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●○●○● 観覧車 アキラ ●○●○●
「俺こういうの苦手なんよなぁ…。脅かすのは好きなんやけど」
「はは」
「塔矢は大丈夫なん?」
「うん。進藤が幽霊とか大好きで、よくホラー映画に付き合わされてたからね。近所の神社やお寺にも毎年のように肝試しに誘われてたし。僕の家も古い日本家屋で、いかにも出そうだから気に入ってるみたい」
「へー…意外やな。アイツ一番に逃げそうなイメージがあるのに」
「そうだね」
本物の神社やお寺の怖さに比べたら、作り物のお化け屋敷なんか全然怖くない。余裕でクリアーだ。
「あ。結構暗くなってきたね」
「ほな夕飯に行こか。花火まであと一時間やし、ちょうどいいな」
僕らより後に入った進藤達も続けて出てきた。
轟さんは進藤の腕にベッタリだ。
羨ましいな…。
「全然怖くなかったな!」
「いーや、充分怖かったで?なぁ?轟さん」
轟さんがウンウン!と思いっきり首を縦に振った。
「オマエは?ビビって社に抱き着いてたんじゃねーの?」
む。
「誰かさんのお蔭でずいぶんこういう類いには慣れたから平気だよ」
「ふーん、可愛くない奴」
「可愛くなくて結構っ」
進藤が笑ってきた。
夕飯は観覧車近くのビュッフェレストランでとることになった。
食べ終わった頃には花火大会がスタートして。
僕らは観覧車の列に並びながら、変化する火薬のショーに見入った。
「綺麗やなぁ…」
「うん…」
社が、僕の右手を握ってきた。
社……
今日一日デートしてみて、思ったこと。
社は確かに理想の彼氏なのかもしれない。
でもやっぱり僕は……進藤のことが好きだ……
その気持ちが、社の握った手を振りほどいた――
「塔矢…?」
「……ごめん」
「何で謝るん?」
「………」
ちょうど順番が回ってきて、僕と社は観覧車に乗り込んだ。
二人だけの密室。
社が僕の顔をジッと見つめてるのには気付いてたけど、僕はあえて気づかないふりをして、外の花火に視線を向けていた。
「塔矢…」
「綺麗だね」
「塔矢、こっち向いてくれへん?」
「………」
そうっと、彼の方を向いた。
「今日は楽しかったな」
「うん……僕も」
「本当は残念やねん…塔矢と同じ部屋になれんで」
「………」
「でも塔矢はホッとしとるんやろ?」
「え…?」
ギクッ…
「というか、進藤と一緒の部屋になってしもて、どーしましょって感じか?」
「そ、そんなこと…」
「隠さんでもいいわ。ずーっと前から、お前らに初めて会った時から気付いてたことやし」
え……?
「好きなんやろ?進藤のことが」
「………ごめん」
「だから、何で謝るん?何にも悪いことしてへんのに」
「だって、進藤のことが好きなのに……社と付き合おうとした」
「そやなぁ。嬉しかったけど、やっぱ傷付いたなぁ。慰謝料もらわんと」
「え……?」
チュッ…
一瞬だけ、僕の唇に彼の唇が触れた。
もちろん、僕にとってはファーストキスだ。
「や…社…っ、今…っ」
「塔矢、覚えときや?付き合うんOKしたってことは、当然こういうこともしていいってOKしたんと同じなんやで?」
「だからって…!」
「嫌なんやったら、好きな男以外の告白や受けたらあかん」
「……だって、進藤には轟さんが――」
「俺さっき言うたよな?お前らに初めて会った時から気付いてたって」
「え…?」
「気付いてたんは何も塔矢の気持ちだけやないで?進藤の気持ちもや」
進藤の…気持ち…?
「お前ら不器用やし頑固やけんなぁ。こんな風に誰かがお膳立てしてやらな、これからも色んな奴の気持ちを傷付けそうやったからな」
「社……」
「もう年貢の納め時やって。いい加減そろそろくっつきや、お前ら」
「……うん」
本当に社の言う通りだったら、どんなに嬉しいだろう。
観覧車を降りた後、僕は恥ずかしくて進藤の顔を見ることが出来なかった。
でも進藤は、ものすごく見てくる。
というか……怒ってる?
「…チューなんかしてんじゃねーよ」
え…っ?!
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