●WILLFUL PRINCESS 1●
男は正直言って、ヤれたら誰でもいいんだ。
好きな奴じゃなくっても抱ける。
だけどな、女は相手を選ぶべきだ。
本当に好きな奴とだけするべきだ!
そう思うオレは……普通だよな?
「進藤、もう荷物の片付け終わった?」
「だいたいはな」
「じゃあ今日の対局の検討はキミの部屋でしよう」
「……は?」
塔矢のこの言葉に、オレは耳を疑った―。
17歳になったオレは、ついに親から一人暮らしの許しをもらった。
あんまり新しくはないけど、棋院からそんなに離れてない、交通に便利で家賃もそこそこなワンルームのマンションに住むことにしたんだ。
初めての一人暮らし。
すげー嬉しくて、荷物もそこそこ片付いてきた一昨日、和谷や伊角さん達を招いて早速ドンチャン騒ぎをした。
そして昨日、その喜びを塔矢にもつい話してしまったから、今、さっき、あんなことを言われてしまったわけだ。
今日の対局は2ヶ月ぶりにコイツと公式戦で当たったもんだから、やけに熱が入った。
もちろん検討の方もお互い何時間もやる気満々だ。
だけど棋聖の2次予選だった今日の対局は持ち時間5時間で、お互いそれをほとんど使い切ってしまっている。
つまり、何が言いたいのかと言うと―――
外は既に真っ暗だってことだ。
これから何時間も検討してたんじゃ夜中になっちまう。
そんな時間まで女が一人で男の部屋にいるのって……マズくねぇか?
「あのさ、出来たらオマエんとこの碁会所でしねぇ?」
「もう7時だから、行ってもすぐ閉まるよ」
「じゃあどっかの24時間営業のファミレスとか…」
「どうして?そんな所に行かなくても、キミの部屋でしたら時間なんて気にしなくていいじゃないか」
だからそれがマズいんだって!
どう断ればいいのか考えてると、塔矢が拗ねだした。
「キミは…一昨日の飲み会に僕を誘ってくれなかったよね?」
「え?あー…だってオマエ、二十歳になるまで絶対に飲まないって言ってたからさ、来てもつまんないかと思って…」
「つまらないとかつまらなくないとかは僕が決めることだ!」
「でも男ばっかだったんだぜ?嫌だろ?」
「奈瀬さんは来てたらしいじゃないか!」
何で知ってんだよ…。
「あー…じゃあ次はオマエも誘うからさ、今日は勘弁してよ」
「どうして?!別に今日でもいいじゃないか!それとも何か?!僕に入られたらマズいことでもあるのか?!」
あるんだよ!
ってか普通それぐらい分かれよ!
もう夜なんだぞ?!
「…僕だって一度くらいキミの部屋に行ってみたい。キミだって僕の部屋に来たことあるのに、僕だけキミの部屋に入れてくれないのは不公平だ!」
「だから今度誘うって!」
「……」
塔矢がオレを睨んだまま立ち上がった。
「…もういいよ。僕もう帰る」
「え?!オマエ検討は?!」
「しない。僕はキミの部屋でしかその対局の検討はしたくないから、キミが入れてくれないんだったら、もう検討はナシだ!」
なんつー卑怯な奴…!
わがまま姫かよ!
もう知らねぇ!
オマエの貞操がどうなっちまおうが、オレは知らねぇからな!
「分かった!入れるよ!もうオレの部屋でいいから、とにかく検討しよう!」
そう言うとたちまち笑顔になった塔矢は、早く行こう!っと胸をオレの腕に強く押しつけて、引っ張っていった―。
……勘弁してよ…お姫様。
「ここがそう?」
「ああ」
市ヶ谷からメトロで2駅のオレのマンションには、10分足らずで到着した。
オレの部屋の玄関前まではニコニコ楽しみそうにしてた塔矢だけど、戸を開けて電気を点けた途端、驚いたように目を見開いた―。
「どこが荷物が片付いてるんだ?ぐちゃぐちゃじゃないか!」
「うるせーな。一昨日和谷達が汚していったんだよ。それまではもうちょっとは綺麗だったんだぜ?」
「ふーん」
オレが適当にゴミ類だけ片付けている間、塔矢はソファに座ってキョロキョロ辺りを見渡していた。
「10畳ぐらい?あんまり広くないな」
「まぁなー。でも和谷の部屋に比べたらまだ広い方だぜ。風呂とトイレも分かれてるし」
「へぇー」
「よし、こんなもんか。んじゃ検討始めますか」
「うんっ」
お互いノリノリで一手目から並べ始めたわけだけど、案の定意見は食い違いばかり。
近所迷惑になるんじゃ…て思ったぐらい大声を出していがみ合った箇所もチラホラあった。
お互いが納得するまで永遠と続き――
で、気がついたら12時を回ってしまっていた。
「塔矢ヤベェ!もうすぐ終電出ちまうぞ!」
「だから?」
「帰れなくなるだろ?!」
「まだ検討の途中だ。キミはこんないい所でやめてしまうのか?!」
「そ、そりゃやめたくはねぇ…けど―」
「じゃあ続けよう。別に終電出ちゃってもいいよ。キミが泊めてくれたら―」
は?!
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