●WILLFUL PRINCESS 5●
オレは女には不自由してない方だと思う。
今まで結構な数告られたし、付き合い始めたらそれなりに色々経験もしている。
だから早く一人暮らしをしたかったんだよな。
今は彼女いないけど、もし次誰かと付き合った時、するのにまず場所が困らねーしさ。
こんな言い方どうかと思うけど…でもそんなもんじゃん?
男って所詮ヤることしか考えてねーんだよ。
とくにオレらの年代はな―。
…だけどオレは今までちゃんと順を踏んだ彼女としかしたことがないんだ。
当然この部屋でする第一号もそうだと思ってた。
だけど何?
なんなんだこの有様は!
何でコイツが隣りで寝てんだよ!!
「……」
オレに抱き付いている(いや、オレの方が抱き締めてる?)塔矢の横髪を耳にかけてみた。
…すげー可愛い寝顔…
今までのどの女より可愛い…。
いや、それはこいつの元がいいからなんだろうけど―。
だけどいつも虚勢張ってて、対局ん時のキツい顔のイメージしかないから…そのギャップがすごい…。
堪んねぇ…―。
我慢出来なくて、寝ている塔矢の頬に、耳に、瞼に、額に、そして髪にまで何度も何度もキスをした―。
オマエ反則だぜ…。
オマエみたいな奴が夜一人で自分の部屋にいたら、手を出さない男はいないって…。
…あーあ。
これから一生…この道にいる限り…、向かい合っていかなきゃならねぇ相手だったのに…。
オレにとってオマエはただの女の部類に入らねぇんだぜ…?
絶対に手を出しちゃいけない奴だったんだ―。
「…ん…、進藤…?」
塔矢が目を覚ました。
「…おはよ、塔矢」
「おはよう」
ふぁぁと欠伸をしながら体を離して起き上がっている。
胸が丸見えです…塔矢さん。
少しは恥じらってくれ。
「今…何時?」
「9時過ぎ…」
「そう、じゃあ僕帰るよ。泊めてくれてありがとう」
にっこり笑ってお礼を言ってきた。
「別に礼を言われる筋合いはねぇよ…」
オマエを汚しちゃったし…。
「何を言ってるんだ。僕が無理やり泊まったんだから、お礼を言うのは当然だ」
そう言ってベッドから降りようとした塔矢の腕を掴んだ。
「――待て。オマエさ、もう二度と男の部屋でなんか寝るなよ」
「どうして?」
「どうしてって…本気で言ってんのか?まだ分からない?昨日オレに何されたか思い出してみろよ?!」
塔矢はバカ正直に顎に手をあてて思い出し始めている。
「好きでもない奴に体触られて、気持ち悪かっただろ?痛かっただろ?後味悪いだろ?!」
「別に」
べべべ別に?!
「言っとくけどな!オマエもう処女じゃねーんだぞ?!戻れないんだぞ?!」
「だから何?気にしないから別にいいよ」
「少しは気にしろって!男はな、自分の彼女が処女なのか既に経験あるのか、すげー気にするんだぜ?!やっぱ自分が初めてであって欲しいもんなの!」
「それはキミだけじゃないのか?」
「んなわけねーだろ!疑うなら他の男に聞いてみろ!いや、聞くな。オマエはそんなこと口に出しちゃいけない」
「何が言いたいんだ…?」
オレもよく分からなくなってきた…。
「…つまりだな、傷付くのは女の方なんだから、オマエが気を付けねーといつか痛い目見るってことだよ。簡単に男の部屋になんか入っちゃいけないんだ」
塔矢が呆れたように溜め息をついた。
「それ何度も聞いた。分かったよ。キミがそこまで言うなら入らない。もう二度とこの部屋にも来ないよ」
「そうそう、それでいい」
…って、二度とって…ちょっとショックなんですけど…。
「あ、言っとくけど好きな奴の部屋は別だからな。そっちには行けよ?」
「そんな人いないから関係ない」
あ、そうですか。
――って
「オマエ!こんなとこで着替えるなよっ!」
「何で?」
「いいから!頼むから風呂場で着替えてくれっ!」
「もう!キミってウルサい!昨日散々僕の体を触ったくせに、今更気にすることないじゃないか!」
プンプンと怒りながら風呂場に向かっていった。
ええ、ええ、触りましたとも。
好き放題しましたとも。
さっきもキスしちゃいましたとも。
だからもうこれ以上煽らないでくれ!
さっさと帰ってくれないとまたオレはオマエに手を出しちまいそうなんだよ!
ガチャ
「じゃあ帰るよ。また明日棋院で―」
「おぅ!気をつけてな〜」
バタン
ドアが閉まった途端オレはベッドに撃沈した。
はぁ……疲れた……。
「……」
目を瞑ると塔矢の肌の記憶が脳裏に蘇ってくる―。
すげぇ白くて綺麗だった…。
柔らかくて…スベスベで…。
赤くなった頬も涙ぐんだ目も…可愛かった―。
声を思い出すだけでも抜けそう…。
しばらくは夜のおかずに困らなくてすみそうだな…………いや!
待て待て待て!
大切なライバルをそんなことに使ってたまるかっ!
さっさと新しい彼女作ろう…。
NEXT