●You are me, I am you 6●






何度も来たことのある塔矢の家。

「お帰りなさい、アキラさん」
と、無断外泊したのに全くもって怒ってない明子さんが出迎えてくれた。
塔矢家って門限とか厳しそうなイメージがあるけど、やっぱもう23にもなったら放任ってことなのかな?
…いや、そういえば最初の北斗杯の時には既に塔矢は一人暮らし状態だった気がする。
元々信用されてるってことか。

「こんにちは、進藤さん」
「あの、お母さん、お話しが…」
「あらやだ、進藤さん。お母さんだなんて気が早いわ」
「いえ、あの、そうじゃなくて………僕がアキラなんです」
「………は?」

突然のことにもちろん明子さんは頭を傾げた。
そりゃそうだ。
マンガやドラマじゃあるまいし、中身が入れ代わるなんて普通ありえない。
それでもこの進藤ヒカルの姿をした男の話し方や仕草が塔矢そのものだったから、実の母親は信じてくれたみたいだった。


「じゃあアキラさんの中身が進藤さんで、進藤さんがアキラさんなのね」
「うん…そういうこと」
「分かったわ。でも、それじゃあ今日の対局はどうするの?」

さすが棋士の奥方だ。
やっぱり一番の心配はオレらと同じ碁のことらしい。

「今日はとりあえず進藤になりきって打ちます。進藤は僕になりきって。それで、進藤に僕のスーツを着せなきゃいけないから帰ってきたんだけど…」




塔矢の部屋に移動したオレら。
いつもコイツが大一番に着てる黒のパンツスーツを渡された。
やっとスカートから解放されてホッとなる。

「スーツはもう2、3着は持っていこう。あと下着と普段着と化粧品に…」
塔矢がデカいトランクにぎゅうぎゅう詰めだした。

「アキラさん、進藤さんの家でお世話になるの?」
「うん。こんなこと公にはしたくないから、もう進藤になりきって生活することにするよ。でもいざって時は進藤に助けてもらわなくちゃいけないから…戻るまで彼と一緒にいることにする」
「でも進藤さん確か…今一人暮らしでしょう?」

チラッと明子さんがオレに視線を向けてきた。
ま、異性と同棲するって言ってるようなもんだから、そりゃ娘を持つ親としては心配だよな。

「前に彼氏が出来たって言ってたわよね?それって進藤さん?」

どう答えよう?とオレらは顔を見合わせた。
ま、ここは正直に言っておくのが後々の為だろう。

「えっと…違います」
「あら、違うの?じゃあどなた?」
「また今度紹介します。囲碁関係者ではないので…」

紹介、ね。
絶対にさせるつもりはないけどな。
オレがコイツの姿のうちに、絶対に別れてやる。

「じゃあ進藤さん、彼氏じゃないならアキラさんに変な気は起こさないでね」
「はは。頑張りまーす」
「ちょっ、お母さん!何言って…」
「あら、だって一緒に住むんでしょう?体は異性のままなんだし、母親としては一応言っておかないとね」
「僕と進藤がそんなこと……あるわけがありません!」

んな全否定されると、ちょっと傷つくんですけど…

「あら、言い切ったわね」
「当たり前です!」
「ですって、進藤さん」
「…ふぅん」

明子さんにくすくす笑われた。
何だかオレの気持ち、バレバレって感じ。

「お父さんに言うのはやめておくわね。あの人たぶん理解出来ないから」
「お願いします」
「進藤さんの実家で合宿とでも言っておくわ」



さ、いよいよ緒方さんとの対局だ――









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