●WANT TO MARRY 3●
「進藤と塔矢ってさ、いつゴールインすると思う?」
「進藤が18になったらすぐ!」
「いくらなんでもそれは早すぎだろ。無難に20歳すぎぐらいじゃねぇ?」
「俺はどっちかがタイトル取ったらすると思うなー」
「それって10代の可能性大ってことじゃん」
「でも絶対アイツら早いよな〜」
…なんて面白おかしく賭けをしてたのも昔の話。
まさか20代後半になってもアイツらが独身だなんて…誰が想像出来ただろう。
ずっとお互いだけな進藤と塔矢なのに…
もう10年も付き合ってんのに…
何で結婚しないのか俺には理解出来ない。
…そういえば俺が17ぐらいの時に、進藤から相談されたことがあったっけ。
『塔矢ってさ、結婚したくないんだって…』
かなりショックを受けてたアイツ。
その時はまだ早過ぎだろ!って俺は笑って流しちまったけど、進藤の方はマジだったんだよな。
まだ16なのに、本気で塔矢との結婚を考えてた。
だから余計に…塔矢にそう言われてしまったことがショックだったんだろう。
以来…アイツはそういう話を避けるようになった。
飲み会とかで酔っ払った奴等が結婚の話をし出しても、気付いたら進藤は姿を消している。
直に聞こうとしても上手く流して、直ぐに話題を変えてくる。
でもお前さ、塔矢がどんな目でそん時のお前を見てるか知ってるか?
気付いてるか?
確かに16の塔矢は結婚を拒否したかもしれない。
でも今の塔矢はしたくてしたくてたまらないって顔だったぞ?
さっさとプロポーズしてくれ!って目で訴えてたぞ?
いい加減気付いてやれよな…――
「和谷!」
「伊角さん。受付の手伝いもう終わったんだ?」
「うん。塔矢におめでとうって一言言いに来たんだけど…」
「今進藤と塔矢のツーショットだから、邪魔したらお偉いさん方に怒られるぜ?」
「はは、じゃあ後にするか」
今日は塔矢の名人位・受位式。
主役の塔矢は誰もが感嘆の溜め息を吐くほどのキメよう。
持ち前の美しさに緑のワンピースドレスがよく映えて、パールのジュエリーが輝きを一層増してくれてる。
だけど、そんな塔矢を一番に褒めるのは進藤の役目。
つーか、進藤が話しかけるまでは俺らは塔矢に話しかけれないという暗黙の掟がある。
そして二人が話してるところを邪魔するのもタブーだ。
互いにタイトルホルダーな進藤と塔矢は、付き合っているとはいえ、忙しさにすれ違いが多い。
今日だって何日ぶりに会ったんだか。
もうどれくらいデートしてないんだか。
だから会えるその大切な時間を、周りが邪魔することは許されないんだ。
まぁぶっちゃけると、二人がいつまで経っても結婚しないことに痺れをきらした後援会長含む碁界のお偉いさん方が、二人のいい雰囲気作りに躍起になってるだけなんだけど――
(でも進藤の後援会長は財界の大物だから誰も逆らえない)
「お、ようやく話し終わったみたいだな」
「ああ」
進藤が塔矢の側を離れた瞬間から塔矢は解禁になり、ようやく通常の取材やら挨拶がスタートする。
進藤は何も知らないでノコノコこっちに帰って来た。
嬉しそうな…でも腑に落ちないような…微妙な顔をして――
「和谷ぁ…」
「どうかしたのか?進藤」
「塔矢の奴…、オレがあげた指輪…右手にしてたんだけど……どういう意味だと思う?」
「そりゃあ……」
思わず伊角さんと顔を見合わせてしまった。
右手に指輪、か。
塔矢の細やかな抵抗が目に染みるぜ…。
「つまり…左手にはもっと他に嵌めたい指輪があるってことじゃねぇ?」
「ええ?!去年あげたダイヤじゃ不満なわけ?!じゃあ何の石ならいいんだよ!トルコ石なんてオレは嫌だぜ!例え誕生石でも全然可愛くねーし!」
…ばーか。
石の種類を言ったんじゃねーよ。
指輪の種類だっての!
誕生日プレゼントとしてじゃなくて、塔矢は婚約指輪としての指輪が欲しいんだって。
「あのさ…―」
「進藤君、ちょっといいかな?」
「あ、はい。お久しぶりです水城会長」
進藤に教えてやろうと思ったところで邪魔が入った。
進藤に声をかけたのは紛れもなく進藤の後援会・会長。
MIグループの総取締役だ。
そして進藤と塔矢を一刻も早く結婚させようとしてる張本人。
だけど俺も会長に賛成。
いい加減さっさと結婚しろよお前ら…――
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