●You are me, I am you 7●






「オッス、進藤」
「え?あ…うん、おはよう和谷君」
「は?何で『君』付けなんだよ」
「あ、そっか…」

僕と違って進藤の交友範囲はものすごく広い。
棋院に着くなり次々に声をかけられて、正直戸惑ってしまった。
しかも和谷君や伊角さんぐらいなら僕にでも分かるけど………えっと、この人何て名前だったかな…
慌てて進藤を腕で突っついた。
「本田さんだよ、本田さん」
コソッと耳打ちしてくれる。
「あ…そうか、思い出した」
でもボロが出ないよう適当に挨拶だけして、すぐに離れた――





「ったく、本当に大丈夫かぁ?頭いいんだから同年代の棋士の名前ぐらい覚えとけよな!」
「だって…」

進藤に空き部屋に連れ込まれて、注意されてしまった。

「オレもう5階に行くから、あとは一人で何とかしろよ」
「うん…」
「もう一度言っとくけど、絶対に負けるなよ」
「ああ」
「あ、そうだ。これやる。先に帰ってていいから」

渡されたのは進藤の部屋の鍵だった。
確かに進藤の方は今日は持ち時間5時間のリーグ戦。
僕より遥かに長引くだろう。

「分かった。先に帰って夕飯でも作ってるよ」
「お、マジで?ますますやる気出てきたかも♪」
「頑張って」
「おぅ!オマエもな!よっし、気合い入れていくぜ!僕は塔矢アキラ塔矢アキラ塔矢アキラ〜僕僕僕〜〜」

進藤が僕に成り切るよう、繰り返しながら出ていった。
僕はもう少しここで時間をつぶして、開始3分前になったら行こう。




僕の(本当は進藤の)今日の相手は矢田八段。
天元の二次予選だ。
鞄の中から彼の扇子を取り出して、今日の席に向かった。
進藤は低段だった時から、対局の時はいつも扇子を使用している。
僕は普段こんなもの使わないから、何だか違和感を感じるな…。


「おはよう、進藤君」
「おはようございます」
「去年の王座戦以来だね」
「え?あ…そうです…ね」

ふーん?そうだったんだ?
前回はどっちが勝ったんだろう…。
でも、絶対に負けるなよ!というさっきの彼の口ぶりからすると、おそらく進藤が勝ったんだろう。
僕は矢田八段と打つのは初めて。
進藤が勝った相手なら、僕はますます負けられない――


「お願いします」
「お願いします」

時間になり、一斉に対局が始まった。



――進藤だったらどう打つだろう――



それだけを頭において、一手一手慎重に打っていった。
スピードもいつもの僕よりあげている。
進藤は基本的に打つのが早いから。
この前のネット早碁戦では、準決勝で倉田さん…決勝で芹澤先生にも勝って優勝したぐらいだし。
おまけにいつも相手が考えもしない場所に、あり得ないタイミングで石を置いてくる。
何十手も先を読んで、早々に仕掛けてくるのが彼の昔からの棋風だ。
あの天才的な妙手の使い手に、本当に僕がなりきることが出来るのだろうか……









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