●WANT TO MARRY 6●


西田九段とする棋聖リーグ最終戦。

勝てば挑戦権獲得。

負ければ同じ2敗同士のプレーオフになる。

何としてでも勝っておきたい一局だ。

二冠の意地にかけて。

そして塔矢への誕生日プレゼントの為に――


もちろんそれが本当のプレゼントというわけではない。

だけど負けた後でアイツを祝う資格なんてないと思うんだ。

勝って、アイツに釣り合う男だってことを知らしめた上でちゃんと祝いたい。


んでもって、ただ単に祝うだけじゃなくて……出来ればその後も…朝まで一緒にいたい。

ここんとこデートどころか会うのもなかなかだったしさ。

昔みたいに無理に時間合わせてまで抱きたいとは思わないけど…、それでもたまに気分的にまいってる時とか…疲れてる時は、甘い雰囲気が恋しくなるんだよな…。

塔矢に側にいて欲しい。


だから結婚したいのかも?

結婚したら取りあえず帰ってくる家は一緒だし、寝室も一緒かもしれないからさ……欲しい時にすぐに求めれる。

タイミングが良かったら子供だって出来る。

あー…やっぱ結婚っていいよな〜。


とか夢見つつ、大阪に手合いで行った時に、時間を見つけてデパートを覗いてみた―。




「へー、塔矢の誕生日ってもうすぐなんや?」

「14日なんだ。今年は何あげよっかな〜」

「去年は何あげたん?」

「指輪。本当はブレスレットかイヤリングにしようかと思ってたんだけどさ、すげぇ可愛いデザインの指輪に一目惚れしちまって、急遽そっちに変更した」

「へー」


オレは大阪に来ると必ず食事も買い物も社と一緒に行動する。

もちろん塔矢へのプレゼント選びも例外ではない――


「今年はドレスにしよっかな。アイツ買いに行く時間がないって言ってたし」

「塔矢のスリーサイズ知っとるん?」

「当然」


オレが思うに社はセンスがいいと思うんだよな。

もちろんコイツにも彼女はいるから、社の選び方の基準も参考になるし、プラス店員さんのアドバイスとオレのセンスを加えると――これしかない!って程の最高のものが選び抜かれる。


「…にしても女って面倒やなぁ。特に塔矢はドレス着る機会多そうやし」

「めちゃくちゃ多いぜ。なんせ自分の受位式だけで多い年だと2ケタだし。ま、他人の式は適当に今持ってるやつで間に合わせてるみたいだけどな」

「ハハ、一度塔矢のクローゼット覗いてみたいわ」

「ははは、お前が覗いたら犯罪だな」

「…笑えんわそれ…」


「お待たせしました。こちらのサイズになります」

店員が塔矢のサイズのドレスを出してきてくれた。

「お、いい感じやん。この色やと色白の塔矢の肌が引き立つんちゃう?」

「だな。これにするか」

「ありがとうございます。プレゼント用に包装してよろしいんでしょうか?」

「お願いします。…あ、持って帰れないんで家に送ってもらえます?」

「かしこまりました。こちらにご記入お願いします」


プレゼント用のドレスを買った後にジュエリーショップも覗いて、エンゲージリングの下調べもしてみたり。

もちろんさすがにこれは大阪で買うわけにはいかないから、ただの相場調査だ。


「そうですね、最近だと30〜50万あたりのものを買う方が多いですね。あまり指輪にお金をかけずに、その他の結婚資金に回す方が増えてきてます」

「へぇ…そうなんですか」

「知らんかったわ〜。てことは婚約指輪が給料の3ヶ月分言うんは嘘なんやな」

「もちろん今でもその額で買う方もいらっしゃいますよ」

「まぁ…でも、進藤やと1ヶ月分ぐらいで十分なんちゃう?」

「んー…」

「デザインはやはりワン・ストーンの、こちらのようなタイプがシェアの大半を占めてますね」

「お、いいやんシンプルで。塔矢が好きそうやし」

「でもこれ31万って…」

「ハハ、さっき買ったドレスといい勝負やな」


あまり安いのも塔矢に失礼な気がするけど、値段よりオレはデザインや質で決めたい。

いっそのことオレがデザインしたやつをオーダーメイドで作ってもらうのもいいかも。

でもそれだと完成まで最低でも1ヶ月はかかりそうだし…。

そもそもデザインなんて出来ねぇし、する時間もない…。

やっぱ既製品かな…。

また東京に戻ったら、ティファニーの本店でも覗いてみるか――





「にしても、お前ようやく塔矢にプロポーズするつもりになったんやな〜」

「まだ分かんねぇけど、一応いつでも出来るように準備だけはしておこうと思ってさ…」

「付き合ってもう結構長いよな?」

「今年で10年かな」

「うわ、長すぎ」

「社は?彼女と結婚しねぇの?」

「俺の方は付き合いだしてまだ3ヶ月やもん」

「あれ…?じゃあ俺が夏に紹介された彼女は?」

「別れた。浮気されてもてな…」

「…へぇ」


続けてカフェに入ったオレら。

辛気くさい話になってるが、社とは仕事の話よりそっちの話について語る方が面白い。

和谷達含む身近の奴より、たまにしか会わない社の方が気楽に相談出来るんだよな。


「やっぱ彼女が休みの日に休めんかったからなぁ…」

「どのくらい付き合ってたんだよ?」

「1年やな。ちょうど夏から夏まで」

「あー…一年目って一番盛り上がる時期だもんな。そん時に会えないのはキツいよな…」

「うわっ!辛気くさいで、進藤君!」

「どっちが」


でも社は今の彼女とは上手くいってるらしい。

今度の子は仕事がシフト制らしく、社とも休みを合わせれるからだ。

やっぱ会えないと遠距離恋愛してるのと変わらねぇもんな…。

オレと塔矢はあんまり会えないけど、10年も付き合ってる分気持ちの繋がりが深いから大丈夫だ。

いや、そりゃあ会えるもんなら毎日でも会いたいけどな。

次会えるのはたぶんアイツの誕生日。


待ち遠しいぜ――















NEXT