●WILLFUL PRINCESS 6●
「和谷〜。誰かいい子いない〜?紹介してー」
次の日、早速オレは和谷にお願いしてみた。
和谷は結構交友関係が広くて、合コンの幹事とかもよくやってるから、最近は皆の斡旋所状態だ。
「何だ進藤。珍しいな、お前から言ってくるなんて。そんなに欲求不満なのか?」
「そういうわけじゃねーけど……ちょっと痛い記憶を消す為にも新しい出会いが必要なんだよ」
「何だそりゃ」
笑いながら次の合コンの日程を教えてくれた。
こういう時頼りになるぜ。
「進藤」
「ん?」
声の方を振り返ると、塔矢がいた。
昨日の今日だからちょっと動揺して、鼓動が早くなるのが分かった。
「な、なに?塔矢」
「韓国にいる父が永夏の最近の棋譜をいくつか送ってくれたんだ。一緒に今日検討しないか?」
「永夏の?!マジ?!するする!!」
「じゃあ手合いが終わったら一緒に碁会所に行こう」
「おぅ!」
塔矢の様子は前と変わっていなくて、正直安心した。
こいつの中ではあの夜の記憶はもう消えてんのかも。
少し悲しい気もするが、やっぱりこいつはライバルだからな。
碁で付き合っていきたい。
永夏の棋譜が待ち遠しかったオレは、いつも以上に真剣に打っていたみたいで、あっさり中押し勝ちした。
だけど塔矢の方が相手に時間ギリギリまで粘られてしまって、結局は1時間も待たされることになった。
それでも碁会所に着いた時はまだ4時で、検討の時間はたっぷりあった………はずだったんだけど―。
「ごめんねアキラ君、進藤君。もう閉店の時間だからそろそろ終わってね」
市河さんのその言葉に慌てて時計の方を振り返ると、何と既に8時前だった―。
時間経つのって早過ぎだ―!
「3局しか検討出来なかったな」
塔矢がはぁ…と溜め息をついた。
「ま、続きは明日しようぜ」
「そうだね」
ところが碁会所を出たところで、塔矢がハッと思い出したように言い出した。
「いけない。僕、明日の午後から大阪だったんだ」
「え?じゃあ帰ってくるのって―」
「3日後」
「3日か…。結構空くな」
「うん」
「……」
「……」
微妙な沈黙がオレらの間を走った。
3日も待つぐらいだったら、あと2局だし…今日中に終わらしちまいたい…。
でももう8時なんだよな…。
「進藤、出来たら今日中に検討してしまいたいんだが…」
「オレん家はダメだからな!」
「それは分かってる。キミと約束したからな。もう二度と男性の部屋には行かない」
よしよし、それでいいんだ。
「だから、今日は僕の家でしよう」
は?
「塔矢さん、あの…一応聞いておきますが、ご両親はご在宅なんでしょうか?」
「何を言ってるんだキミは。言っただろ?この棋譜は父が送ってくれたんだ。当然まだ韓国にいる」
「お母様も?」
「もちろんだ」
「……」
…ダメだ。
こいつオレが言ったこと全然理解してない。
男の部屋に一人で来るのも、一人の時に男を家に招くのも意味は一緒なんだぜ?!
「塔矢〜、今日こそファミレスに行こうぜ。な?マックでもいいぜ?」
「どうして?僕の家ですればいいじゃないか」
また一昨日と同じ展開になってる気がする…。
「こんな時間に男が女の家に行けるわけねーだろ!」
「もう!キミって文句ばっかりだ!どうせまた間違いが起きるかも〜とか言うんだろ?!」
「分かってんなら誘うな!」
「だから僕は別に構わないと言ってるだろ!キミにだったら抱かれてもいいんだ!」
「あぁそうかよ、オレにだったら――」
え?
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