●WANT TO MARRY 4●
「は?モデル…ですか?」
後援会の会長に話があるとフロント前のロビーに連れて来られた。
そしていきなり言われたのがなんと『モデル』の仕事だ。
「うちのウェディング部門が来期からプロモーション映像、パンフ共に新しくするつもりでね。出来れば君と塔矢君にそれをお願いしたいんだが…」
「はぁ…」
「君達は特に見栄えがいいからね。既に固定ファンが付いている分宣伝効果も上がる。それに既存の有名な独身モデルを使おうと思ったら、色々問題も発生してね…」
「でも僕…モデル経験なんて一度もないんですが…。それに棋戦が今年はもういっぱいいっぱいで、なかなか時間に余裕が…」
「心配しなくてもうちの宣伝・広報部は優秀でね、未経験者でも一日でそれなりのものを作ってくれる」
「は…ぁ」
まぁ…オレは別にいいんだけど…さ、塔矢はそういうの嫌がりそうだよな…。
「塔矢君には亀島君の方から既に話を通してもらったから」
「え?!あ…、…で、塔矢は何て…?」
「君の判断に任せるそうだよ。君が引き受けるなら、塔矢君もしてもいいそうだ」
「………」
オレ…次第?
オレが決めていいの?
塔矢、何のモデルかちゃんと分かってる?
ウェディングのプロモーションだぜ?
つまり…あの白いドレスを着なきゃなんねーんだぜ?
いいのか?
引き受けちゃっていいんだな?
だって…
オレは…
オマエのウェディングドレス姿が見たい!!
「やります!お願いします!」
次の仕事先に向かう会長を見送った後、再び受位式の会場に戻ると――塔矢のスピーチ中だった。
壇上に上がって、大勢の前でお礼の言葉、これからの意気込み、そして囲碁そのものについて語る塔矢。
オレの苦手なスピーチを彼女は諸共せずに、巧みな話術で会場中の人を引きつけて…魅了する。
彼女の視線は全体を見渡した後――オレに向けられた。
微かに微笑んでくれたので、オレの方も目を細めて口元を緩めてみる。
壇上にいる塔矢と、そこから一番遠い入口前にいるオレ。
でもオレと彼女の心の距離は一番近い気がする。
こんなに離れてるのに繋がってる気がする。
塔矢…好きだよ。
早くオマエに近付きたい。
もっと…もっと近くに―。
気持ちの上だけじゃなくて、法律上でも正式に一番近い存在になりたい――
「進藤!」
「塔矢、スピーチお疲れさん。カッコよかったぜ」
「お世辞はやめてくれ。どうせいつも通りの、変わりばえのない内容なんだから」
「はは。多い年だと10回以上スピーチしてるもんな、オマエ。ネタに困るよな〜」
「全くだ」
話しながらさり気なく塔矢を会場から連れ出した。
少し離れた、ホテルの庭園が一望出来る所に移動してみる。
「塔矢…オレさ、水城会長んとこのプロモーションのやつ受けたから」
「え?」
塔矢の目が少し驚いたように見開いた―。
「受けたんだ…」
「え?ダメだった?滅多に出来ない体験だしさ、面白そうだなって思って…」
「あ…いや、別に僕は構わないんだが…、キミのことだから断るのかなって…」
「どうして?オレが断るわけないじゃん。オマエのウェディングドレス姿見たいし♪」
「………」
塔矢の顔がたちまち赤くなったのが分かった。
と同時にオレを睨んでくる―。
え?
え?
オレ何か変なこと言ったか??
「…はぁ、僕も楽しみにしてるよ…。キミとの似非結婚式…」
「うん…オレも」
思いっきり『似非』の部分を強調して、塔矢は再び会場へと戻って行った―。
うーん…。
それって…もしかしなくても塔矢が『本物』の結婚式を挙げたいってことなのかな?
ようやく結婚したくなってくれたってことか?
オレはいつでもオッケーだからな!
既に準備万端!……じゃないな。
いつでもプロポーズ出来るように指輪の準備もしておこう。
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