●WEEKEND DATE 3●





――どうすれば佐為の目をずっと私に向けさせられるんだろう――




「一局打ってた時も全然集中してなかったよな。今も、全然気持ちこもってないよな?」

「……」

「僕に何か不満でもあるのか?言ってくれれば直すよ?」

「……じゃあもっと不細工になって」

「え?」

「もっとダサい男子になって」

「ええ??」


私、何言ってるんだろう……

でも、佐為がこんなにカッコいいから問題なんだ。

せめてもっと十人並だったら、こんなに人気は出なかったはずだ。

私だけがずっと独占出来たのに――



「だからこのメガネ?ダサくなれた?」


佐為がメガネを外した。

その仕草すらカッコよくて……何かもう涙が出そうだった。


「精菜…大丈夫か?」

「大丈夫じゃない…」

「……」

「プロになったら…もう佐為を独り占め出来なくなる。きっとそのうち私より可愛い子が佐為のこと好きになって、佐為もきっと心変わりしちゃう…」


考えれば考えるほど嫌になる。

未来に絶望する。


「もうやだ……」

「――僕ってそんなに信用ない?」



――え――



佐為に抱き締められる。

優しく、でも力強く、まるで私を安心さすように――

チュッと耳にキスされる――



「好きだよ精菜…」

「佐為…」

「心変わりなんてするわけない」

「そんなの…分からないじゃない。するかもしれないよ…?」

「分かるよ。だって僕、あの両親の子供だよ?」

「……」


そう言われてしまうと……不思議と納得出来てしまう自分がいた。

知り合った時からずっとお互いだけを見続けてる佐為の両親。

おじさんは自分がいくら有名になってモテモテだろうが関係ない。

ずっとおばさんだけを見ている。

そしてこれからも見ていくことだろう――それは容易に想像出来る。

佐為も同じ?



「僕の方こそ、精菜に飽きられないか心配だよ…」

「え?」

「上を目指すにはこれからますますきっと囲碁漬けになると思う。学校と棋士の両立でいっぱいいっぱいになって、また会えない時間が増えるかもしれない」

「……」

「また精菜に怒られないか不安だよ…」

「佐為…」


大丈夫だよ――と私も佐為を優しく抱き締め返した。


「私、今度は我慢しないから。キスしたくなったら、佐為の部屋に押しかけるね」

「いいよ…僕が碁盤に集中してたら押し倒してくれても構わないから」

「ふふ…こんな風に?」


私は佐為に体重をかけて、床に倒した。

彼の上に乗ったまま、顔を近付けて……再び甘いキスをした――













「じゃ、また連絡するな」

「うん。今日はありがとう」


夜6時。

「お邪魔しました」

と言って佐為が玄関のドアを開けようとした――正にその時だった。

勝手にドアが開いた。

もちろんウチのドアは自動ドアじゃない。

誰かが外から開けたのだ。

お母さんはキッチンにいた。

だからもちろん、開いたドアの先に立っていたのは――


「よう…佐為君」

「――緒方先生…!」


上から見下ろされて、あまりの威圧感に佐為が固まる。


「プロ試験合格おめでとう」

「あ、ありがとうございます…」

「君の力を信じて賭けてよかったよ」

「え?」


佐為は知ってるのかな?

自分のプロ試験が棋士の間で賭けの対象にされていたことを。

全勝か――そうでないか

うちのお父さんは全勝に賭けていたらしい……



「今日は塔矢先生の研究会があってね」

「そうだったんですね…」


――あ、今思い出した。

今朝お父さん、研究会があるから塔矢先生の家に行ってくるって言ってたんだ。


「先生も寂しがっていたよ。君が最近全然来ないって」

「…すみません」

「進藤の弟子になったそうじゃないか」

「はい。これからは父のもとで勉強するつもりです」

「ほう…つまり進藤門下として入段する訳か」

「はい」

「同門じゃないなら遠慮はいらないな」

「……」

「天野さんにはもう伝えたから」

「え…?」

「週刊碁の新初段シリーズ」

「……!」

「君の相手は俺がする」

「……はい」

「せいぜい楽しませてくれよ」

「よろしくお願いします」


お父さんがククッと笑って、二階に上がって行ってしまった。


姿が見えなくなった後、佐為が座り込む。


「はぁ…恐かった」

「佐為…」

「大丈夫だよ。もう覚悟してたことだし…」


新初段シリーズは年が明けたらすぐにスタートする。

トップ棋士側からの指名は稀で、既に話が通ってるということは、おそらく佐為は対局一番乗りとなるだろう。


「頑張って…」

「うん」


私は誰と戦うことになるんだろう。

連絡が来るのが待ち遠しい。

ひとまず佐為の応援に駆けつけよう。

これからもずっと隣で応援するからね――











―END―









以上、佐為と精菜の初デート話でした〜。
そうです、初です。今までちゃんとしたことなかったのです。
今までは付き合ってると言っても、特に二人で会うこともなく。
アキラさんの実家とか彩のところに遊びに来てる時に偶然会うぐらい。
それはもちろん付き合ってることを内緒にしてきたからですよ〜。
でもって中学に入ってからは佐為の方がプロ試験に向けて忙しくなり、偶然会うこともなくなり。
だからこそ、合同予選の時に精菜がキレたんだと思いますが。
もう親にもバレたし、プロ試験も終わったし、これからは堂々とデートするんじゃないでしょうか。

この話で書きたかったのは、もちろん最後の緒方先生との会話です!
ずっとそうなんだろうな〜と佐為も思ってはいましたが、これで新初段シリーズの相手が緒方先生だと確定します。
頑張れ〜(笑)