●W WILLFUL 2●
東京に帰ってきた僕は、一度家に戻って荷物の整理をした後――直ぐさま進藤のマンションに向かった。
ガチャ
「塔矢お帰り〜」
ドアの音に気付いた進藤は、僕を出迎えに玄関まで来て――いきなりキスをしてきた。
「―ん…っ…」
このキスの意味は何…?
僕に会えなくて寂しかったから…?
それとも他の人に手を出しちゃった罪悪感から…?
男の人が急に優しくなるのって危険信号なんだろう…?
「―はぁ……」
唇を離した後、今度はぎゅっと抱き締めてきて――髪の上から耳にキスをされた―。
「進藤…飲み会楽しかった…?」
「あ、やっぱり知ってたんだ。うん…楽しかったよ。女の子もいっぱいいたしな」
「……」
抱き締めたままの状態で彼は話し続ける。
「自分で言うのもなんだけどさー、オレって結構モテんだぜ?」
「……知ってる」
「彼女いるって言っても、誘ってくる女の子多いし」
「…ふぅん」
「大変だったんだからな、断るの。今すげー欲求不満な分…尚更な」
「……そう」
手…出さなかったんだ。
キミの性格を熟知してる僕だから分かるよ…。
今キミが言ってることは真実だ―。
「…な、もうそろそろ終わったって言ってくれてもいいんじゃねぇ?」
「……まだだよ」
「………はぁ」
進藤が溜め息をついて、僕の体を離した―。
「進藤、お前何か…やつれてないか?」
「あ、分かる?ここんとこずっと毎晩我慢大会だからな」
「は?」
和谷の質問に半分ヤケになって笑顔で答えた。
でも本当は笑っていられる余裕なんかないんだけど―。
もう1ヶ月も塔矢を抱いてない。
女を知ってからこんなにしなかったのは正直初めのような気がする。
しかも相思相愛の彼女がいるのに…毎晩オレの部屋で寝てんのに…。
今だに生理だって豪語する塔矢。
嘘だって分かってんのに、なんでオレは手を出さないんだ…?
なんでこんなに我慢してんだ…?
でも答えは簡単。
アイツを失いたくないから、だ―。
こんな嘘をつくには何か理由があるんだろうな…。
だけどオレにだって限界というものがある。
嘘なんだろ?って実際に確かめてやろうか。
でももし本当にそうだったら困るし…、下手したら最悪の状況になりかねない。
んじゃ頭下げてみよっかな…。
「抱かせて下さい」
って?
ハハ、笑っちゃうな。
なんでオレがそこまでしなくちゃなんねーんだよ。
彼氏と彼女って同等のはずだろ?
結局一ヶ月が過ぎても、キミが他の子に手を出すことはなかった。
僕を無理やり抱くこともせず……ずっと我慢してくれている。
キミがお風呂場とかで一人で処理してるのは知ってるよ…。
でもどうして…?
どうしてそこまで我慢してくれるんだ…?
キミってそんな奴だった?
彼女じゃない女の子でも、横で寝てたら我慢出来ずに手を出しちゃうような奴じゃなかったのか?
変わったね、進藤…。
今のキミなら…僕は信じることが出来るよ―。
「塔矢お願い。抱かせてっ」
40日目。
とうとう進藤が懇願しながら抱き付いてきた。
「もう無理…。限界だよオレ…」
そう言ってきた彼を僕は優しく抱き締め返した―。
「いいよ…僕も抱いて欲しい」
ありがとう進藤…。
僕だけを見てくれて―。
「ごめんね…試して。でも嬉しかった…キミが他の人に手を出さないでくれて―」
「当たり前じゃん!んな一時の快楽の為にオマエをなくしてたまるかっ!」
一通り抱き終わった後、ようやく塔矢が白状した。
どうやらオレが追い詰められても他の奴に手を出さないか…試したかったらしい。
オレってそんなに信用ない…?
そんなに軽く見える…?
確かにオマエとこうなるまでは軽いとかいうレベルじゃなかったかもしれない。
出来たら誰でもよかったんだよな…。
でもさ、オマエ知ってる?
自分に気持ちが入ってると満たされ方が全然違うんだぜ?
終わった後すげー幸せなの。
これが他の奴だとさ、味気無さとか…物足りなさを感じるんだ…。
体を離すことが全然惜しくなくて…むしろ一緒にいること自体が疑問になる―。
だからこうやって抱き合って眠ってる時点で、他の奴じゃありえない…オマエだけが特別なんだ―。
オマエを無くしたらオレはもう一生つまんないセックスしか出来なくなる。
他の奴じゃ駄目なんだ。
オマエの為ならオレは我慢出来るよ―。
「塔矢…好きだよ」
――ずっと側に居てくれよな――
―END―
以上、WILLFUL PRINCEのその後、ヒカルの我慢話でした〜。
40日間持ちましたよ!(笑)
たぶんアキラが自分の家で寝てくれたらもっと持ったと思いますが…そこはアキラの策。
わざわざ毎晩毎晩ヒカルのベッドで一緒に寝るんですよ。半分いじめです。いじめ。
途中からヒカルもソファで寝始めましたが。
にしてもこの話、すごい勢いで視点が変わっていったので、書いてて混乱しました…。
慣れないことはするもんじゃないですね…うーん(=_=;)