●You are me, I am you 2●
なんで??
どうして??
ありえねー!!
塔矢になっちまった!!
「一体どうなってんだよ?!」
「僕にも分からないよ!」
体が入れ代わってしまったオレらは、とりあえず逃げ込むようにオレの部屋にやってきた。
今オレが一人暮らしをしている1DKの狭いアパートの一室。
塔矢の姿をしたオレはソファーで寝込み、オレの姿をした塔矢はテーブルに突っ伏していた。
「ありえねぇ…明日の手合いどうすんだよ…」
「お互い不戦敗は嫌だよね…。もし明日になっても戻ってなかったら…キミになりきって打つしかなさそうだな…」
「やっぱそうなるのか…。で?オマエの明日の対戦相手って誰だよ?」
「…緒方さん。しかも…棋聖リーグ…」
「マジ?!よりによって何でそんな大一番なんだよ〜〜っ」
「キミの方は?」
「確か矢田八段。負けたら殺すからな!」
「キミもね」
「いや、緒方先生にオレ公式戦で勝ったことないんですケド…」
「僕もだ」
「じゃあ勝ったら余計変じゃん…」
こんなことになったのに、オレらの一番の心配はやっぱり碁のことらしくて…笑える。
とりあえず、明日はバレないようにお互いになりきって打ってこよう…ということで決着がついた。
「で?どうやったら戻るんだ?これ…」
「知らないよ。たぶん…同じようにまた高い所から一緒に落ちたら…」
「ぜってぇヤダ!下手したら死ぬって!」
「…だよね」
「つーか、そもそも何で落ちるんだよ!自分に合った靴履けよな!」
くそっ、足痛い!と赤くなってる自分の小指や踵を涙目になってさすった。
この部屋に来る時も、駅からほんの数分歩いただけなのにめちゃくちゃ痛かった。
あの靴絶対に塔矢の足に合ってない。
無理していたのがバレたからか、塔矢は恥ずかしさと申し訳なさで、しゅん…と沈んでいた。
「ったく、彼氏ごときで浮かれ過ぎなんだよ!」
「し、仕方ないじゃないか…!初めて…出来たんだから…。彼女がいなかった時のないキミには…僕の気持ちはきっと分からない」
「……」
ズキン…とちょっと胸が痛んだのが分かった。
確かに、オレには16の時からずっと…彼女という立場の人がいる。
長くて一年、最短記録は一週間。
ぶっちゃけ…あんまり続いてない。
なんでだろう?
とずっと考えてたけど、コイツに彼氏が出来たおかげでその謎が解けた。
塔矢のことが好きだったからだ。
やっぱり好きな奴じゃないと、続けようという気にすらならないんだ。
いつか…いや、早いうちに絶対にオレのものにしてやる――
「今日…家に帰れるかな…」
「オレの姿で?」
「だから困ってるんだろう。普通に考えたら、僕の姿であるキミが僕の家に帰るべきだと思うけど…」
「無理!絶っ対に無理!」
「…だよね。父はともかく母は鋭いから…。やっぱり戻るまでここでお世話になるよ…」
―――は?
「電話だけしてもらってもいい?今日からしばらくキミの家に泊まるって」
「は…はああぁ???本気で言ってんのか?!オレ男だぞ?!許してくれるわけないだろ!!」
「彼氏の名前はまだ言ってないんだ。キミってことにすれば…たぶん大丈夫」
大丈夫??マジで??
しばらく泊まるって…同棲するって言ってるようなもんだぞ?!
どんだけ寛容な親なんだよ!
「いやいやいや、先生達が大丈夫でもオレが大丈夫じゃないっての!!」
「ダメなら僕は今日からホテルにでも泊まるよ。もちろんキミのカードで」
「…は?」
「だって体はキミだしね。僕のカードで払ったら下手したら捕まるだろう?」
「う…」
う〜〜〜マジかよ〜〜〜
二、三日ならそれでも構わないけど、もし一ヶ月、一年と続いてみろ。
確実に破産だ。
冗談じゃねぇ!
……いや、まてよ?
そもそも何でオレ困ってんだ?
好きな女の子を泊めるんだぞ?
もしかしたら彼女を手に入れる絶好のチャンスじゃん!
「し、仕方ねぇな…。分かったよ。泊めればいいんだろ、泊めれば」
「本当?ありがとう!」
塔矢にニコッと笑われた。
嬉しいけど…複雑なのは、塔矢が今オレの体だからだ。
さすがに自分の笑顔にはときめかない。
はぁ…早く戻りたいぜ……
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