TIME LIMIT〜有休編〜 1〜千明視点〜





「やばい…いつ有休取ろう…」




労働基準法第39条第7項。

5日の有給休暇を確実に取得しなければいけないという法律は、もちろん法曹界で働いている私達にも有効だ。

年度末が近付いてきた2月に入ってもまだ3日しか取れてない私は、今日ついに部長に注意を受けてしまった。

「必ず今月中に取得するように」と――


 

 

 



「凌はもう有休5日取り終わった?」


私も夫もお休みの日曜日。

朝ご飯を娘に食べさせてくれてる夫に聞いてみた。


「うん。夏に綾が手足口病になった時にまとめて取ったし、11RSウィルスになった時も…」

「な、何かごめんね…、いつも綾の看病で凌ばっか休んでもらって…」

「いやいや、お義父さんと手分けしてるから半分で済んでるし。すごく助かってるよ」

「そうだよね…、お父さんホント有難い…」



娘の綾が保育園に行き出して以来、お迎えを引き受けてくれてる父

夫が当直の日は実家で一晩預かってくれるし、綾が体調を崩した時も看病してくれる。

もちろん感染症で何日も保育園を休ませないといけない時は夫も休んでくれて。

私が有休を使わずに独身の時と同じ働き方が出来てるのは二人のお陰だ。

本当に感謝しかない。



「でも有休どうしようかな…、もうまとめて取っちゃうか」

「どこか旅行でも行く?せっかくだし、オレも合わせるよ」

「本当?温泉でも行く?」

「いいね」


早速携帯で旅館を検索してみる。


そして昼から遊びに来た美鈴に

「温泉?!いいな〜私も行きたい〜」

連れてって〜とお願いされ、弟家族とも一緒に行くことになった。

(明人も棋戦スケジュールがちょうど被ってないらしい)


「明菜も誘ってみる?大学生はもう春休み入ってるもんね」

「それいいな。須本に聞いてみよっと」


夫が須本さんに電話し出した。

夫の大学時代からの親友・須本大樹さんと明菜が結婚したのは去年8月の話だ。

私達が大学3年生の時、「妹さんを紹介して下さい」と彼から言われた時が何だか懐かしい。


(本当に紹介することになるとは思わなかったけど…)


おまけに交際半年で結婚しちゃうし。

夫と10年付き合った後に結婚した私には、ちょっと理解出来ない世界だ。


(まぁそれを言ったら明人も同じか…)


たったの交際1ヶ月で美鈴と授かり婚した弟に、まだ交際半年なのに学生結婚をした妹。

結婚すらせず私を産み育てた両親も入れたら……もう普通って何?って気になってくる。



「須本と明菜ちゃんも行くって」

「了解〜。じゃあ3部屋予約するね」


ポチッと『予約』ボタンを押した。



こうして3家族で行く温泉旅行が決定した。

私達夫婦にとって大きな転機となる旅行になるなんて、この時は思いもしないで――



 

 




温泉旅館に15時に現地集合で、と決めた私達。

ちょうど15時に到着してロビーに行くと、明菜と須本さんの姿が


「綾ちゃんvv

と妹が走ってきて、早速ぎゅーっと娘を抱っこし出した。


「須本、お待たせ」

「いや、俺らもちょうど着いたところ」


大学病院では若手御三家とか呼ばれてるらしい夫と須本さん。

確かにハタチの時より成熟したというか、落ち着いて大人の魅力が出てきたというか…、元々二人とも顔がいい分、人気があるのも分かる気がした。

(しかも二人とも年収1500万超えだもんな…、やっぱり医者はすごいわ)



「千明!お待たせ〜」


呼ばれて振り返ると、美鈴が上の子を連れて玄関に入ってくるのが見えた。

その後ろから下の子を抱っこした明人が。


「途中サービスエリア寄ったら楽し過ぎて遅くなっちゃった」

ごめんね、と美鈴が手を合わせてくる。

「チャックイン終わっちゃった?」

「ううん、これからだよ」


女将さんがこちらでお願いしますとフロントに案内してくれる。

宿泊カードには一部屋ずつ記入しないといけないので、「須本さん」と手招きして、明菜達の部屋は彼に書いてもらう。


「わ〜須本さん、字めっちゃ綺麗だね!さっすが〜」

と美鈴が須本さんを褒めちぎる。

「ありがとうございます」

「硬い硬いって。同い年でしょ?タメ口でいいよ〜」

「そう?」


私は美鈴の腕をグイッと引っ張って、須本さんから引き離した。

イケメンがいたらすぐに近付いていくのは美鈴の悪い癖だ。


「須本さんは明菜の旦那さんなんだからね」

と小声で釘を刺す。

「分かってるって〜。ホント進藤家って婿も含めて男性陣、いい男ばかりで困るわ〜」

「はは…」



チェックインが終わり、私達は早速客室へ移動した。

今回は子供達がいるので、奮発して部屋に内風呂が付いてる部屋を予約してみた。

子供達のお風呂はそこで入れて、大浴場には大人だけで行く予定だ


「じゃあまた後でね〜」


廊下で一度解散し、3家族それぞれの客室へと入っていった。




「へー、結構いい部屋だな」

「でしょう?平日だからお得に泊まれたし、たまには有休取るのもいいものだね」

「…まぁな」


夫の凌も須本さんも、通常の平日休みに有休を一日引っつけて連休にしたらしい。

各科がそれぞれ研修医も含め10名以上の常勤医師で回してるので、常に数名休んでも大丈夫な状態らしい。

大学病院にしてはホワイトな職場環境だ。



「あ、見て。綾用の浴衣も用意してくれてる」

「本当だ。可愛いな」


来月2歳になる娘に、早速着替えさせてみた。

あまりに可愛すぎて、夫が携帯でカシャカシャ写真を撮りだしてる


「私も着替えて来るね」

「ああ」


浴室の方に移動して、私も浴衣に着替え出した。

今回は家族3人になって初めての温泉旅行だけど、もちろん夫と交際していた時もそれなりに二人で温泉には行ったものだ。

もちろん毎回夜は激しく絡み合っていた私達。


(今夜はどうなんだろう…)


出産して以来、レスとまではいかないけど、今は月に1回とかしか体を合わせていないのだ。

仕事も忙しいし、子育てで常に二人とも疲れてるし……なかなかそんな雰囲気にならない。

きっと美鈴にバレたらビックリ仰天されるだろう。

(前に週34回はしてるよ〜とか言ってたからな)


今夜は出来たらいいな…、と少しばかり期待しながら、私は浴衣に着替えたのだった――

 

 

 


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