●You are me, I am you 12●





嘘つきなオレ。
彼女が初めてで嬉しくない男はいないだろう。
もちろん、それがたいして好きでもない女なら話は別だけど。
(それこそ面倒臭いだけだ)

でも、オレは塔矢が好き。
コイツの彼氏なんかに、絶対にコイツの大事な初めてはやらない。
絶対にオレが貰う。
オレが代わりにデートして、さっさと別れ話をして決着をつけてやる―――


「塔矢、携帯貸せよ」
「い、嫌だよ。何する気だ」
「いいから貸せ」
「あ…っ」

塔矢から無理矢理携帯を奪ったオレは、着信履歴から『成海直弥さん』をセレクトした。
早速ピッっと発信ボタンを押す。

プルルルル…プルルルル…

「し、進藤っ!」
「シッ、黙れって。お、出た」

『もしもし?アキラちゃん?』
「あ、直弥さん?昨日はせっかく誘ってくれたのにごめんなさーい。実は時間が取れそうなの。遊園地…連れてってくれる?」
『もちろんだよ。いつがいい?明後日の土曜とかどうかな?』
「うん、大丈夫」
『じゃあ朝の10時に待ち合わせしよう。場所はいつもの所で』
「分かった。楽しみにしてるね」
『うん、俺も』

ピッと通話を終了した。

「完璧♪」
「な、何が完璧だ!一体どういうつもりなんだ!」
「だから言ったじゃん。オマエの彼氏と女のセックスを楽しんでこようと思ってさ♪」
「ふ…ふざけるな!僕の体で勝手なことは許さない!」
「ふーん。オマエはそう言うけどさぁ、彼氏的にはどうかなぁ?」
「………え?」
「付き合ってもう三ヶ月なんだろ?向こうもそろそろかなって期待しちゃってるかもよ?期待裏切っていいのかよ?いつまでも渋ってるとフラれるぞ」
「そ、そんな…。直弥さんはそんな人じゃ…」
「バーカ、男ってのは皆そうなの。下半身で出来てる生き物なの。させてくれないって分かると次行っちゃうの」
「………」

絶句状態の塔矢。
コイツって本当、何にも知らないんだな。
んなわけねーじゃん、世の中には結婚までしないカップルだっているってのに。

「オレなら演技してやれるから安心しろよ」
「演技…?」
「そ。バージンじゃない演技。処女は嫌がられるからな。でもオレなら経験者になりきれる」
「そ、そうなの…?」
「ああ。伊達に今まで何人もの女と付き合ってないからな。任せろ」
「…そしたら直弥さんに嫌われない?」
「嫌われない嫌われない♪もっとラブラブになれるぜ!」
「……分かった。それなら仕方ないな。キミにお願いするよ」
「おう!任せておけ!」

…バカだこの女。
面白すぎる。

よーし、塔矢の了承も得たことだし、明後日のデートで絶対に彼氏と別れてきてやる。
悪いな、塔矢。
でもオマエにはオレがいるから安心しろよ♪









翌日は二人とも予定はなかったので、一日囲碁漬けで過ごした。


そして更に翌日――土曜日。
オレは準備の為、朝から塔矢の持ってきたトランクを漁っていた。


「服はこれでいいかな〜♪」
「えー…せっかくのデートなのに地味じゃないか?こっちのスカートの方が可愛いのに…」
「絶対ヤダ。スカートはスースーして気持ち悪いし。それに遊園地だぜ?動きやすさ重視で選んだ方がいいんだって。靴だってスニーカーが一番!遊園地にヒールのある靴で来る奴の気がしれねーよ」
「…なるほど。さすが何百回もデートしたことあるだけのことはあるな」

…うるせーな。
そんなにしてねーよ。(たぶん)

ちなみにメイクもほぼスッピンだ。
テメェとのデートに化粧なんてする価値ねーんだよ、とさりげに教えてやる為だ。
ははは、さーてどういうシチュエーションでフってやろうかなぁ♪
考えるだけで楽しくなってくる。


「ところで待ち合わせ場所ってどこだ?『いつもの所』とか言ってたけど…」
「ああ、語学教室のあるビルの一階のカフェだよ。直弥さんとの待ち合わせはいつもそこだ」
「ふぅん…」
「今日は僕も後ろから付いていくから」

はい、これ――とイヤリングを渡される。

「…なんだこれ」
「昨日夕飯買いに行くついでに秋葉原で買ってきた。イヤリング型のトランシーバーだよ」
「はあ??」

昨日やけに買い物から帰ってくるのが遅いと思ったら、こんなもん買いにいってたのか…。

「ってか、オマエ会話盗聴する気か?!」
「もちろん。それにこれはキミの為でもあるんだよ?直弥さんに僕しら知らない話をされたらキミは答えられないだろう?これで助言してあげるから」
「ええー…マジかよ」
「嫌なら今日のデートはキャンセルだ」
「ちっ、仕方ねぇな…」

しぶしぶオレは耳にイヤリングを付けた。
こんなものよく売ってたな…とブツブツ言いながら。

塔矢に会話を聞かれるとなれば速攻でフることは出来ない。
いかに自然に別れるか、だ――











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