●VIEW 3●
「あ…そうだ。塔矢、バスルーム行ってみろよ」
横たわってまどろんでいる僕の肩を擦って、進藤が何かを思い出したように促してきた。
「え…?何…?」
「いいから、行ってみて」
僕の両脇を掴んで起こそうとする。
何なんだ…?
一体…。
差し出された浴衣を着て、不穏に思いながらバスルームのドアを開けてみた。
洗面室とは別れてる使いやすいタイプだ…な。
でも奥のバスルームが異様に明るい。
何なんだろう…と更に奥のドアを開けてみた。
え…
「キミ…これ…」
「へへ、びっくりした?」
「うん―」
「この部屋バス・ビューになっててさ、お風呂場からも外が見えるんだぜ」
先ほど部屋から見えた景色が、角度を変えて同じようにここからも見える。
「キミって…、変な所をこだわるよね…」
「え?ダメ?最高だと思ったんだけど…」
「うん…最高だよ、嬉しい―。でも外から…」
「大丈夫だって、ここ何階だと思ってんだよ。それに外からはよく見えない造りになってるんだってさ」
「そうなんだ…」
ちゃんとチェックインの時に確認済み、と言った。
「夜になったら一緒に入ろうぜ」
「―うん」
夜景がとても綺麗そうだ。
何だかすごく楽しみになってきた。
取りあえずシャワーを浴びて出ていくと、進藤がテレビを点けて、ルームサービスのメニューに目を通していた。
「メシどうしよっかなー」
「良さそうなの載ってる?」
「…何か普通のもんしかねぇ…」
しかも高すぎ、とメニューを机の上に放り投げた。
「下のレストラン街に行ってみるか?」
「うん、いいよ」
浴衣を脱いでまた元の服に着替え始めた。
進藤も僕の方を見ないように後ろを向いて着替え出す。
…たぶん僕の裸を見ると、また触りたくなるから…だろう。
ずいぶん前にそのことでもケンカをした覚えがある…。
じゃあ僕が進藤の目につかないようバスルームかどこかでこそこそ着替えればいいのか?
それもまた変な話だし…正直面倒だ。
取りあえず進藤は僕が他の人の前で着替えなかったらいいと結論付けていた。
…無理な話だけど。
「確か8階あたりがレストラン街だったよな…」
「そうだったと思う」
「面倒だよなー」
進藤が愚痴りながら26のボタンを押した。
この階に付いているエレベーターは宿泊客専用で、下のショッピングセンターやオフィスとは繋がっていない。
一度26階のロビーで乗り換えなければならなかった。
チン
「えっと確か向こうのエレベーターだったよな…」
ロビーを横切って向かい始めたその時――ラウンジ近くにいる団体に目がいった。
え…?
見覚えのある後姿……どころじゃない!
緒方さんと…お父さん達だ!
慌てて顔を反対側に向けた。
気付かれてないよね…?
「進藤…!」
小声で名前を呼びながら服の裾を引っ張った。
「何だよ、塔矢」
「お父さん達がいる…」
「えっ!?」
慌てて進藤がその姿を確認する為にあたりをキョロキョロ見渡した。
「げっ…!緒方さんもいるじゃん!やっば…」
慌ててロビーからエレベーターの所にまで引き換えした。
「ったく、何でこんな所に!」
「…そういえば今朝出かける時、お母さんが今日は結婚式があるとか言ってた…」
「何で場所聞いておかないんだよ!」
「はち会うなんて思ってなかったんだ!今日は買い物だけして帰るつもりだったし…」
「で、どうすんだよ?」
「……」
どうしよう…。
向こうのエレベーターに乗るには絶対にロビーを通らなければならない…。
ここからだと軽く3・40mはあるから、見つからない可能性の方が少ない。
「別々に行くか?」
「そんなことしても同じだよ。もし見つかってここで何をしてるんだって聞かれたら答えようがない」
「適当に誤魔化せばいいじゃん」
「何て?僕は今日進藤と買い物に行ってくるって家を出たんだぞ?!」
「うわっ、オレの名前出したのかよ…」
出しちゃいけなかったのか…?
僕の両親は進藤のことをただの友達だと思ってるから、一人で買い物に行ってくるって言うよりはよほど筋が通ってると思うんだけど…。
「あれ?じゃあオマエ無断外泊するつもりだったのか?」
「違う!ちゃんと電話はするつもりだったよ。もっと遅くなってから…進藤と碁に集中してて終電逃したから泊めてもらうとかなんとか言って…」
なるほど、と進藤が頷いた。
「じゃあ下に降りるのは諦めるか…」
「うん…」
「ルームサービスにする?」
「それか27階か43階にあるホテルのレストランだけど…」
エレベーター横の各階の説明を見た。
「んー…先生達ここのレストラン利用したりしないかな…?」
「たぶん…。結婚式って結構食事出るからね…」
―でももしもという場合もある…。
進藤と二人でホテルのディナーなんて食べてる所を見られたら……終わりだ。
「アキラさん…?」
嘘…
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