●WAKE UP 1●
最近布団から出られない。
起きられない。
ので、塔矢に頼むことにした。
「進藤っ!!」
毎日決まって7時起床。
身仕度して、朝食。
出勤時間は5分とずれることなく8時ジャスト。
そんな彼女のタイムスケジュールに『8:15 進藤を起こす』を加えてもらった。
チャイム2回で応答がない場合、渡してある合鍵で中に入り、寝室までズカズカと起こしにきてくれる。
「いい加減に起きろっ!もう8時20分だぞ!」
「んー…あと5分だけ…」
「進藤っ!!」
布団を剥がされ、胸倉掴まれたり、両肩を揺さ振られたり、少々荒っぽいがこれで何とか目が覚める。
「今日もサンキューな、塔矢」
スーツに着替えながらお礼を言うと、キッと睨まれた。
「さっさと行くぞ」
「はーい」
8時半過ぎ、彼女の愛車で出発。
今日も遅刻せずに無事着きそうだ。
「うま。このサンドイッチ、マジうまい」
「そう」
「塔矢が作ったの?」
「母だよ」
「ふーん。今度明子さんにお礼言わなきゃな」
朝飯なんか食べる時間もちろんないから、最初のうちはコンビニに寄ってもらっていた。
でも最近はそのコンビニに寄る時間さえも勿体ないとかで、オレの朝食を毎日持参で迎えにきてくれる。
「どうせ僕のお弁当を作るついでだろうから、気にしなくていいよ」
「はは、放っといたらオマエすぐ昼食抜くからな〜」
「対局途中に気を抜きたくないだけだ」
「はいはい」
食べ終わるとちょうど棋院に着く頃で、オレはいつも玄関前で降ろされる。
「サンキューな」
「うん。車止めてくる」
「ああ。また後でな」
最初の頃はこんなオレらを見てヒューヒューと門脇さんあたりがよく冷やかしてきたもんだけど、最近じゃこれがもう当たり前の風景で、オレの仲間内じゃ今やもう誰も特別な反応をしない。
ただ
「奥さんは?」
「車置きに行った」
塔矢のことを妻呼わばりするのは勘弁してほしい。
(最近じゃあ面倒臭くて訂正すらしてないけど)
「にしても毎日毎日わざわざ起こしに来てくれるなんてすげーよな」
和谷が「あの塔矢が」と付け加える。
「寝坊で一回アイツに迷惑かけたことあるからな。一緒に受けるはずの取材がおかげでパァになった」
「へー」
「めちゃくちゃキレられてさ、でもオレも起きられないものは起きられねーんだよみたいに逆ギレしちまってさ。で、いつの間にかこんなことになってた」
「はは…もうアレだな。プロポーズの言葉は『オレを一生起こして下さい』で決まりだな」
「バーカ。その前に付き合ってねぇっつーの」
なんて笑ってはぐらかしながらも、それいいな〜なんて最近思う。
オレを一生起こして下さい……か。
うん。
確かに寝起きにアイツの顔見るとちょっと嬉しい…つーか、ちょっと変な想像してしまうというか…。
てか、オレ毎朝布団剥がされてるけど、それってやっぱりもちろん……見られてるよな…勃ってるとこ。
げーーっっ
アイツ何も言わないけどそれってめちゃくちゃ恥ずかしくねぇ??
「進藤」
「わっ!」
いきなり後ろから塔矢の声がして、慌てて振り返った。
「明日はキミもオフだったよね?」
「あ……うん」
「じゃあ明日は起こしに行かないから。自分で好きな時間に起きてくれ」
「あ…待って。キミも…ってことはオマエも休みなんだ?」
「そうだけど?」
「じゃあオレん家で打たねぇ?ここんとこ検討も全然してないじゃん」
「…いいけど」
「決まりな。じゃあ…明日は10時に家に来てよ」
「分かった」
約束だけしてさっさと自分の席に行ってしまった。
へへ〜やったね!
休みの塔矢をゲットだぜ。
オフの日の朝10時。
うん、確実に寝てるな。
明日も塔矢に起こしてもらお〜っと。
NEXT