●WEEKEND DATE 2●





佐為との初デート。

お買い物をした後、カフェで一休みすることにした。



「次の王座戦第三局の解説は和谷先生なんでしょ?」

「うん。棋院であるし、僕も聞きに行こうかな」

「…佐為が行ったら大変なことになると思うけど」

「え?」

「……」



プロ試験を全勝で合格した佐為。

実は週刊碁はもちろんのこと、「囲碁」と名前の付いた雑誌には片っ端から大きく取り上げられ――顔バレされた。


元々一般のCMにも出てるくらい有名なタイトルホルダー2人の息子の登場。

しかもこの俳優顔負けの容姿、メディアが食い付かない訳がなかった。

まだ入段前ということで、持ちかけられる取材の依頼をだいぶ棋院が断っているらしい、とお父さんが教えてくれた。

どうしても断りにくいスポンサー関連からのオファーは、おじさんやおばさんが直接断っていると。

(それでもいくつかの大手週刊誌には記事が載ってしまったらしい…)


さっき水族館に行った時だって、私の後ろにいた女の子達がウワサしていたのを私は聞いてしまった。



『あれ進藤佐為じゃない?』

『だよね?やっぱそうだよね?』

『え?誰それ?』

『知らないの?囲碁界のプリンス』

『は?囲碁なんて知るわけないでしょ?』

『でも進藤ヒカルは知っているでしょ?今車のCM出てるし』

『前は携帯のCMだったよね〜。あれはヤバかった。私、思わず買い換えちゃった』

『その進藤ヒカルの息子だよ。この前プロ試験合格したんだよ〜しかも全勝で!』

『へーすごいね』

『どうする?話かけてみる?』

『無理無理。写真だけ撮っちゃお♪』


私はそっと佐為から一歩離れた。

きっとあの子達、佐為の写真をどこかに上げるつもりだろう。

私が一緒に写ってたら、後々大変なことになると思ったから。


だから、さっきランチを食べる前に雑貨屋さんに寄った。

「佐為って絶対メガネ似合うよね!」

っておだてて、伊達メガネを買わせた。


だから今、私の前でコーヒーを飲んでる彼は、メガネをしている。

それがインテリっぽくて、またいつもと違ったカッコよさで、私の心臓はドキドキしてヤバいんだけど……



「大盤解説の会場じゃなくて、関係者用の検討室に入っても何も言われないよ、きっと。おばさんの対局なんだし…佐為ももうプロになるんだし」

「そうかな?じゃあ5階行ってみるかな…」

「うん。私も行きたいな♪えっと、来週の土曜日だよね?」


私は携帯のスケジュールに、来週の土曜にもハートのマークを付けた。

佐為と一緒に出かける日の印だ。

でもってもちろんその次の日曜日にも印を付ける。

佐為の誕生日だもん。

プレゼント何にしようかな〜。

考えるだけで楽しい。



「佐為、今から一局打たない?」

「いいよ。でもマグ碁持って来てないから、どこかその辺の碁会所入る?」


そんな恐ろしいことを普通に提案してくる佐為に眩暈がした。

(碁会所なんか入ったが最後、絶対におじいさん連中に佐為を取られる…!)


「わ、私の部屋で打たない?」

「いいよ」


今度からは、最初からおうちデートをメインにしよう。

外のデートも楽しかったけど、気を使って正直疲れた。

まるで芸能人と交際する一般人の心境。

何だか先が思いやられる気がした。


佐為は私が24歳になったら結婚してくれるつもりみたいだけど、そんな10年以上も先の話…正直言ってどうなるか分からない。

4月に入段してプロになる私達。

きっと佐為は、おばさんみたいにどんどん勝ち進んで、ますます有名になっていくことだろう。

一般客がたくさん来るイベントの手伝いとかにも駆り出されるんだろうな。

きっと、佐為目当ての子もたくさん来るだろう…。

佐為が女の子に囲まれる姿は容易に想像出来る。



私…堪えられるかな……



私より可愛い子なんて五万といる。

佐為の目を、これからも私に向けさせ続ける為にはどうすればいいんだろう。











「ただいまー」

「お邪魔します」

「佐為君いらっしゃい。プロ試験合格おめでとう」

「ありがとうございます」


家に着くと、ダイニングでPCで仕事中のお母さんがいた。

お父さんは外出中かな?

今朝会った時に予定聞いたはずなのに、お父さんが何て言ってたか思い出せない。

自分がいかに初デートってことに舞い上がっていたのかが分かった。


自分の部屋に彼を招いて、碁盤の前にひとまず座った。


「「お願いします」」


一局打って、ちょっと検討もして、それから私は佐為に近付いて――キスをした――



「――…ん……」


数日ぶりのキス。

佐為は真面目だから、前に私が言ったことを律儀に守ってくれている。


『付き合ってるならキスくらいしてよ!』


だから本当に間を開けずにキスはしてくれる。

外では軽く、一瞬だけ触れる挨拶のようなキス。

そして今みたいな二人きりの密室の時は、ちょっとだけ大人な深いキスだ。


「ん…、ん……っ、……――」


私に目を向けさせ続ける為には、どうすればいい?

こんな風にキスするだけで、佐為は私のモノになる?

私はまだ10歳だ。

2月でやっと11…

さすがにこれ以上先にはまだ進めない。

下手したらあと5年は進めない。

どうすればいい?

どうすれば……





「――精菜」

「え…?」

「さっきから何考えてるんだよ?」


……え……









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