●W 4●





●○●○● ムカつく  ヒカル ●○●○●



「あ〜面白かった」



スネイクを往復すること5回。

ようやく満足して戻ると―――社と塔矢がベタベタくっついてプールで遊んでいた。


ちょっと…衝撃。

ちょっと…ショック?



「私達今合流したらお邪魔かな?」

「……別にいいんじゃねーの?」

「でも…」


ルルが止めるのも聞かず、オレは二人に声をかけた。


「社!塔矢!お待たせ」

塔矢が慌てて社から離れていた。


「なぁ、水中バレーしねぇ?」

「おー!ええなぁ」

「僕…初めてなんだけど…」

「ビーチバレーを単に水の中でするだけやから簡単やって」

「そう?」


………。


手取り足取り、親切ご丁寧に塔矢にルールを説明してやっている社を見て、何だかムカ。

訳の分からないイライラが止まらなくて、バレーで塔矢を集中攻撃してみた。

でも見兼ねた社が助けに入って、ますます二人がいい感じに。


あーーームカつくよなぁ!




「ヒカル、さっきからちょっと変」

昼メシを食べてる時、ルルがオレに言ってきた。


「変?どこが?」

「イライラしてる」

「別にイライラなんか…」


チラッと横のテーブルを見ると、また塔矢と社が楽しそうに話してて…ムカ。

つーか社、それ塔矢のジュースじゃん!

こら!飲むな!

何堂々と間接キスしてんだよ?!



ボキッ



持ってた割り箸を思わず折ってしまった。


「はは…新しいの貰ってくる」

「ヒカル…」

ルルが心配そうに見てくる。

確かにオレ…変だ……

塔矢と社が仲いいのが異様にムカつく。

二人は一応付き合ってんだから当たり前なことなのに……ムカつく。見たくない。






「昼からは別行動しようぜ。また4時ぐらいに更衣室前に集合で」

「ええで」


見たくないなら、見なければいい。

昼からはルルと二人きりで遊ぶことにした。


「ヒカル、波のあるプールに行こうよ」

「おう!」

「死海プールなんてのもあるんだって。塩分濃度が高いから絶対に沈まないらしいよ」

「へー…」


でも、ずっとモヤモヤが晴れなかった。

今頃あの二人、どこで何してんだろ…と気になってばかり。

自分から別行動しようって言いだしたくせに無駄に二人の姿を探してしまっていた。


「も〜、ヒカルったらさっきから上の空。心配なの?塔矢さんと社君のこと!」

と、ルルに言われる始末。

「べ、別に…」

「嘘ばっかり。そんなに気になるなら別行動なんかしなかったらよかったのに」

「だって……見たくねーし」

「塔矢さんと社君がいちゃついてるところを?」

「………」

「ヒカルって、本当は塔矢さんのこと好きなんじゃないの?」




―――は…?




「好き…?オレが?塔矢を?はは……んなわけ…。オレにはお前がいるのに…」

「じゃあどうして、いつもいつもいつも塔矢さんの話ばかりするんですかー?」

「オレ…そんなにしてた?」

コクン、と頷かれてしまった。

恥ずかしさで顔の温度が上がる…。


「確かにさ、塔矢はオレにとって無二のライバルで…碁に関しては尊敬もしてるよ。お前も棋士だから分かるだろ?塔矢の碁ってすごく勉強になるんだ」

「ヒカルの口からでる塔矢さんの話は、ほとんど囲碁とは関係のないことばかりですけど?」

「そ、そうだっけ?ごめん…」

「好きなんでしょ?いい加減認めれば?」

「認めれば?ってお前…」


自分の気持ちのはずなのに分からない。

マジで?マジなのか?

本当にオレ、塔矢のことが好きなのか?

どうなんだ?

確かに、社と楽しそうな塔矢を見てたらすげームカついてるのは本当だけど…。


でも……、ていうか……というか……


「ルルの口からそんなこと言われるなんて思ってなかった…」

「そう?」

「オレらこの三年間…上手くいってたじゃん…。そりゃ喧嘩もいっぱいしたけどすぐ仲直り出来てたし…」

「そうね」

「オレはルルが好きだよ?このままゴールインしてもいいかもってオレ…実は思ってたんだけど?」

「そうなんだ。私はこれっぽっちも思ってなかったけどね」

「ルル…?」


いきなりの彼女の醜態に、耳を疑った。

でも、目が本気だった。


「ヒカルには感謝してるよ。プロ試験受かるまで…結構励ましてくれたよね?ヒカルって本当アゲメンだと思う。でも、私はヒカルを上げることは出来ない」

「は…?」

「ヒカルを上げてたのはいつも塔矢さんだった。塔矢さんがいたから今のタイトルホルダーのヒカルがいる。違う?」

「そりゃ…塔矢がいたから今のオレの力があるのは確かだけど。でも恋愛とは別だと思う…」

「本当に?じゃあ塔矢さんと社君がこのまま上手くいってゴールインしちゃってもいいんだ?心から祝福出来るんだ?」


塔矢と社が…結婚…?


それはちょっと…、いや、ちょっとどころか……




―――嫌だ―――




「今夜…どうするの?本当に社君と塔矢さんが同室でいいの?さっきの様子だとあの二人…」

「一緒の部屋でなんか…寝させるかよ」

「ふーん」

「ごめん…ルル。オレ…オレ…やっぱ……」




―――塔矢が好きだ―――



―――誰にも渡したくない―――







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