩が一瞬だけビクッと反応。
「バレたんだな?」
「バレてない!バレてないバレてない!!……たぶん」
「たぶん?」
「だって緒方さん…、意味深な発言ばっかするんだもん。検討の時だって今日のオレの打ち方を『進藤みたいな』とか、『進藤の真似』とか…他の人に説明するし」
「そう…。でもバレてはないんだな?」
「…たぶん。でももう一回打ったらバレるかも…。…ごめん」
「そうか…。いや、大丈夫。お互い次の対局は来週だし、きっとその頃には元に戻ってるよ」
「…だといいけど」
何だか自信なさげな進藤。
本当は僕も自信はない。
一体いつになったら戻るんだろう。
進藤の体のままだと、このままだと、満足な碁が打てないよ………
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