●TROPICAL NIGHT 1●





「泊めて」



あれは暑い夏の晩だった。

もう日付も変わろうかという時間に玄関のベルがなった。

半分寝かけていたオレはもちろん最初は無視するつもりでいたが、近所迷惑になるんじゃないかってぐらいベルを連打されてしまった為、しぶしぶ玄関に行ったんだった。

ドアを開けるとそこに立っていたのは―――一番ありえないと思っていた人物。


「……塔矢?」


ただ茫然とするオレに、彼女は申し訳なさそうに言ってきた。


「泊めて」と―――


彼女の手には大きな旅行用のボストンバッグ。

家出でもしたんだろうか…。

とりあえず訳を聞こうと中に招いた。





ちなみに、塔矢がオレの部屋に入るのは初めてだ。

アパートの前まで一緒に来たことはあったけれど。

彼女は散らかりまくった部屋に冷たい視線を送りはしたが何も言わず、バッグを隅に置き、ソファーに腰掛けた。


「何か飲むか?」

「…何があるの?」

「えっと…水にコーラにファンタにサイダーかな。あとビール、酎ハイ」

「……」


聞くまでもなかったのかもしれない。

塔矢は迷わず水を選んだ。



「ほい、水。…で?一体どうしたんだよ?家出でもしたのか?」

「…うん」

「マジ?今塔矢先生と明子さん、帰ってきてるんだ?」

「今日の昼に突然帰ってきたんだ。…僕の、結婚相手が見つかったって…」

「………は?」


結婚相手?


結婚??!


「マジで?!オマエ、結婚すんの?!」

「するわけないだろう!!…でも父と母はもう決めたみたいで。いい人だから僕も気に入るだろうって。あのまま家にいたは明日にでもその結婚相手のところに連れていかれそうだったから…逃げてきたんだ…」

「へ…、へぇ…。そりゃ大変だったな…」

「だから…泊めてくれる…?」

「………」


そりゃあ……別に泊めたって構わない。

余分な布団はないけど毛布はあるから、夏だし雑魚寝したってオレは全然構わない。

今は彼女もいないから何も後ろめたいことはない。

ただ……


「…なぁ、何でわざわざココまで来たんだよ?オマエん家からじゃ遠かっただろ?市河さんや奈瀬ん家の方が近いじゃん。ホテルだって山ほどあるし…」

「それは……」


塔矢が俯いてしまった。

んん?っと、オレは垂れた髪の隙間から彼女の顔を覗き込む。

真っ赤になってしまっていた。


「…塔矢?大丈夫か?」

「…分からないのか?」

「へ?」

「言わなくても、普通分かるだろう?」

「え…」

「鈍感!」


Tシャツの首元を掴まれ、彼女の方に引っ張られた。

と同時に温かいもので口を塞がれた。


え?

え?

何でオレ…コイツにキスされてんだ…?

しかもめちゃくちゃ下手くそなキス…。



「――…ふは…っ」

唇を離した塔矢は、一人息を乱して過呼吸になっていた。

「これで分かっただろ?!」

とすごい睨みをきかせて怒ってきた。


…ああ、分かったよ。

何でこんな時間に、ただのライバルであるオレの元にやってきたのか、やっと理解出来たよ。

信じられないけど。

だって、この塔矢アキラがオレのことを好きだなんて……


「…いつから?」

「そんなの…忘れた。中学を卒業する頃にはもう…」

「…いつまで?」

「え?いつまでって…?」

「いつまで、オレん家にいたいんだよ?」

「………」


あえて意地悪な質問をしてみた。

明日まで?

明後日まで?

それとも、その下手くそなキスが上手くなるまで?


「進…――」


今度はオレの方から唇を重ねてみた。

初心者のコイツに教えるように…優しく、丁寧に。


「んっ、ん…っ、ん…―」


塔矢の手がギュッと自分のスカートを握りしめていた。

その手にオレの手を優しく重ねてやる。

…細い指だ。

こんな細い指であんな力強い碁を打ってるんだな…。

こんな細い体であんなすごいプレッシャーとひとりで戦ってるんだな…、と今度は体を抱きしめた。



……でも、オレは一体どうすればいいんだろう……


ずっとライバルで、小学校の時から知ってて、どの女よりも女として見ていなかったこの塔矢アキラの想いを……どうやって受け止めればいいんだろう。

オレに受け止めきれるんだろうか…。



「は…ぁ…。ん…進…藤…」

「塔矢…」


唇を離した後、今度は首筋に吸い付いた。

痕が付くくらい強く、唾液が垂れるくらいイヤらしく。

そのままの体勢で…ソファーに彼女の体を倒した。

下からオレを見つめてくる…。


「……いいのか?オマエ…」

「え…?」

「オレ、オマエに好きとも、付き合ってくれとも言ってないぜ?このまま流されて…ヤられていいのかよ?」

「…うん、構わない」

「…本気で言ってんのか?」

「本気だよ…。僕はキミがずっと欲しかったから…。キミに抱かれたかった…」


塔矢が震える手で、オレの手を自分の胸に当ててきた。

痛いほど必死さが伝わってくる。

本気なのが伝わってくる。

本能的に勝手に揉みだしたオレの手に、塔矢は声を殺して感じ始めた。


「ん…っ…」


ブラウスのボタンを一つ一つ外して、前を暴けさせた。

ブラ越しに、そしてホックも外してずらして、今度は直に彼女の胸を揉む。

思ってたよりも全然大きいこの贅肉の固まりに、夢中になる。

着痩せするタイプなんだろうか…。


「…ぁ…っ」


先端に口づけると、彼女の脚がビクッと動いた。

ひざ頭が一瞬だけオレの下半身の中心に当たる。

前の彼女と別れて既に一年以上経ってるオレは、当然今の興奮状態は半端ない。

相手が塔矢だってのに。

…いや、塔矢だからこそ、こんなに興奮してるのかもしれない。

普段は鉄のような氷のようなこの女が、オレの下でこんなに可愛く…エロく、喘いでるのかと思ったら――









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