●WANT TO MARRY 9●
大好きなキミがくれたせっかくのバースデー・プレゼント。
大事にしたいと思うのは当然のことだろう?
それなのに…
まだ一度も着てないのに…
シワくちゃになるなんて絶対に御免だ!
「…ごめんな、塔矢…」
「別に…」
一度我に返った進藤は、ドレスを脱いだ後も…僕に触れてこようとはしなかった。
仕方ないので僕も再び元着ていた服を着てみる。
重い沈黙だけが部屋を包み…何だか無性に辛くなった。
…やっぱり拒むんじゃなかった…
でももしせっかくのドレスが汚れたりでもしたら…――
「…クリスマスさ、撮影会場のホテルのスカイレストラン…予約しておくな」
「え…?」
「オマエのドレス姿はさ…、やっぱりその時にちゃんと見させてもらうよ」
「…うん」
「今日の続きもその時な。やっぱり…明日はお互い仕事あるしさ…」
「そう…だね。クリスマスは3連休だもん…ね」
「おう!久々だからオールでしまくろうな!」
「うん…」
……結局
クリスマスまで持ち越しになってしまった……
一気に拍子抜けして肩がガックリと下がる。
…あーあ。
明日の仕事がなんだっていうんだ…。
昔は例え明日が大一番の対局だろうが出張だろうが…気にせずヤりまくってたじゃないか…。
進藤のバカ…――
「……帰る」
「あ、送っていくよ」
「………」
本当は引き止めて欲しかったのに、あっさりと僕を帰す彼に溜め息が出る。
車で送られてる途中も…ずっと碁のことばかりを話す僕ら。
碁の話で白熱してしまってはムードのかけらもない。
結局は当初の予想通り……キスだけで誕生日が終わってしまった。
それでも直にクリスマスがやってきて、その時こそは二人だけでずっと過ごせると思うと……まだやりきれる。
クリスマスこそは――
「当ホテルは結納から二次会まで、オーダーメイド感覚でアレンジ出来る多種多様のプランをご用いさせていただいてます。洋式特徴としましては、天井高さ18mを誇るルネサンス様式のチャペルに、それを取り囲む600平方メートルのチャペルガーデン…――」
撮影日当日。
まずはMIグループの運営するこのホテルの特徴を説明された後、実際にチャペルやら大広間などを見て回ることになった。
僕ら二人に案内係が二人。
進藤は途中で幾度となく質問したり予算まで見積もってもらったりして……なんだか本当に結婚式の相談に来たような錯覚に襲われる。
ちょっと…嬉しい。
でもその余裕も最初だけ。
すぐに撮影の為のセットが始まって、僕らは10回近くも着替えさせられるはめになった。
同じシーンを何度も撮り直したりして、なんだか今度は女優になった気分。
時には
「抱き合ってください」
とか。
時には
「口付けしてください」
とか注文をつけられたりするんだけど……
くくく口付け!??
それってまさかこの大勢の人が見てる目の前でキスをしろっていうのか??
…だけど進藤は躊躇することなく本当に僕に口付けてきた。
キミって……すごい。
でもよく考えみたら教会での結婚式には必ず『誓いのキス』というのがあるもんな。
しかも親・兄弟・親戚・知り合いが見てる中でしなくちゃならないという、洋式の結婚式で僕が一番憂鬱に思っている部分。
これさえなかったらな…といつも思う。
だから僕は和式がいい。
進藤はどっちがいいんだろう…。
「あー、やっと休憩だぜー」
ナイト・ウェディングも行っていることホテル。
当然撮影は夜になるので、夕食を兼ねて2時間ほど休憩になった。
進藤は僕の控室に来るなりソファーに寝そべり出す。
疲れてるっぽいけど、彼の顔は何だかご機嫌だ。
「今日は塔矢にいっぱいチューしちゃったなー♪」
「人前でするのって結構緊張するものだね」
「えー?オレはすげー快感だったけどー?見せびらかせたし♪」
「じゃあ進藤は………やっぱり教会で結婚式あげたいの…?」
「え?オマエ嫌なの?」
「そういうわけじゃ…ないけど…」
「オレは別に神前式でもいいぜ?オマエの白無垢も色っぽかったしな〜」
「………」
「皇族みたいに十二単ってのも面白そうだし、というか―――」
ソファーから立ち上がって、進藤が僕の側に移動してきた。
化粧台の椅子に座っている僕を――後ろから抱きしめてくる――
「…というかさ、結婚出来たら…形なんて何でもいいんですけど…」
「え…?」
「今もまだ…したくない?」
「進藤…」
それって…――
「ごめん。本当なら明日のイヴの夜にでもするべきなんだろうけど、オレ…今言いたい」
「え…?」
「今日オマエと似非結婚式してさ、ウェディングドレス姿見て……やっぱり本物したくなった」
「………」
スッと深呼吸した進藤が真面目な顔をして僕の前に移動した。
手を取って口に出してくれたのは、ずっと待ってたその一言。
「塔矢」
「はい…」
「結婚しよう」
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