TIME LIMIT〜新婚編〜 5





須本さんにプロポーズされた一週間後。

予定通り彼は私の家に挨拶にやって来た。

ダイニングテーブルに父、母と向かい合って須本さん、私という並びで座る。

当然父は渋い顔をしていた。



「明菜……2月に付き合い始めたって言ってなかったか?」

「う、うん…ソウダネ」

「ちょっと早くないか?まだ19だし、大学だって入ったばかりだろ?」

「うん…」

「まさか妊娠したとか…」

「それはない!してないよ!」

「じゃあそんな急ぐ理由はないだろ」

「…そうだけど…、でも、結婚したいの…」


予想通り、交際期間の短さと私がまだ学生という点をツッコまれてしまった。

仕方ないと思う。

親なら誰だってそう言うだろう。

でも、だからって卒業までなんて絶対待てない。


溜め息を吐いた父が、次は須本さんの方を見て問う。


「須本君…、本当にこの明菜でいいの?」

「はい」

「須本君だったらもっといい人捕まえられると思うけど…」

「いえ、明菜さんがいいんです」

「……」

「必ず責任持って大学は卒業させますし、必ず幸せにしますので…、確かに早いかもしれませんが結婚を許して頂けないでしょうか?



須本さん……



「……はぁ、分かったよ…」


渋々ながらも父がOKしてくれる。

そう――OKしてくれたのだ!

嘘!本当に?!

顔を見合わせた私達は、喜びのあまりうっかり両親の前で抱き締め合ってしまった。


母は横でずっと黙って聞いていたんだけど、落ち込む父に「僕がいるから」と励ましていた。

当然「アキラ〜〜」と父も母に抱き着いていたのは言うまでもない



帰り際、須本さんが

「俺の親にも明菜ちゃんを紹介したいんだけど…」

と遠慮気味に聞いてきた。


「もちろんいいよ。来週にでも行く?」

「うん。話しておくよ」


ということで、翌週は須本さんのご両親に会いに実家に向かった…のだけど……



(デ、デカい…)



ご実家は想像以上に立派な豪邸だった。

両親ともに医者らしい。

こんなまだ19歳の看護師の卵の私が果たして本当に受け入れて貰えるのか急に不安になってくる。

ただでさえ緊張で昨夜ロクに眠れなかったのに……


もちろん須本さんはカギを持ってるのだけど、私と一緒ということでインターフォンを押した。

しばらくして玄関のドアが開く。


「お帰りなさいませ」

「ただいま」


ドアを開けてくれたのはご両親ではなく、お手伝いさんだった。

て、お手伝いさん??


「お帰り、大樹」

そして奥の部屋からご両親らしき人達が出てきた。


「ただいま。紹介するよ、進藤明菜さん」

「は、初めまして!進藤明菜です!」

ペコリとお辞儀をする。

ドキドキドキ…


「初めまして。大樹の父の友樹です」

「母の静香です〜。明菜ちゃん、これからよろしくね」


ご両親二人ともニコニコしていた。

意外にもめちゃくちゃウェルカムで驚く。

なぜ?

は!もしや同居を望まれてるとか?将来の介護要員?

色々勘ぐってしまったけど……リビングに移動してしばらく話しているとどれも違うみたい。


「この子ったら本当に女性運がなくて、浮気されてフラれてばかりだったのよ」

ホホホとお義母さんが笑う。

「明菜ちゃん、本当にこんな駄目息子でいいの?」

「はい、もちろんです!」

「そう…、嬉しいわ。もう半分大樹の結婚は諦めていたから…」


ええー…どんだけ自分の息子を卑下してるのこのお義母さん。

須本さん、病院でもモテモテみたいですよ?

若手御三家とか呼ばれてるみたいですよ?

街で一人になろうものなら逆ナンされまくりですよ?


「でも明菜ちゃん、いつ大樹のことが嫌になるか分からないんだから、自分のキャリアはしっかり考えておかないと駄目よ?」

「あ、はい…」

「まずは大学を卒業しないとね。それまでは大樹が子作りしようとしてきても拒否らなくちゃ駄目よ」

「は、はい…」

「母さん……そういうことは二人で決めるから口出ししないで」

須本さんがお義母さんに注意する。

でも、一応そのつもりで須本さんとは話していたところだ。

卒業して、就職して1年くらい経ってから子供を作ろうと。


「大樹はいつまで今の病院にいるつもりかね?」

今度はお義父さんが須本さんに問う。

40くらいまでかな。もうちょっと修行するよ。大学病院にいる方が色んな症状の患者を診れるから…」

「そうだな。じゃあ大樹が帰って来るまで私達も頑張ろうか」

「そうね」


既に60歳を超えている須本さんのご両親。

須本さんが戻るまで現役で頑張るらしい。


「その後は海辺の町に家でも買って余生を過ごそうか、静香さん」

「そうね〜」

と言ってるぐらいだから、同居は無いとみた。

よかった。

(でも素敵なご両親だったから別に同居でもよかったかもしれない…)





須本さんの運転で帰路に着く途中、

「入籍はいつにしようか」

と聞かれる。

「うーん…苗字変わるんだよねぇ…。いきなり変わったら大学の子達になんて説明しよう…」

「俺が進藤になろうか?」

「え?!それはダメダメダメ。私にだっていつか旦那さまの苗字を名乗りたいっていう夢があるもん」

「そう?」

「だから夏休み中がいいと思うんだよね。8月とかどうかな?」

「いいよ。新居は…どこか探す?」

「今の須本さんのおうちでも私は全然いいよ」

「そう?」

「うん。むしろ住んでみたい」


まだ一度も泊まったことのない須本さんの部屋。

もう婚約したからお父さんも何も言わないかな?

今度泊まってみようと思った。


「結婚式はどうしようか?」

「あー…やっぱりしないとマズいよねぇ…?」

「明菜ちゃんのウェディングドレス姿は見たいかな」

「ホント?じゃあ…しようかな。でもあんまり大々的にしたくないな。家族だけとか…、仲のいい友達だけ呼ぶのでもいいかな?」

「いいよ。またゆっくり考えようか」

「はい」


結婚って思った以上にやること決めることがあって大変だ。

苗字が変わったらもちろん大学でも手続きしないといけないし、通帳とかの名義だって全部変えなくちゃいけない。

これから忙しくなりそうだ。

やっぱり夏休み中の時間のある時にしてしまうのが一番いい気がした。


「今度結婚指輪も買いに行こうか」

「あ、本当だ」


私の左手薬指には今は婚約指輪がしてある。

結婚したらこれが結婚指輪に変わるのだ。

(わわ、何か嬉しい)

もちろん大学ではハメるのはやめようと思う。

さすがに恥ずかし過ぎる。


「お医者さんは……指輪OKなの?」

「基本はね。手術の時以外は皆してるかな」

「…須本さんもするの?」

「もちろんそのつもりだよ」

「そ、そうなんだ…」


私と結婚することを隠す気はないらしい。

でも、正直言って、隠した方が須本さんの名誉の為にもいいんじゃ…?

今更だけど、19歳の大学生と31歳の結婚って外聞的にはあまりよろしくないような気がする……


「…あの、やっぱりハタチ過ぎてからにする?結婚…」

「え?どうして?」

19歳と結婚したことがバレたら……須本さんの仕事に影響が出るかも…なんて」

「…20でも大して変わらないと思うけど」

「そうだけど、でも…」


須本さんが車を路肩に停めた。

真面目な顔して

「俺のことは気にしなくていいよ。でも明菜ちゃんがどうしても気になるなら来年の春まで待つけど…。どうする?」

と私の気持ちを聞いてくる。

結婚はしたい、もちろん。

でも、本当に今すぐしてしまっていいのか……ぐるぐる考えてしまう。


は!まさかこれがマリッジブルーってやつ?!

 

 

 

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