●REQUIREMENT OF TRUTH 2●


――夜8:20

何となく胸騒ぎがしたので、デッキに出て塔矢ん家に電話してみた―。


プルルルル
プルルルル
プルルルル
………

「……出ない?」

続けて塔矢の携帯や和谷の携帯にもかけてみたけど全く音沙汰なし。

「…ったく、電話ぐらい出ろよっ」


仕方なく席に戻って、とっくに日が沈んで真っ暗な夜の風景を睨み付けた。


和谷…もう塔矢ん家に着いてるはずだよな?

遅くても7時には着くように家出るって言ってたし。

今頃何してんだろ…。



……ちょっと心配……



だって和谷は昔っから塔矢のことが大嫌いだし、塔矢は塔矢でオレ以外の同年代の棋士を思いっきり見下してるし…。

大人しく対局してくれてたらいいけど…。

はぁ…。

早く塔矢ん家に行きたいぜ。

早く塔矢に会いたい…―


アイツと二人きりになるのはゴメン。

だけどこんなに会いたくなるのは……やっぱりオレがアイツに惚れてる証拠なんだろうなってつくづく思う。

塔矢の方もオレを好いてくれてるのは嫌ってほど分かってる。

……だけど今のオレらはライバルの関係を続けた方がいい。


もし一度でもアイツに触れちまったら…自分がどうなるかぐらい分かってる。

歯止めが効かなくなって……見境無くなくなって……碁なんかどうでもよくなって……――


だからアイツと二人きりになる時は最善の注意を払ってる。

絶対に欲求不満な状態では会わない。

その為に作った彼女。


だけど……今回のゴールデン・ウィーク中、1日もまともに会えないことに不満を言ってきた。

塔矢という他の女の家で合宿することにもキレられた。

結局……オレは仙台に行く前、3ヶ月付き合った彼女にフラれてしまったんだ―。


好きでもない奴と付き合ってたわけだから、気分的には

『別にいいか。大会終わったらまた新しい子でも探そう』

ってなノリなんだけど……この合宿・大会中の処理の相手がいなくなってしまったことに悩む。

予定では間間で呼び出してちょっと構ってもらうつもりだったのに…。


あーあ…。

女ってやっぱ思い通りにはいかないよなぁ…―









「10時…か」


東京駅に着いた頃には既に10時を回っていた。

すぐにメトロに乗り換えて塔矢ん家に向かう。


ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン

「おーい。塔矢〜?和谷〜?」

しつこくインターフォンを鳴らすと、ガラッと戸が乱暴に開いた。


「進藤!遅いぜ!」

「ご、ごめん和谷。これでも急いだんだけど…。塔矢は?」

「風呂入ってる」

「そっか…。んじゃオレもアイツの後に入らせてもらおうかな…」


塔矢が出て来るまで和谷と一局打つことにした。


「塔矢とは打った?」

「…まぁな。手ぇ抜きやがって、相変わらずムカつく奴だぜ」

「はは…。まぁ同じ日本チームのメンバーだし、嫌かもしれねぇけど仲良くな」

「……」


15分ぐらいすると、塔矢が風呂から出てきた。

パジャマ姿が色っぽくて少し鼓動が早くなる。


「進藤…いらっしゃい」

「うん、遅くなってごめんな」

「……別に」

「……?」

俺と目も合わせないまま自分の部屋に向かってしまった。


「…和谷。塔矢のやつ…テンション低くねぇ?何かあった?」

「弱いオレがメンバーなのに不満なんじゃねぇの?」

「んなことないと思うけど…。じゃあオレも風呂に入ってくるよ」

「ああ」


その前にやっぱり気になって塔矢の部屋に寄ってみた。

すると障子の隙間からアイツが布団に突っ伏してる姿が見えた。


「塔矢?!大丈夫か?!」

慌てて障子を全開して、急いで駆け寄って体を起こそうとした。

だけど……―


「嫌っ!!」

「塔矢…?」


思いっきり手を弾かれて、枕も投げ付けられてしまった。


「い…ってー…。何すんだよ…」

「来るなっ!!」

「え…?」


部屋の隅まで逃げて、青くなって震えてる。

そのアイツらしくない異様な姿に心配になって、一歩踏み出そうとしたらビクッと塔矢の体が反応した。


「来ないで…来ないでっ!!」


首を小刻みに振っている。

まるで殺人鬼を目の当たりにしたみたいに―。


「…男の人なんて…大嫌い…―」

「塔矢…?」

「進藤…なんか…進藤なんか…大嫌いだ…」

「………」



大…嫌い…?



「…ぅ……っ…―」


泣き出す塔矢に近寄りたくても、怯えてくる姿にどうすることも出来ず……取りあえず部屋を後にした。


「わ、和谷っ!塔矢マジでおかしいって!本当に何もなかったのか?!」

「知らねぇよ…塔矢なんか」

「和谷…?」


こいつも……何か変だ。

和谷は人一倍面倒見がよくて…お節介で…困ってる人がいたら放っておけないタイプなのに…。


「塔矢と…ケンカでもした…?」

「別に…」

「……」

「進藤、さっさと風呂入ってくれば?」

「…あ…あぁ」


いつもと違う二人の様子に愕然としちまう。

二人の間に…何かあったのか…?



『男の人なんて大嫌い』

…どういう意味だ…?


『進藤なんか大嫌い』

……。

…ちょっと……いや、かなりショックなんだけど……。

オレ…アイツにそんなに嫌われるようなことしたか…?


何かもう合宿どころの雰囲気じゃねーぞ…これじゃあ…。

一体どうなってんだ…?














CONTINUE!
ヒカ碁小説アンケートDのお礼小説に続きます…