●WEDDING●





彩が22歳になったその日、恵比寿にある結婚式場で娘夫婦の挙式が行われた。

真っ白なウェディングドレスを身に纏って、小学生の頃からずっと想い続けてきた最愛の伴侶と愛を誓う彩。



(良かったね……お幸せに)



涙をひたすら堪える夫の横で、僕は娘の幸せをただただ祈った。

去年の行われた息子の結婚式の時とは全く違う感情が渦巻く。

一応自分の弟子でもある娘。

囲碁以外にももっと教えてあげなければいけないことがあったんじゃないだろうかと、今更ながらに後悔する。


特に料理。

これから家族の食事を作っていかなければならないのに、相変わらず包丁の持ち方すらよく分かっていない。

ずっと実家暮らし、しかも家にはお手伝いさんがいるから洗濯だって恐らくしたことがなかったはずだ。


1月に入籍し、既に4ヶ月近く一緒に住んでいる彩と昭彦さん。

ちゃんと生活出来てるんだろうか。

昭彦さんに迷惑をかけまくってるんじゃないだろうか。

心配でしかない。


しかも昭彦さんの実家はちゃんとし過ぎてるくらい、ちゃんとした家だ。

向こうのおじい様から結婚祝いとして新居の家まで買って貰ったらしいが、これから長男の嫁としてちゃんとその役割を担っていけるのだろうか。










「……はぁ」

「アキラ、どうした?こんなにおめでたい席で溜め息なんか」


ヒカルが心配そうに聞いてきた。

披露宴も中盤、新郎新婦はお色直しの為に一旦退出中だ。


「彩が心配でね…」

「まぁな〜。でも昭彦君が付いてるし何とかなるだろ」

「迷惑かけまくってないかな?」

「オレも気になって研究会の時に聞いてみたんだけど、意外と頑張ってるみたいだぜ。なぁ、佐為?」

ヒカルが横の席に座っている佐為に話を振る。

「みたいだね。毎日早起きして朝ご飯も作ってくれるって京田さん喜んでたよ」

「そう…」


佐為が精菜ちゃんから佐菜ちゃんを受け取って、あやしだした。

もう3ヶ月になる僕らの孫、佐菜ちゃん。

佐為ももうすっかりパパが板についている。

子育てにもかなり積極的なイクメンらしい。

流石だ。

この息子夫婦には何一つとして心配要素がないんだけどな……


「彩、分からないことがあったら楠さんに電話してるって言ってましたよ」

精菜ちゃんが教えてくれる。

楠さんとは佐為が中3になった頃からうちでお世話になっているお手伝いさんのことだ。

もう還暦間近の家事のベテラン主婦。

彩にとってはもう一人のお母さん的な人で、大の仲良し。


「どうしても無理な時は夕ご飯作りに来てもらったとかも言ってましたね」

「まぁ京田さんもすっかり楠さんに胃袋捕まれてるからね」

佐為が笑う。

もう10年近く研究会の度に楠さんの夕飯を食べてる昭彦さん。

彼にとっても既にもう一人のお母さん的存在なのかもしれない。


「何か申し訳ないな…。よし、次のボーナスは多めに出そう」

ヒカルの提案に僕は即座に頷いた。

そして楠さんが引退する時には退職金も弾もうとも思ったのだった。


ちなみにこの結婚式に楠さんももちろん招待されている。

娘夫婦にとって、楠さんはこの晴れ舞台を絶対に見てほしい人の一人なのだ。







司会者の合図で扉が開き、カラードレスにお色直しをした彩と昭彦さんが入場してきた。

僕は拍手をしながら、

(何とかなってるならよかった…)

と少しだけ安心したのだった。



キャンドルサービスが終わった後、両親へ贈るお決まりの花嫁からの手紙を彩が読み出した。


今までありがとうと。

心配たくさんかけてごめんなさいと。

そしてこれからもよろしくお願いしますと。

彩なりの言葉で気持ちを伝えてくれる。



僕らは今まで自分達の棋戦を最優先に生きてきた。

週に何日も家を空けることもザラで、普通の家庭よりきっと一緒に過ごせた時間は少ない。

決して娘にとっていい両親ではなかったと思うのに。

それなのにこんなにも娘が真っ直ぐに育ってくれて、こんな素晴らしい時間を共有出来て、僕らの方こそ感謝しかない。


「ありがとう彩…」

「お母さん…」



こちらこそ、これからもよろしくね。

僕らはいつまでもあなたの親だからね。

ずっと大事に思ってるからね。



――結婚おめでとう――










―END―











以上、アキラ視点による彩の結婚式でした〜。
京田さんの実家は広尾なので、向こうの家の近くの結婚式場で挙げたみたいですね。
ちなみに二人の新居もその辺です。
実は京田さんの実家みたいな億ションをお祖父さんからプレゼントされてます。ヤバいですw
(もちろん一方的じゃなくて、いくつかの候補の中から二人が選びました)

楠さんは今60くらい。
実は明子さんの旧友です。
でもっておそらくあと5年くらいで引退です。
(双子が高校生になるくらいで)
きっと楠さんの退職金は大企業並かと思われます(笑)

佐為はすっかりイクメンみたいですね。
ちなみに結婚式のゲストはもちろんほぼ囲碁の関係者なのですが、囲碁と全く関係のない京田さんの家族、親戚ももちろんいます。
もちろん親戚の女子は「進藤ヒカルと進藤佐為がいるんだけど!!」と大興奮です。
もちろん京田さんの妹ズも大興奮!!
「お兄ちゃんのお嫁さんの彩さんて、あの進藤佐為の妹なの?!」と。
兄の株が上がった瞬間ですw

さて京田さんのお父さん、結局一度も出てきませんでした。
⇒出てくる話を書いてみました!おまけ
佐為が初めて京田さんの実家に行った時、京田さんはお父さんのことを「普通のサラリーマン、その辺の会社に勤めてる」と佐為に説明しました。
そうです、その辺(大手町)の会社(誰もが知ってる大企業)に勤めてている普通(当時は人事部長、今は常務取締役)のサラリーマンです(年収2000万超)。
京田父は東大卒でめちゃめちゃ頭もいいです。
京田さんも囲碁と出会わなければおそらく同じコースだったかもしれませんね。
(京田さんの行っていた学校はお父さんの母校でもあります)

一方、京田母は子供達が巣立ってしまって暇を持て余しています。
お菓子も誰も食べてくれません。
きっと息子夫婦が子供を預けにきたら大喜びでしょうね!
彩は育休とかほとんど取らずに済みそうですw

ちなみに京田さんが弟子になった直後に京田さんの両親はヒカアキに一度挨拶に行ってるんですよ。
まさか10年後に親戚になるとは思ってなかったことでしょう。
アキラだけは、彩の好きな人の親だから、もしかしたら将来彩の義両親になる人達かもしれないな…と読んでました。


さて、視点リレーも次で最後です。
ラストを飾るのはもちろんヒカルです。
FEMALEもついにゴールです!