●WEDDING おまけ●

※京田さんの父親の秘書視点です※でもって彩と京田さんの結婚式から1年9ヶ月後の話です※





「すまないが、20日は午後から休暇をいただくよ」

「あ…はい。分かりました」


常務のスケジュール帳に、私は午後半を記入した。



常務が休むなら、ついでに私も休もうかな。

ちょうど仕事用のパンプスを新調したいと思ってたところだし。

でもって久しぶりに手の込んだ夕飯でも作ろうかな。

まだ新婚なのにいつも時短メニューばかりで、旦那にちょっと申し訳ないと思っていたのだ。


そんなことを考えながら秘書課に戻り、課のホワイトボードにもスケジュールを書き込んでいると、

「京田常務、20日午後半か〜。これはあの噂がますます真実味を帯びて来たわね〜」

と、橋本さん(副社長秘書)が近付いて来た。

「真壁さん、そろそろ直接常務に聞いてよ」

と、井上さん(専務秘書)もやって来た。


「…え?何を聞くんですか?噂って?」

「京田常務の息子さんが、実は囲碁棋士の京田昭彦天元なんじゃないかって噂よ」

「囲碁…?」


橋本さんと井上さんの話によると、20日に天元戦という囲碁のタイトル戦の就位式というのが開催されるらしい。

本当に息子ならば、常務も絶対参加するはずだと。

だから休みを取ったんじゃないかと。


「というか二人とも囲碁なんか興味あるんですね……ビックリしました」

「別にないわよ。でも進藤名人には興味あるっていうか〜」

「ね〜」


進藤名人は流石に私でも知っている国民的スター棋士だ。

でもそれが京田天元の就位式とどんな関係が?


「知らないの?進藤名人と京田天元って兄弟弟子なのよ」

「というか、本当の兄弟になったんだけどね。進藤名人の妹と結婚したから」

「へぇ…そうなんですか」

「真壁さん、あなた本当に理解してる?つまり本当に京田天元が常務の息子だったら、常務は進藤名人とは親戚ってことなのよ?」

「あ、そっか。確かにそうなりますよね」

「だから秘書のあなたが真相を確めて来てよ〜」

「確めてどうするんですか?名人のサインでも欲しいんですか?」

「バカねー(そりゃ欲しいけど)、もしビンゴならすることは一つよ!」



――名人に我が社のCMに出てもらうのよ!!――



「……は?」

「進藤名人ってめったにCMオファー受けないことで有名だけど、親戚の頼みならきっとOKしてくれるんじゃないかしらvv」

「そしたら私達も撮影現場にお邪魔しちゃったり〜♪」

「ねー♪」


キャアキャア盛り上がる二人に秘書課を追い出され、私はしぶしぶ再び常務の部屋のドアをノックした。

そして常務に

「あのぅ……常務の息子さんて……囲碁棋士なんですか…?」

と尋ねた。

デスクでサインをしていた手がピタリと止まる。

そして

「……すまないが、内密に」

と釘を刺される。


「あ…はい、分かりました」

「すまないね。隠すことでもないんだが、やはり家族を利用されたくないんでね…」

「あ…はい、分かります」


常務は全てお見通しなんだろうと思う。

タイトルを取るほどの子供を自慢したくない親はいないだろう。

でもウッカリ話して社内で噂が広がれば、橋本さんや井上さんのような考えを持つ人も少なくないと思う。


「20日…祝ってあげて下さいね。おめでとうございます」

「ありがとう」


常務が優しく微笑んで来た。

常務の秘書になって約3年。

初めて見た『親』の顔だった――






「で?で?常務なんて言ってた?」

「やっぱり息子だって?」

再び秘書課に戻ると、途端に橋本さんと井上さんに詰め寄られた。


「ううん……違うって」

と私は嘘を吐いた。


「えー?本当に?」

「絶対そうだと思ったのに〜」

二人はガッカリしていた。













20日、就位式当日。

常務は13時きっかりに会社を後にした。

そういう私も同じく半休を取った。


夕方、夕飯を作りながらタブレットでYouTubeを開く。

いつもならお気に入りのバンドのライブ映像でも流すところだけど。

ふと思い付いて『天元 就位式』と検索してみた。


(わ…ライブ中継されてるんだ)


ちょうど花束と記念品を贈呈されているところだった。

初めて見る常務の息子さん。

常務と同じで背が高くて、とても知的な好青年だった。

すぐ傍に奥様らしき人もいた。

(めちゃくちゃ可愛い…)

橋本さん達が言っていた、進藤名人の妹さんだろう。


師匠の進藤ヒカル九段の挨拶の後、最後に京田天元がスピーチし始める。

今回初めてタイトルを奪取したらしい。

聞いていて、こっちまで嬉しくなってしまうような謝辞。

声がちょっとだけ常務に似てるなぁと思った。


最後に関係者との写真撮影の様子も見ることが出来た。

奥様と、師匠と、そして兄弟子の進藤名人とも順番に一緒に撮していた。

ライブ配信はここで終わってしまったのだけれど、きっとこの後、常務も一緒に撮したんだろうな。

明日会社に行ったらこっそり見せて貰おうと思った。



「ただいま」


旦那が帰って来て、私は慌てて夕飯作りを再開する。

私にもいつか子供が出来たら、子供の晴れ舞台には絶対に行きたいなと思った――








―END―







以上、京田さんの就位式のお話でした〜。
まさかの京田さんのお父さんの秘書視点です(笑)

ちなみに天元は佐為から奪取したのに、就位式には佐為も来てるというw
まぁ昔から家族でタイトルを取り合いっ子してますのでね(笑)
いちいち気にしてたらキリがない感じでしょうかw






〜おまけ〜


翌日。

私は常務にこっそり

「昨日の写真見せてくれませんか?」

とお願いした。

常務と、常務の奥様と、京田天元と、天元の奥様との4人で写ってる写真を見せてくれた。

すてきな家族写真だなと思った。


それともう一枚。

こっちは控え室で撮った写真らしい。

天元と奥様と赤ちゃん2人が写ってる写真だった。


「え…もしかしてお孫さんですか?しかも双子?!」

「そうだよ。可愛いだろう?」

今度はおじいちゃんの顔になった常務がいた。



―END―


デレデレですよv