●REQUIREMENT OF TRUTH 1●


「…『つまらない』って顔してるな」

「え…?」


碁盤から顔を上げると、対戦相手が僕を睨んでいた――



もうすぐ3度目の北斗杯。

日本チームのメンバーは今年も僕と進藤と社のはずだった。

だけど直前になって社の祖父が急死。

社は北斗杯どころではなくなり、急遽和谷君が代理に立たされた。

今日からは例年通り僕の家で合宿が始まり、早くに来た和谷君と先に一局打っていたわけだけど………



「『進藤はまだかな?』『何でこんな弱い奴が北斗杯メンバーなんだ』って思ってる?」

「そ、そんなことはないよ。君の最近の伸び具合には僕も感心している。事実、代役を決めるトーナメントだって、あの越智君に勝って堂々と出場権を獲得したわけだしね」

「よく言うぜ…越智なんて本当は眼中にもないくせに」

「……」

「いや、越智だけじゃないよな。お前って同年代の棋士だと進藤以外に興味ないだろ?」

「そんなこと…ない」

「いいや、あるね。お前って昔からそうだもんな。進藤進藤進藤ってウザいほど進藤に付纏ってさ、他の奴らには挨拶もろくにしなかった。極端なんだよ」

「……すまない。今度からは気をつけるよ…」

「気をつけるとかそういう問題じゃねーんだよ。お前は根本から俺らを見下してんだ。上辺だけでいい顔される方が迷惑だ」

「……っ」

「ったく、こっちだって早く進藤に来てもらいたいぜ。嫌々打たれるとムカつくんだよ」

「そんな……」


和谷君が僕を毛嫌いしているということは、昔…進藤から聞いたことがある。

僕が進藤以外の若手棋士の実力に…正直物足りなさを感じているのも事実だ。


でも和谷君だって今回は同じ日本チームのメンバー。

仲良く…とまではいかなくても一致団結して、今年こそ日本が優勝出来るように………その為の事前合宿なのに…。

それなのに…どうして初日からこんなことを言われなくちゃならないんだ…?

僕の打ち方…そんなに露骨だったかな?

確かに少し手を抜いてたことは否定しないけど……


「…進藤さ、今日まで仙台のイベント手伝いに行ってるから、きっとまだまだ来ないぜ」

「そのくらい…君に言われなくても分かってる」

「そうだよな。お前進藤の予定把握しまくってるもんな。ストーカーだもんな〜」

「……」

「好きなんだろ?進藤のこと。付き合うのも結婚するのも進藤以外ありえないとか実は思ってんだろ?」

「それは……」

「でも残念。アイツ彼女いるぜ?」

「…そのくらい…知ってる」

「あ、そっか。お前が一度進藤の恋路の邪魔したことあったもんな。アイツあの時俺に泣き付いて来たんだぜ?マジ可哀相」

「……」

「進藤の気も知らないで無茶苦茶やってくれるよ、本当に」

「……」

「お前さー、進藤が何で彼女作るのかちゃんと分かってる?」



え…?



「何で好きでもない女とアイツが付き合ってんのか、ちゃんと分かってるのか?って聞いてんだよ」

「し、知らない…。分からない…」

和谷君が苦笑し出した。


だって……本当に知らない。

本当なのか?進藤…。

好きでもない子と付き合ってるって…。

何でそんなこと……―



「…怖いんだってさ」

「え…?」

「定期的に誰かと息抜きしておかねーとさ、お前と二人きりになった時、自分が何しでかすか分からなくて怖いんだって」

「あ……」



それって…―



「大事にされてるよなー。ま、当然か。大切な掛け替えのないライバルだもんな」

「……」

「でも俺には理解出来ないぜ。何で進藤がこんな身勝手な女を大事にすんのか…」

「…だから君は弱いんじゃないのか?強い者は公私混同したくないのが普通だ」


…しまった!

言っちゃった…―


「…言ってくれるじゃん……」

「え?……やっ、きゃ…っ」

一気に力を掛けられて、僕は仰向けに倒されてしまった―。


「…やっぱり気に食わねぇぜ…。人のこと見下しやがって…」

和谷君が唇をぎゅっと噛み締めた―。

「離せ…っ!!」

両腕を掴まれてる上、脚に体重をかけられて身動きが取れない―。

「こんなことして!ただで済むと思うなよ?!」

「ああ、思ってねーよ。せいぜい進藤が来たらアイツに泣き付けばいいさ。俺にレイプされたってな」

「レ……」


一気に顔が真っ青になった気がした。

レイプって……

本気…か…?


「そしたら大好きな進藤が優し〜く宥めてくれるかもよ?」

「ふざけるな…」

「悪いな。俺は進藤と違っていつも大真面目でね」

「……」

「ずっとお前を泣かせる方法を考えてた…。それを今実行するだけだ」

「ちょ…やだっ…!」

彼の手が下半身に触れてきた―。


「安心しろよ。いきなり突っ込んだりしねぇよ。ちゃんと慣らしてやる」

「冗…談…っ!いいかげんに…――…ぁ…―」

直に秘部を触られて…気持ち悪さに涙が出てきた…―。


「目瞑って進藤の顔でも思い浮かべてたら?」

「いや…進…っ、や…ぁ…っ…―」

「アイツは助けに来ないぜ?まだ新幹線の中だろ」

「…ぅ…―」

「もしかしたら東京に帰ってきた後もさ、ここには直行せず一度彼女の部屋に寄ったりしてな…」

「…や…っ…ぁ…―」

「お前もムカつかねぇ?アイツ他の女にこういうことしまくってんだぜ?」

「…ぁ…んっ…―」

「お前の気持ち全然分かってねぇよな…。お前は別に進藤になら何されてもいいのにな?」

「や…っ…ぁ…―」

「ま、これを餌にお前の方から進藤の胸に飛び込んでけよ」

「………」

「傷ついた体を今夜慰めてもらえって。…ま、お前がアイツにこのことを言えたら…の話だけどな」

「……ぅ…っ」


「そろそろいくぜ?」

「やだ…っ!やめっ…ぁ…、や…っあぁ…―」







――時刻、夜8:20。


進藤が到着したのはこれより2時間も後だった――
















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