TIME LIMIT〜有休編〜 おまけ〜明人視点〜





「明人君、後で大浴場行かない?」


「いいですよ」



夕食の席で須本さんに大浴場に誘われる。

年末の結婚式で初めてお会いした、明菜の夫の須本さん。

明菜によると、ガチの囲碁ファンで、棋力もアマ六段くらいらしい


(全然そんな風に見えないけど…)


姉の娘の食事の手伝いを普通にしてるが、まだ子供のいない妹夫婦なだけに違和感しかない。

もちろん小児科医なので子供には慣れてるんだろう。

とはいえあくまで医者であって保育士ではない。

あんな風に甲斐甲斐しく世話が出来るのは、彼の性格というか…人柄なんだろうと思う。


(明菜の奴…どうやってこの好物件を落としたんだか)


イケメンで180pはあるだろう高身長、医者なのでもちろん頭もよくて、更に性格もよくて碁も強くて、美鈴ちゃんが言うには字も上手いらしい。

おまけに子供好きとまで加わったら――もうマンガの世界だろ。


確かに明菜は昔からイケメン好きだ。

1の時、囲碁イベントで偶然隣の席になったイケメンに

「お嫁さんになってあげるねvv」

と言った時には耳を疑ったものだ。

しかもそのイケメンが実は須本さんだったという運命ぶり。

「明菜はああいう顔のイケメンが好きなの!イケメンだったら何でもいいわけじゃないの!」

と言ってた通り、10年以上経って同じような顔のイケメンと結婚したわけだけど。

(というか本人と)




「明人君?どうかした?」


明菜と須本さんの方をじーっと見てたら、横に座っていた美鈴ちゃんに聞かれてしまった。


「いや…明菜の奴、どうやって須本さんを落としたんだろ…って思って」

「ふふふ〜それが千明が言うには、須本さんの方がめちゃめちゃアタックしてたらしいよ」

「え、マジで?嘘だろ?!」

「マジマジ。明菜ちゃんが今の大学入ったのだってそもそも須本さんが勧めたからみたいだし、ちゃんと合格するよう家庭教師までしてたらしいからね、彼」

「…通りであのアホな妹が医科大学なんて合格出来たわけだ。家庭教師能力高過ぎるだろ須本さん…」

「あはは、本当だよね〜」



その後、姉と一ノ瀬さんが夕食に合流した。

須本さんは一ノ瀬さんにも

「後で大浴場行こうぜ!」

と誘っていたが、

「ごめん、もうちょっと千明と話し合うからパスで」

と断られていた。


ということで、オレと須本さんの二人で大浴場に向かった。



 



「明人君、今回の旅行は棋戦スケジュール的には問題なかったの?」

「まぁ…明後日棋聖戦の前夜祭だったりしますけど、何とか」

「ふ、ふぅん…、棋聖戦…ね」

「また4日も美鈴ちゃんにワンオペさせちゃうので、その前に気分転換させてあげたかったし…」

「うん…、育児のワンオペってキツいもんな。一ノ瀬見てて思った」

「須本さんは普通にこなしそうですけど」

「うーん…どうだろな。まだ先の話だしな」

「しばらく子供は作らない感じですか?」

「明菜ちゃんが学生だからね。卒業しても社会人の経験もさせてあげたいし…」

「へぇ…」


一緒に温泉に浸かりながら色々話してみる。

分かったことは、やはり須本さんは考え方が大人なのだ。

目先のことばかりではなく、先の未来も見据えた上で今どうすればいいのか思考している。

(とりあえず子供作って美鈴ちゃんを手に入れたオレと大違い…)


「ただ5年後に生まれたとしたら俺もう36だし…、体力だけが心配っていうか」

「まぁ…大丈夫じゃないですか?明菜が24ならめっちゃ元気だと思うし」

「いやでも、産後の明菜ちゃんに負担かけたくないしな…」

「……」


(めっちゃいい人だな…)

(でもって明菜のやつ、めちゃくちゃ愛されてるな…)


「だから体力付けようと思って、最近早朝にランニング始めてみたんだ」

「へぇ…、ジムとかでですか?」

「いや、近所の公園で。昔ジムにも行ってたことあるんだけど……」

須本さんの表情が暗くなっていく。

「何か走ってると声かけられるし…、終わるの待ち伏せされるしで、何か面倒だったんだよな…」

「それは嫌ですね…」

「極めつけは受付の女の子に告白されて、断ったら気まずくなって…、辞めちゃった感じかな」

「公園はそんなことないんですか?」

「うん。早朝の公園は年配の人が多いしね。若い人も犬の散歩とかしてるだけだから、すれ違いざまに軽く挨拶するぐらいだし。ジムに比べて余っ程快適だよ」

「へぇ…」

「たまに明菜ちゃんも一緒に走ってくれるしね」

「え、明菜が?」


中学の時はしょっちゅう寝坊して父に叩き起こされてたあの妹が、早朝にランニング??

結婚したら変わるものだな……


「明人君もどう?」

「まぁ鍛えてる棋士は多いですけどね…、オレは今はいいかな」

「まぁ明人君、棋士の中じゃ一番忙しいもんな。最多対局賞取ってたぐらいだし」

「…よくご存知ですね」

「え?あ…うん」


しまった、という顔をしてくる須本さん。


「別に隠さなくてもいいですよ。明菜から聞いてますし」

「な、何を…?」

「須本さんがガチの囲碁ファンだって」

「…ごめん///

「いえ、むしろ嬉しいです。せっかくだから目隠し碁でもしますか?」

「う、嬉しいけど、それはさすがに相手にならないかも…」

「じゃあそれは部屋に帰ってからにして、一昨日の名人リーグの話してもいいですか?」

「ああ…!沢城七段とのやつ?明人君、波に乗ってる沢城七段相手にすごい打ち回しだったよね」

「オレ的には来月の十段の前哨戦のつもりだったから。出る杭は打っておかないとね」

「言うね〜」


碁の話をしてる時の須本さんはいつも以上に饒舌で楽しそうで、本当にガチファンなんだなと思った。

部屋に戻ってからマグ碁で一局一緒に打ってたんだけど、息子の寝る時間だからと美鈴ちゃんに追い出される。

明菜達の部屋に移動して続きを打ち始めてみたものの……


(視線が痛い…)


妹がオレを睨んでるのが背中越しにも伝わってくる。

おそらく妹はせっかくの温泉なんだし、早く須本さんとイチャイチャしたいんだろう。

オレはお邪魔虫というわけだ。

仕方ないので本気だして瞬殺KO勝ちにしてみる。

須本さんには落ち込まれるどころか、何か感動されたけど。


「じゃあ戻ります」

「何か急かしてごめんね明人君…」

「いえ。近いうちにまた打てるの楽しみにしてます」

「俺も」


ドアが閉まる瞬間、二人がもうキスし始めてるのが見えた。

オレも自分の部屋に帰った後、息子を寝かしつけ終わった美鈴ちゃんと甘い夜を過ごしたのは言うまでもない――



 

 

END

 

おまけ


以上、明人から見た須本さんでした〜。
五冠と一緒に温泉ということで実はドキドキしてる須本君なのですよw

一ノ瀬君は一回じゃもちろん満足してないので、千明と話し合いという名のイチャイチャ続行ですよ。
明菜も須本君とイチャイチャしまくりで。
明人と美鈴ちゃんもイチャイチャしまくった温泉旅行なのでした!