●W WILLFUL 1●
僕と関係を持ってから、進藤は他の人には触れなくなった。
それは付き合う前も後も変わらない。
当然だよね。
キミの欲求は全部僕が受け止めてるんだから―。
浮気なんてする暇もないぐらいに…。
…だけどもし僕が拒否したらキミはどうする?
それでも他の人には手を出さない?
ずっと僕だけを見てくれる?
ねぇ進藤…
…試してもいい…?
「塔矢ぁ〜」
いつものように対局の後、キミの部屋にお泊まりする僕。
そんな僕に甘い声を出してくっついて来るキミ。
顔中にキスをして、体に手を伸ばしてくる。
その手を僕は―――払った。
「ごめん進藤。今朝から月のやつが来てるんだ」
「…そっか」
それなら仕方ないな、と彼は直ぐさま寝る準備を始めた。
「んじゃお休み〜」
軽く頬にキスをしてきて、僕の隣りですやすや眠り始めた。
同じ部屋どころか同じベッドで眠る僕に手を出せないのはどんな気分?
初日の今日は何も感じてないのかな?
さぁ進藤…
…キミは何日我慢出来るんだろうね…
今月もついにこの時がやって来た。
男には分からない女だけの生理現像。
これから1週間近くは出来ない…かな。
でも今月の塔矢はそれなりに機嫌がいいみたいで安心した。
月によっては痛みがすごいらしく、始まった1、2日はずっとイライラしてる。
側に寄ろうもんなら蛇のようにシャーっと睨んできて、対局でさえ途中で投げ出し、ベッドにくるまってしまうこともある。
今月は一緒に眠ることを許してくれてるだけでも、まだマシかもな―。
「…ん…―」
珍しく夜中に目が覚めた。
横を見ると塔矢が眠っている。
可愛いな…。
こいつの寝顔はいつ見ても可愛い。
初めて見たのはもう4ヶ月以上も前……初めてした翌朝だ。
それから遠征がある時以外、毎晩こいつと寝てる。
生理で出来ない日もあるけど、とにかく一緒に寝てる。
まるで夫婦みたいだよな…。
でも塔矢となら早くそうなりたい。
たぶんオレが本気で愛せるのは一生でこいつしかいないから。
絶対に失いたくない。
だからオレは自分で自分の首を絞めるようなことだけは絶対にしない。
塔矢…
オレはオマエ以外の奴をもう二度と抱かないからな…
――絶対に――
「塔矢〜、まだ終わらない?」
「うん…今月はちょっと長いみたい」
「…はぁ」
進藤が大きな溜め息をついて、冷蔵庫のドアを開けた。
気を紛らわす為か、中なら酎ハイを取り出して、勢いよくゴクゴク飲み始めている。
生理だと偽って一週間目。
つまり一週間お預けをくらっている進藤は、そろそろ限界点が近付いて来たみたいだ。
キミが選ぶ道は3つに1つだよ。
我慢を続けるか…
僕を無理やり抱くか…
他の人に手を出すか…
そのどれかだ。
キミはどれを選ぶんだろうね…。
パチッ
パチッ
お酒片手に棋譜並べを始めたみたい。
「進藤、明日早いから先に寝るね」
「うん。お休み」
僕がベッドに横になって、目を瞑った後もその碁石の音はずっと続いていた。
たまにそれが途切れて目を薄く開けると、酷くまいってるようにぼーっとして…目が虚ろな彼の姿が見えた。
数十分後にもう一度目を開けると、今度はソファに突っ伏していた―。
――その日以来
進藤は僕の隣で眠らなくなった――
「まだ無理…?」
「うんゴメンね」
「……」
10日…。
もう10日もしてない。
いくらなんでも長過ぎないか?
そんなもん?
いや、今まではもっと短かったはずだ。
アイツ病気なんじゃねぇ?
それとも何?
もうとっくに終わってるのに嘘ついてる?
何のために?
オレとのセックスが嫌いになった?
いや、オレらはこれでも体の相性は最高なんだ。
嫌いだなんてありえねー。
…じゃあ他に嘘つく理由って何?
それともマジでまだ生理中?
オレの欲求は日に日に増して、そろそろ自分でもヤバいと思う。
もうアイツと同じベッドでは眠れない。
たぶん少しでも触ったら最後、生理中だとかもう関係なしに犯してしまいそう。
んでベッドが血まみれになる。
最悪…。
せめて風呂場で出来たら…って思うけど、塔矢は布団以外でするのが大嫌いなんだ。
それはもう実践して承知済み。
下手なことして二度とさせてもらえなくなったら、それこそ本気で困るし…。
女って生理中はそういう欲求…起こらねぇのかな?
「オレ、何かオマエの気に障るようなことした?」
「どうして?」
「だって……」
「まだ続いてるだけだよ。ホント長くてやんなっちゃう」
「……」
2週間が過ぎた。
さすがに進藤も嘘に気付いたみたい。
もうそろそろかな。
もうそろそろキミは動くんじゃない?
明日は若手の皆と飲み会なんだってね。
女の子もたくさん来るんだろう?
僕はちょうど名古屋に行ってていないから絶好の機会だと思うよ。
キミのその暗い顔が、帰ってきて少しでも明るくなってたら――もうキミとはやっていけない。
しょせん僕もキミが今まで付き合ってきた女の一人にすぎなかったってことだ。
不安と期待を持って僕は名古屋に出発した。
進藤…信じてるから…
「進藤くーん、これも飲んで〜」
酔っ払った女の子達がオレを囲んでくる。
やたらと露出度が高くてすげー目の毒。
いくら彼女がいたってオレだって普通の男だから、こんな欲求不満の時に誘われたら正直言って……ヤバい。
「進藤くんて彼女いるの?」
「うん」
「だよねー。こんなイイ男、皆がフリーにしとくわけないしー」
「はは…」
酔っ払いお姉さんがオレの腕をぎゅっと組んできた。
「彼女さんは進藤くんが今日ここに来てるって知ってるのー?」
「どうだろ?」
…でもアイツって結構オレの予定とか行動熟知してるから…知ってるかもしれない…。
「今日帰らなかったらマズい?彼女さんが待ってる?」
「ううん、アイツ今日から出張だから」
「ホント〜?じゃあ私と朝まで付き合って♪この前彼氏と別れてから寂しいの〜」
「ふぅん…」
オレも寂しいよ…塔矢…。
何でこの子がオマエじゃないの…?
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