TIME LIMIT〜有休編〜 2〜千明視点〜





「綾ちゃん先にお風呂入ろうね〜」




夕飯前に娘を先にお風呂に入れてしまうことにした私。

さすが赤ちゃん連れ大歓迎!という飾り文句な宿なだけあって、ベビーバスやおもちゃ、赤ちゃん用のボディソープなど、色々準備されていた。

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歳近くにもなるともうベビーバスは使わないので、一緒に内風呂に浸かってみた。

ちょっと怖いのか、めちゃくちゃ私にしがみついてくるけど。


「千明、一人で大丈夫?オレが洗うよ」

と夫が声をかけて浴室に入ってくる。

ドキッとした。

何故なら夫はタオル一枚しか腰に巻いてなかったからだ。

(浴衣を着た状態で娘を洗うのは大変なので当然と言えば当然なんだけど…)


「お願い」

と綾を引き渡す。

平日はほぼほぼ夫が娘をお風呂に入れてくれてるだけのことはあって、もう慣れたものなのか手順もスムーズだ。

綾も私の時より大人しくしてる気がする。


「よし。じゃあ綾ちゃんもう一回浸かろうな〜」

と夫が娘を内風呂にいる私に渡してきた。

ついでに夫も入ってくる。


(うわ…一緒にお風呂とか何年ぶりだろ…)


学生の頃、福岡にいる彼のアパートに泊まりに行った時、毎晩一緒に入ってた頃が懐かしい。

あの頃は当たり前だったのに……今は久しぶり過ぎて緊張する。

夫の方は見ないで、娘にばかり視線を向けてしまう。


「千明…」


夫が私に近付いてきて……遠慮気味に私の手に触れてきた。

ドキッとなる。


「あのさ…、今夜、綾が寝たら……抱いてもいい?」


直球で聞かれてしまった。

カーッとなる。


「…いいよ」

ドキドキしながらそう答えると、夫は少しばかりホッとしたような顔になって

「よかった。楽しみにしてるな…」

と笑顔を向けて来たのだった。


(そんなに嬉しいんだ…)


そりゃそうか…。

前に体を合わせたのはお正月だ。

一ヶ月以上前なのだ。


(私も嬉しい…)


夫に求められたら嬉しい。

確かに疲れてる時もあるし、眠たい時もあってなかなか応じてあげれないけど、求められたら嫌な気はしない。

本当はもっともっと求めてほしいぐらいだ。

娘も今はもう、一度寝たら朝まで起きない。

今夜は昔のように何回も出来たらいいな…と思った。


 

 

 



ピンポーン


お風呂から出て娘に水分を取らせていると、チャイムが鳴った。


「千明、夕飯前に一回大浴場行かない?」

と美鈴が誘いに来た。

「お姉ちゃんも行こ」

と明菜もいた。


「凌、ちょっと行ってきてもいい?」

「いいよ。綾はオレが見てるな」

「ありがとう」


早速タオルやお化粧セットを持って、女性陣3人だけで大浴場に向かった。


 


「温泉なんて久しぶり♪千明、一緒に行くのOKしてくれてありがとう」

「皆で行った方が楽しいしね」


タイトル戦でしょっちゅう温泉地を巡ってる明人と違って、美鈴はずっと家で家事育児をしている。

気分転換になってよかったと思った。


「私と大樹さんも誘ってくれてありがとう」

明菜からもお礼を言われる。

「ううん、凌も須本さんが一緒の方が気が楽だと思うしね。明菜も来てくれてありがとう」



大浴場に着き、3人で浴衣を脱いでると、妹の胸元にキスマークを発見。

「あらん、いいわね〜新婚さんは」

と美鈴が明菜の胸元をなぞった。

もちろん途端にボッと顔を赤めてきた妹。


「えへへ…、実はさっき早速シちゃった…」

ととんでもないことを暴露してきた。

私が綾をお風呂に入れてる間、明菜と須本さんは早から絡み合ってたらしい。


「何か浴衣姿の私を見たら我慢できなくなったらしくて…」

と惚気てきた。

「いいな〜、私も明人君と今晩いっぱいしちゃお」

美鈴が燃えていた。


そういう私も今夜は……夫とする気満々だ。

夫からもさっき

『抱いていい?』

と誘われたし。

想像すると勝手に顔がニヤけてしまった。



 

 



大浴場を満喫して部屋に帰ると、夫の姿も娘の姿もなかった。

あれ?他の部屋にいるのかな?

携帯だけ持って探しに行こうと廊下に出たら、自販機スペースから何やら話し声が聞こえて、私はそっちに足を向けた。

近付くとその声の主が夫と須本さんだと分かり、声をかけようと思った…のだけど………



「一ノ瀬…、お前大丈夫か?」

「いや…、正直もう無理かも…」





―――え?





「一度ちゃんと千明さんと話し合えよ。溜め込むのはお前の悪い癖だからな」

「分かってるよ…、今夜がもう最後のチャンスだと思ってる…」





―――え?





「これでダメならもう…離婚でもいいと思ってる…」

「お前なぁ…」

「親権は絶対に渡さないけどな…」




今まで聞いたことのない夫の冷たい声。


目の前が真っ暗になった気がした――

 

 


NEXT(一ノ瀬視点)