●W 1●
●○●○● 告白 アキラ ●○●○●
「塔矢、好きや」
「……え?」
社に告白された。
大阪での対局を終えて、東京に帰ろうと最終の新幹線を待っていた時だった。
あまりに突然過ぎて、僕の思考回路はもちろんパニック。
どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。
社が?
僕を?
好き?
僕は………
「返事…急がへんから。来週は俺の方が東京で手合いやねん。出来たらその時塔矢の気持ち教えて?」
「う…ん。考えてみる…」
新幹線がホームに入ってきた。
告白されて真っ赤な顔のまま、僕はそれに飛び乗る。
席について、ホームにいる社をチラッとみた。
手を振ってくれてる彼の顔も、僕と同じくらい赤かった。
本気の告白の証拠。
冗談じゃないんだ。
……どうしよう……進藤……
東京にいる僕の昔からの想い人の顔と、社の顔を、僕は家に着くまで交互に思い浮かべていた―――
「社に告白された」
翌日――進藤を囲碁サロンに呼び出した僕は、彼に昨日のことを話してみた。
「うお、マジで?」
と、人の色恋話に興味津々そうに耳を傾けてくる彼。
ずばり、僕のことなんか友達以上に思っていない証拠だろう。
ぎゅっ…と拳を握り締めた。
「で?もう返事したのかよ?付き合うのか?」
「…まだ検討中。返事来週でいいって言われたし」
「OKしちゃえよ〜。だって社だろ?オレが女なら即行OKしてると思うけどな」
「……」
確かに社はカッコイイ。
身長も高いし、顔もいいし、オシャレだ。
性格もいい。
すごく気さくで話しやすくて、誰とでもすぐに打ち解けれていて……僕とは正反対。
碁も強い。
今の関西の若手の中だと断トツだろう。
社と打つのはすごく勉強になるし…楽しい。
そうだね、他の女流棋士にこんな相談したら、自慢にしか聞こえないだろう。
そのくらい今の社は女性に人気で、理想の彼氏像だった。
でも……僕は………
「オマエが社と付き合ったら一回Wデートしようぜ。ルルも絶対ノってくると思う」
「…そうだね……楽しそうだね…」
「何だよ、テンション低いなぁ。大丈夫だって、社だったら絶対オマエを支えてくれるいいパートナーになるって」
「………うん」
でも僕は…進藤が好きだった。
進藤ヒカルがずっとずっと好きだった。
初めて出会った時からずっと彼の碁は気になってて、彼自身を気になりだしたのも最近のことじゃない。
でも……進藤には最愛の彼女がいて。
しかも彼女、轟ルル(本名らしい)も女流棋士で僕らと同い年。
まだ三年目だから棋力はそんなにたいしたことないけど、僕とはまるで正反対の明るくて可愛くてオシャレで…進藤にはピッタリの女の子だ。
Wデート?
…はっ!何が悲しくて進藤と彼女がイチャイチャしてる所を見せ付けられなくちゃならないんだ。
冗談じゃない。
冗談じゃないよ……全く……
今日も昼から彼女とデートだとかいう進藤と別れて家に帰った後、僕はこのモヤモヤな気持ちを消すために、布団に潜って……ひたすら泣いた。
目が腫れるぐらい、涙が枯れるぐらい泣きまくった。
進藤のバカ。
バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカー!!
と心の中で叫びまくって。
涙って不思議。
しばらくすると、何だかスッキリして、頭も気持ちも落ち着いた。
『社だったら絶対オマエを支えてくれるいいパートナーになるって』
進藤のこの言葉……信じてみようかな。
社と……付き合ってみようか…な。
翌週――日本棋院に来た社に、僕はOKしてみた。
「ホンマに?あかん、嬉し過ぎて今にも塔矢を抱きついてしまいそうや」
「――え?」
突然抱きしめられて、男の人の体を直に感じて――僕は真っ赤になって固まってしまった。
「ちょっ、社っ!ここ棋院だ…っ!」
「だって嬉しんやもん!」
「だからって…っ」
こうして23歳の夏――僕に初めて彼氏というものが出来た―――
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