●You are me, I am you 13●
いつもの待ち合わせ場所。
駅前留学がウリの語学教室が入っているビルの一階――コーヒー専門のセルフカフェに、僕と進藤はやってきた。
進藤は目立つ入口付近に座り、僕はそこから3テーブル離れた席に座った。
『…ちっ、女を待たせるなよなぁ』
と汚い言葉を発するのがトランシーバー越しに聞こえ、彼を直ぐさま叱る。
「進藤!僕になりきる約束だろう?言葉遣いは特に注意してくれ。もちろん座り方も!僕はそんな偉そうに足を組まない!」
『へいへい、よいしょっと』
進藤が上品に座り直した。
ああ…もう、やっぱりデートなんか賛成するんじゃなかったのかもしれない。
これじゃあ前途多難だ。
『お待たせ、相変わらず早いねアキラちゃん。待った?』
そうこうしてるうちに直弥さんがやってきた。
『こいつが直弥?』
と進藤が小声で聞いてくる。
進藤は直弥さんに会ったことがないので、当然顔も知らない。
「そうだよ。頼んだよ。笑顔を忘れずに」
『ああ…オマエのあの外面笑顔ね。任せとけって』
にっこりと立ち上がった進藤が、
『ううん、今来たところ』
と、早速直弥さんの腕を組んで出口に向かった。
し、進藤!待て!
僕は直弥さんと腕なんか組んだことないぞ!!
もちろんそんなこと分かりきってるのか、振り返って『べー』っと僕に舌を出してきた。
わ、わざとだ。
進藤は今日一日僕の反応を見て遊ぶつもりなんだ!
しまった、やられたぁ!!――と頭を抱え込んだのもつかの間、進藤と直弥さんはどうやら隣のコインパーキングに向かったみたいなので、僕も慌ててタクシーを探した。
「前の車を追って下さい」
と運転手に告げると何故か笑われた。
遊園地までの30分、トランシーバー越しに進藤と直弥さんの会話を伺ってみる。
『晴れてよかったね』
『そうですね〜』
『アキラちゃん、絶叫系は大丈夫?』
『大好きです♪』
――待て、進藤。
僕は遊園地に行ったことがないんだ。
だから直弥さんは誘ってくれたんだ。
なのに『大好き』はおかしいだろう。
でも直弥さんも気付かず
『よかった。俺も大好きなんだ』
と普通に返してきたので…ヨシとしよう。
そして何事もなく遊園地に到着した。
夢にまで見た遊園地だったのに……何が悲しくて尾行しながら一人で足を踏み入れなくちゃならないんだろう…。
しかも進藤の奴は普通に楽しみだしたし。
デートを楽しんでるというよりかは、久々の遊園地を満喫してるって感じだ。
『アキラちゃんって意外とテンション高いんだね』
『直弥さんと一緒だからv』
『嬉しいなぁ』
『手…繋いでもいいですか?』
『もちろん』
し、しかも、演技がやたら上手い。
僕よりよっぽど女らしい気がする。
ソフトクリームを分け合い出した時はどうしようかと思った。
思わず
「き、キミ、男同士で気持ち悪くないのか?!」
とトランシーバーを通して聞いてしまった。
『バーカ、回し食いぐらいフツーに友達ともするじゃん』
と小声で返ってくる。
そ、そういうものなのか…?
確かに進藤はよく和谷君達ともジュースの回し飲みとかをしていた気がするが…。
僕には同性の友達がいないから分からない世界だ…。
(彼氏も初めてだし…)
『次、観覧車乗ろうか』
『はい♪』
絶叫系を散々乗り尽くした後、二人が次に向かったのは観覧車だった。
進藤達のゴンドラの次の次のゴンドラに僕も乗ってみる。
「うわぁ…高いな」
いい景色だった。
遊園地中どころか、その向こうの駐車場や駅、住宅街まで見渡せてしまう。
遥か向こうには富士山も見えている。
夜ならすごくロマンチックなんだろうな…。
直弥さんと乗りたかったな…、と進藤達のゴンドラを恨めしく見上げた。
「!!」
見えた光景に絶句した。
し、進藤と、な、直弥さんが、き、きききキスしてる!!!
『――…ん…』
甘い吐息がトランシーバーを介して聞こえてくる。
な、ななな…
『アキラちゃん…好きだよ』
『僕も…』
なななな…
何をしてるんだキミは!!
僕の直弥さんに!!
しかも男同士で!!
(これもフツーなのか??いや、そんなわけ絶対ない!!)
だが進藤は女としてのセックスを経験したいと言っていた。
ならばキスぐらい当たり前の序の口ということか…?
直弥さんに処女だからって嫌われない為に進藤の提案をOKしてしまったのだから……僕もこれくらい我慢しなくてはいけないのか…?
いや、我慢出来るわけがない!!
もう嫌だ!!
嫌がれても嫌われてもいい!!
これ以上見ていられない!!
観覧車から降りたら、引きずってでも進藤を部屋に連れて帰ってやる!!
『…アキラちゃん、話があるんだ』
『なんですか?』
『――結婚してほしいんだ』
―――え…?
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