TIME LIMIT〜有休編〜 おまけ

※生保レディ、元木さん視点パート2です(パート1こちらから)





「受取人って、子供に変更出来ますか?」


「……え?」



私が担当する一ノ瀬先生から、そう相談されたのは、彼が育休から復帰してまもなくのことだった。

彼の現在の受取人はもちろん奥様で、彼が結婚した時に変更手続きをしたのももちろん私だ。

子供に変更したい――そう言い出す人は100%離婚をした、もしくは離婚を考えている為、私は思わず目を見開いた。


「もちろん出来ますけど……、本当にしちゃっていいんですか?」

「……もう少し考えます」

「…そうですか。いつでも変更出来ますから、決まったら教えて下さいね」

「…はい」


考えるということは、まだ離婚はしてないんだろう。

それもそのはず。

奥様の千明さんの保険も私が担当していて、昨日彼女に定期連絡の電話をした時だって、何も言ってなかったからだ。


(一ノ瀬先生が離婚なんてしたら大変なことになりそう…)


T
医科大学病院で若手御三家と呼ばれている3人。

それが小児科の須本先生、産科の櫻井先生、そして形成外科の一ノ瀬先生だ。

でも今まで女性スタッフからの人気は圧倒的に社交的な須本先生に偏っていた。

櫻井先生は基本産科に引き籠ってるし、一ノ瀬先生には学生時代からずっと交際している恋人がいて、その人と普通にゴールインしたからだ。

他の人が付け入る隙なんてなかった。


だけど離婚するとなると話は全く変わってくるだろう。

バツイチくらいじゃ彼の価値はまず落ちないからだ。

イケメンで身長も高く、真面目で、性格もいい。

育児にも積極的で子煩悩、おまけに医者で高収入でしかもまだ31歳とくれば……どう考えても引く手数多だろう。

一ノ瀬先生がその気になればすぐにでも再婚出来そうだ。

もちろん…私個人の意見としては、そんな展開にはなってほしくないけれど。


奥様の千明さんは裁判官の副判事だ。

基本転勤族な裁判官。

千明さんも東京地裁、宇都宮地裁と3年単位で務めた後、現在は立川支部で働いている。

おそらくあと数年で判事へ昇格することが間違いないと言われている法曹界のエリート街道まっしぐらな彼女。

当然激務で、帰宅するのは毎日22時を過ぎると聞く。

産後休暇が終わった後すぐに復職した彼女に代わって、育休を取得し子育てを担当したのが一ノ瀬先生だった。


(本当にすごい。なかなか出来ることじゃないと思う…)


だいぶ男性の育休も浸透してきたとはいえ、9ヶ月も取ってくれる旦那さんは滅多にいない。

しかも奥さんと一緒に育休ではなく、奥さんは復職してワンオペというレアケース。

更に奥さんの方が稼いでるならまだしも、一ノ瀬先生は医者だ。

奥さんよりきっとお給料は倍近かったはず。

それなのに自分が奥さんの代わりに育休に入る選択をするなんてそれはもう……ひとえに「愛」しかないと思う。

奥さんの仕事を応援してあげたいという旦那さんからの愛情だ。

自分だって30代という医者にとって一番大事な時期なのに――


(それなのに離婚を考えてるなんて…)


男女の関係というものは難しい。

歯車が狂えばあっという間に壊れてしまう。

とはいえ、私が出来ることは何もない。

静かに行方を見守ろうと思った。


 

 

 



それから約1年半後。


「あ、元木さんちょっといいですか」

「はい…」


私は一ノ瀬先生に病院で呼び止められ、ドキッとした。

もしかして例の受取人変更の件だろうか……だとしたらどうしよう……ついにこの時が……


「実は学資保険を考えてて…」





………はい?





「上の子と同じ内容でいいので、見積もりお願い出来ますか?」


上の子?

つまりそれは下の子がいるということ?


ええええええーーー????


(受取人変更はーーー???)






どうやら一ノ瀬先生と千明さんはとっくの昔に仲直りしていて、しかもこの度二人目も授かったらしい。

予定日は来月で、またこの病院で出産予定なのだとか。

今度は男の子らしい。


「おめでとうございます、一ノ瀬先生」

「ありがとう」

「また…育休取る感じですか?」


私にそう問われて

「もちろん」

と即答した一ノ瀬先生。


(カッコいい…、やっぱり愛妻家だわ…)



とりあえず無事生まれたら、私もお見舞いに駆けつけようと思った

(また帝王切開だと思うから、給付金の案内もしなきゃね!)

 

 



END

 

 


以上、生保レディ・元木さんから見た一ノ瀬君と千明のお話でした〜。
育休明けてすぐ元木さんに相談してるってことは、一ノ瀬君は育休中から離婚を考えてたってことですな。
千明はきっと平日は一ノ瀬君に家事育児丸投げだったんでしょう…9ヶ月も。
一ノ瀬君は自分の親には頼らないの?と疑問に思う方もいるかもしれませんが、一ノ瀬君の父親は一ノ瀬君が25歳くらいの時にもう亡くなってるのですよ。(元々病気がちだったしね)

母親も70歳を超えてるので、たまに孫の顔を見せに行くことはあっても、預けるとかは出来ないのです。

病院内を常にフラフラしてる須本先生と違い、櫻井先生は基本産科に引き籠ってるらしいです。(人が苦手とかではなく、単に研究室で没頭してる)

産科・小児科のスタッフ以外でイケメン櫻井先生の姿を見たことがある人は少なく、たまに医局会議とかに向かう為に病院内歩こうものなら、「誰?!あのイケメン!」と騒がれるとか〜(笑)

千明は現在立川で働いてるようですな。なので、21時に仕事終わらせても帰宅が22時になってしまうようです。
裁判官は転勤族なので、今後どうするんでしょうかね〜?単身赴任?
何となく、千明の転勤に一ノ瀬君(+子供達)が帯同しそうな気も。医者ならどこでも仕事見つかりそうだし。
暇なヒカルも付いていきそうで怖いわw(それか新幹線or飛行機でしょっちゅう行き来する姿が目に浮かぶわ〜)

もしそうだとしたら、今は同じ大学病院で御三家と呼ばれてる3人が、10年後にはそれぞれ別の道に進んでしまうのは何だか切ないですね…。
(須本君は千葉で実家の小児科を継いで、櫻井君は埼玉で産婦人科を継いで、一ノ瀬君も千明に付いて地方へ行ってしまうのね…)