●TIME LIMIT〜元カノ編〜 2●
『明けましておめでとう。初詣、一緒に行かない?』
新学期まで会わないつもりだったのに、元旦に彼女からメールが来た。
断っても良かったけど、誘いに乗ることにした。
きっとさっき、帰省中の姉さんから美鈴ちゃんの近況を聞いてしまったからだ。
「そういえば美鈴、一昨日から彼氏と台湾旅行に行ってるんだよ」
「へー、婚前旅行?」と冗談を言う父親にイラっとした。
一気に皆と仲良くおせち料理なんか囲む気分じゃなくなって、「腹痛い」と嘘ついて自分の部屋に戻った。
そんなイライラ気分の時に彼女からメールが来たから、誘いに乗ることにした。
「クリスマス以来だね…」
待ち合わせ場所に行くと、彼女が気恥ずかしそうにそう言って、オレの腕に手を絡めて来た。
一緒に初詣をして、必死に
『美鈴ちゃんが彼氏と別れますように』
と祈った後、彼女を家まで送り届けた。
「クリスマスプレゼントにね、親に碁盤買って貰ったんだ。明人君、一局打ってくれないかな…?」
「碁盤?へぇ…」
彼女の部屋の中央に置かれた真新しい碁盤。
9子置いて、「「お願いします」」と一緒に頭を下げた。
初心者に毛が生えた程度の彼女の棋力。
9子置いたところでプロ七段のオレに到底敵うわけがない。
まぁ当然指導碁になってしまって、検討も終えようとした頃、彼女の母親がコーヒーと焼き菓子を運んできた。
「ごゆっくり」と言われる。
いや、もう帰ろうと思ってたんだけどな……
彼女がオレのすぐ横に移動してきた。
「親、もう来ないと思うから」
「……」
思うから……何?
目を閉じてきたので、仕方なくオレはキスをした。
全然気持ちは入ってないのに、オレも男だからか……長いキスを続けると、ちょっとその気になってくる。
ふと、美鈴ちゃんのことを思い出したせいもあるのかもしれない。
美鈴ちゃんが……男と旅行。
きっといっぱいエッチなこともしてるんだろうな……
想像するとますますイライラしてきて落ち込んで、気が付いたら彼女をベッドに押し倒していた。
美鈴ちゃんが彼氏とヤりまくってるなら、オレも彼女としよう、しまくろうと意味のわからない対抗心を燃やした。
でも一回し終わって冷静になると……やっぱりそんな何回もする気には全然ならなくて。
オレはまたすぐに服を着て帰る準備を始めた。
「明人君…帰っちゃうの?」
「うん…ごめん。今日はそんなに時間ないんだ。元旦の夜は毎年おじいちゃんちに家族皆で新年の挨拶に行くことになってて…」
「そうなんだね…」
「また連絡する」
「……うん」
新年の挨拶なんて、別に参加しなくてもどうってことない。
でもオレはそれを口実に逃げた。
連絡する気なんてこれっぽっちもないくせに、またそんな嘘もついて。
1月5日。
恒例の打ち初め式から帰って来ると、リビングの机にお菓子の箱が置いてあった。
(パイナップルケーキ……)
すぐに美鈴ちゃんからの台湾土産だと悟る。
一気にイラっとした気分になって部屋に戻ろうとすると、階段で姉さんに出くわす。
「あ、明人お帰り。はい、これ」
「え…?」
「美鈴からのお土産」
姉さんから小さな袋を渡される。
中身はパイナップルのチャームがついた台湾モチーフのボールペンだった。
「あ…りがとう……って言っておいて」
「うん」
「……楽しかったって言ってた?」
「まぁね。でも年上なのにちょっと頼りなかったって愚痴ってたかな」
「え?」
「彼氏、初海外だったみたいで。常に美鈴がリードする形になって何か疲れたみたい」
「へぇ…」
自然と口許が綻んだ気がした。
姉さんがニマニマ笑って来る。
「そういえば明人、彼女出来たんだって?」
「は?!なななんで知って…」
「お父さんが言ってた。『明人の奴、絶対彼女出来たよな。クリスマスも元旦も朝から出かけてたし』って」
「……ちっ、父さんの奴…」
「よかったね」
「……別に」
本当、別に…だ。
どうでもいい。
むしろ姉さんが美鈴ちゃんに話してしまわないか、オレはそっちばかり心配していた。
姉にはそれもバレバレだったらしく、
「美鈴には黙っててあげるから」
と笑われる。
別に浮気してるわけでも何でもないのに、何か浮気が彼女の親友にバレた時みたいな変な汗が出てきた。
いや、本命がいるのに他の奴と付き合ってること自体……ある意味浮気なのかもしれない。
オレはいつまで彼女と付き合うつもりなんだろう。
まだ交際し出して一ヶ月も経ってないくせに、もうそんなことを考えてる自分がいた――
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