●You are me, I am you 8●






「おはよう、アキラ君」
「おはようございます、緒方さん」

オレが5階に行くと、緒方先生は対局室横の休憩所でタバコを吸っていた。
ちぇっ…いいなぁタバコ。
オレも吸いたいぜ。
でも吸ったのがバレたが最後、絶対塔矢に殺される気がする。
戻るまで大人しく禁煙してやるか…。

「今日はよろしくお願いします」
「ああ」

ペコリと塔矢らしく軽くお辞儀をして、オレは先に対局室に入っていった。
下座に座って、軽く深呼吸。
はぁ…緊張する。
左手が妙に手持ち無沙汰だ。
扇子を持ってない対局なんて久しぶり。
佐為との唯一の繋がりが無くなったみたいで…少し寂しかった。

…なぁ、佐為。
オレ塔矢になっちゃったよ。
一体これからどうなると思う?
でも佐為なら
『何とかなりますよ』
…とか、笑顔で言ってくれそうな気がした。
アイツの顔を思い浮かべると、ちょっと緊張が解れた気がした。








「時間になりました」

立会人の合図のもと、塔矢にとっての大一番がスタートした。

「お願いします」
「お願いします」

緒方先生が黒でオレが白。
この対局は新聞にも棋譜が載る。
塔矢が納得するような碁を打ってやらないとな…。

序盤は彼女らしい石の繋ぎで広げてみた。
チラッと緒方先生の顔を見ると、いつものポーカーフェイス。
この顔が崩れないうちはバレてない証拠だろう。
いや、バレるもんか。
塔矢とはプロになりたての頃からほぼ毎日打ってるんだ。
彼女の打ち方、考え方、好み、癖、誰よりも熟知してるつもりだ。









「アキラ君、昼飯一緒にどうだ?」

休憩時間になると、緒方先生が誘ってきた。
塔矢が対局中何も口にしないことは有名だけど………オレは食いたいぞ。

「緒方さんの奢りならご一緒しますよ」
「はは、俺が割り勘にした時があったか?」
「冗談です。行きましょう」

ボロが出ないよう、悪魔で塔矢っぽく対応。
周りを騙すのって意外と楽しい。


「何が食いたい?」

本当はラーメンと言いたいところだが、我慢。

「お蕎麦かな」
「麺類は控えるとか言っていたのにいいのか?」
「あ…」

そうだった。
そういえば塔矢の奴、ダイエットしてるとか言ってた気がする。
しなくていいのに。

結局和食の店に入ることになった。
何が悲しくて真昼間から刺身なんか食わなきゃならないんだか。
あ〜〜ラーメンが食いたい。
今日の相手が倉田さんなら良かったのに!
(有無を言わさずラーメン屋に引っ張っていかれるから!)




「彼氏とは上手くいってるのか?」
「え?あ…、まぁ……はい」

たぶん。

「もう付き合って三ヶ月ぐらいか?」
「そう…ですね」

たぶん。

「キスぐらいしたのか?」
「は?!」

キス??
ししししてるわけねーじゃん!!
(オレの希望だけど!)

「えっと…秘密です」
「はは、秘密か。もうそんな恥ずかしがる歳でもないだろう」
「一応プライバシーですから」
「アキラ君が俺に隠し事をするとはな。彼氏が出来ると女の子は変わってしまうものかな」
「やだなぁ…緒方さん、大袈裟ですよぉ」

でも実際…どうなんだろう?
エッチはしてないって言ってたけど、キスぐらいはもちろんもうしちゃったのかな?
三ヶ月だもんなぁ…中学生でも普通してるよなぁ…。

はぁ…と溜め息をつくオレを見て、緒方さんがニヤニヤ笑ってきた。


「ま、焦って自分を見失わないことだな」
「え…?」
「恋愛もそうだが、今日の対局もだ。アキラ君らしくない。進藤に影響されたか?」


え??








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