●W 2●
●○●○● ルル ヒカル ●○●○●
「Wデート?」
「そ。塔矢にやっと彼氏が出来たみたいなんだよ」
「うそ、塔矢さんに??」
「でさ〜、相手誰だと思う?」
「誰?私も知ってる人?」
「何と関西棋院の社なんだって!」
「社って……社清春?」
「うん。昔っから知ってる二人だから何かオレまで興奮しちまってさ、面白そうだからアイツらの初デートにもお邪魔しちゃおうかと思って♪」
昨日―――塔矢と社が正式に交際をスタートさせた――
『社と付き合うことになった』
そう書かれた塔矢からのメールを受けとった時、オレは正直言ってめちゃくちゃ驚いてしまった。
社の告白を聞かされた時も驚いたけど、まさか塔矢が本当にOKするなんてビックリだ。
そもそも社が塔矢を好きだなんて…初耳だったし。
塔矢ってオレのこと好きなんじゃねぇ?って、ちょっと自惚れてたりもしたからさ。
二人が付き合い始めたのはちょっと残念だけど、でも実はそれ以上に安心したのも事実。
だって塔矢ってモテるくせにずっと独り身なんだもん。
ひたすら囲碁一筋のアイツ見てたら心配だった。
他のこと、年相応に普通に恋愛とかにも興味持ってほしかったんだよな。
「私この前オープンしたマリンランド行きたいんだ♪Wデートそこにしようよ」
「お、いいな」
オレとルルは早速Wデートのプランを勝手に練り始めた。
決行は社が連休の取れる月火。
来週のその日はちょうどオレらも塔矢もオフだったはずだから、もうそこで決まりだ。
もちろん泊まり。
その遊園地に併設のホテルを二部屋予約することにした。
「いきなり泊まりだなんて、塔矢さん嫌がらないかなぁ」
「はは、女同士・男同士に別れて寝ようとか言い出すかもな」
でも、それもいいかも?
恋人同士の男と女が一緒の部屋で寝て…することって一つだけだし。
塔矢と社はもう恋人なんだ。
キスとか…それ以上のこともそのうちするんだよな…?
想像するとちょっと…嫌だった。
社なら絶対塔矢のことを大事にしてくれるだろう。
でも、何かちょっと複雑なんだよなぁ…。
オレって矛盾してる?
「女同士…ね。別に塔矢さんは嫌いじゃないけど、私はヒカルと一緒がいいなぁ」
「…オレも」
ふふ♪と、ルルが抱き着いてきた。
ネットでホテルの予約を終えたオレは、パソコンを閉じた後――彼女を抱きしめ返し、そのままベッドに押し倒した。
服を脱がし合いながらいちゃついて、もう何度目になるのか分からない彼女とのエッチを、この日も真昼間から楽しんだ。
「好きだよ……ヒカル…」
「うん…」
「ヒカルも…私のこと好き…?」
「当たり前だろ?忘れたのかよ…告ったのはオレの方だぜ?」
「…うん、そうだったね…」
彼女、轟ルルにオレが告白したのはもう三年も前のことだ。
院生だった彼女のことは昔から知っていた。
もっとも、ルルが院生になったのはオレがちょうどプロ試験を通った後だったから、入れ違いだったんだけど。
でもフクや奈瀬達からも話は聞いていたし、院生連中と遊びに行く時はいつも彼女は一緒だった。
ルルは奈瀬達と一緒で、結局18歳になってもプロなれないまま院生を卒業した一人だ。
白川先生の紹介で、森下研究会に顔を出し始めたのは19の時。
合格を目指して諦めずにひたすら頑張る彼女に、オレは知らず知らずのうちに惹かれていた。
そしてハタチの時――女流枠でギリギリで合格したその日に、オレは彼女に告白したんだ。
もう三年も前の話だ。
このままずっとこの子と付き合うのかな。
でもっていつかはゴールインしちまうのかな……
「社!塔矢!こっちこっちー!」
Wデート当日。
オレはルルと近くの駅で待ち合わせてから、社達と合流すべくマリンランドに向かった。
塔矢と社。
二人の間には初デートっぽく、ぎこちない距離がまだあった。
笑える。
「あ、社はルルに会うの初めてだっけ?紹介するよ」
「轟さんやろ?紹介せんでも誰でも知っとるって」
「そりゃそうか」
ルルは見た目だけなら女流一だ。
入段当初からその容姿の良さでテレビの囲碁講座を常に任されていたし、それがまた異様に評判が良かったからか、今年の春からはテレビCMにも出ちゃったりしている。
もちろん、スポンサー側はタイトルホルダーっていう肩書きを持った女流を求めてたらしいんだけど、女流タイトルは天下の塔矢アキラ様が総なめしちゃってるからな。
でも当たり前だけど、普通の七大タイトルをも二つも持ってる塔矢にそんな時間はない。
だから結局見た目重視になって、ルルにそういう広告塔の仕事が回ってきてるわけだ。
「よし!じゃあ取りあえずまずはプールだな!着替えてこようぜ♪」
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