TIME LIMIT〜実家編A〜 おまけ

※一ノ瀬君視点です





「――え?家?」


明人君との合同結婚式が終わった数日後、千明が突然言い出した。


「うん。もう建てちゃわない?」

「…早くない?」


入籍してまだ数日のオレら。

新居となったこのマンションに二人で住み始めたのも、ほんの2月前の話だ。

もう少し子供の数とか確定してからでいいような気がするんだけど……


「お母さんの実家、取り壊すみたいなんだよね」

「ああ…あの立派な純和風の家?おばあさんはどうするの?」

「駅前のマンションに引っ越すんだって。年齢的に一人じゃ家の管理も大変みたいで」

「そうだよな…」

「だから跡地に家を建ててもいいよって、お母さんが私と明人に言ってくれて」

「へぇ………ん?」


私と明人に――それはつまり


「隣同士に家を建てるってこと?」

「う、うん……ダメかな?美鈴は大賛成みたいなんだけど…」

「……」


正直…ちょっとだけ目眩がした。

結婚式も合同でした千明と美鈴ちゃん。

家まで隣同士?

それはいくらなんでもやり過ぎのような……


「……ちょっと考えさせて」

「う、うん…、もちろん」


千明も流石に自分が何をしようとしてるのか、異常さが分かってるみたいだった。










翌日昼休み。

オレは大学時代からの親友・須本に一部始終を相談することにした

コイツは実家も開業医のボンボンだが、実は資格マニアでオレの知らない金融系の専門知識も数多く持ってるからだ。


「へー、千明さんの弟夫婦と隣同士で家を建てる?親の土地に?」

「うん……どう思う?」

「ぶっちゃけていい?」

「もちろん」

「一ノ瀬が悩む意味が分からない」

「……へ?」

須本に即答されて、思わず声が裏返る。


「な、何で?」

2棟建てることが出来るくらいだから、その土地だいぶ広いんだろ?」

「うん。結婚の挨拶の時に一度だけ行ったことあるんだけど……たぶん100坪はあると思う」

「じゃあ50坪ずつ分けたとしようか。何区?」

「北区」

「お前、北区の坪単価知ってる?安いところで1200万、つま50坪だと1億ってことだよな」

1億…」

「その土地に好きに家を建てるのと、他に一から新しい土地を探して土地代だけで何千万も払うのとだったら、果たしてどっちが満足する家を建てられると思う?」

「…確かに」


同じ5000万の家を建てるにしても、土地代がかかるのとかからないのとじゃ、これから支払うローン金額もだいぶ変わってくる。

そしてもし今回断ったら、おそらくこの土地は売られてしまうだろう

数年後に一から土地を探す手間と費用を考えたら……今建てるメリットは充分にある気がしてきた。


「でも隣同士ってのがなぁ…」

「千明さんが望んでるなら、ここは言うこと聞いておいた方がいいと思うよ。家ってのは奥さん主導で建てた方が後々モメないからな

「まぁなぁ…」

「でもって、こだわりが無いなら出来たら義弟夫婦と同じハウスメーカーで建てた方がいい」

「え?」

2棟同時注文ってのはメーカー側もあらゆるコストが下がるから、大幅値引きが期待出来るからな。もちろん他社と競合させろよ」

「へぇ…」

「お前も明人君も、俺がハウスメーカーの営業だったら絶対に逃したくない最上位顧客だからな。住宅展示場見に行くにしても必ず予約して、予め予算も職業も伝えて最初から支店長クラス引っ張り出せよ」

「お、おう…」


その後、須本は住宅ローンの組み方や税法までアドバイスしてくれる。

須本が営業だったら、オレは間違いなく契約してしまう気がした。










「家の件だけど、せっかくだから建てようか」



その晩、仕事から帰ってきた千明に早速伝えてみる。

「え…、いいの?」

「うん。須本にちょっと相談してみたんだけど、絶対建てた方がいいって」

「へー、須本さんが」

「めちゃくちゃアドバイスされたよ。担当ガチャ設計ガチャには外れないようにしろよって」

「ガチャ?」

「家建てたことないはずなのに、何でアイツあんなに詳しいんだろな…」


須本にアドバイスされたことを千明にも伝えてみる。

住宅展示場の来場予約は必須。

必ず明人君と美鈴ちゃんと一緒に4人で行くこと。

オレらの職業や年収、予算も予め伝えておく。

あとは既に100坪以上の土地があって、2軒まとめて建築したい旨も事前に伝えておけば、まず間違いなくハズレないらしい。



「千明は予算いくらで考えてる?」

「実は家建てるならお父さん達が2000万くらいなら出してくれるらしいんだよね」

「え…本当に?」

「うん。だからあと5000万出して7000万くらいの予算でどうかな?」

「いいんじゃない?」


5000
万で都内に一軒家が持てるなら、むしろ安い気がした。


「あとは自己資金をいくら出すかだけど…、凌はいくらくらいなら出せそう?」

「あ、それなんだけど、須本が言うにはフルローンでいった方がいいらしい」

「そうなの?」

「例えば1000万自己資金を入れたところで減る利息は僅からしい。それよりその1000万を資産運用に回した方が住宅ローン控除額も増えるし、長期的な資産形成には有効だとか何とか熱く語ってたよ」

「へー」

「まぁ5000万くらいならオレだけで単独ローン組むよ。千明は今後、妊娠出産が絡んでくるかもしれないしな」


妊娠出産というキーワードに、千明が少しばかり頬を赤くしてきた

入籍して結婚式も無事終わったオレら。

もちろん二人とも子供は望んでいて、とりあえず今後は一応避妊はしない方向でいくつもりだ。


「千明…今夜いい?」

「う、うん…///


新婚のオレら。

今夜も激しく絡み合ってしまったのは言うまでもない。











「そういえばあれからどうなった?家建てるとか言ってたやつ」


5
ヶ月後。

いつもの昼休みに須本が聞いてきた。


「うん。もう工事してる。11月には入居予定かな」

「早っ」

「明人君とこも子供生まれたしな。実はオレらも…」


須本にこっそり千明の妊娠を伝えてみた。


「本当に?おめでとう…!!」

「ありがとう」



来年の春には親になるオレと千明。

新しい家で、新しい家族を迎えられるのは、楽しみの他ない気がした――

 

 

 

END

 

おまけ住宅展示場のスタッフ視点

 

新居を建てることを決めた時のお話でした〜。
さすがに隣同士はどうなんだと一ノ瀬君も戸惑ったことでしょうということでw

でもって須本君は昼食後、小児科に戻りながらふと思うのです。
(あれ?千明さんのお母さんの実家ってことは、もしかして塔矢行洋先生の家なんじゃ??)と。
でもって
(え?つまり進藤明人八段と家が隣同士になるってこと??よく考えたらすご…)と内心テンションが上がってる須本君です。

7000
万×2棟建てたいとかいう客が来たら、もう絶対逃したくないですよねー(笑)
美鈴ちゃんはちゃっかり3社くらいに同条件提示して見積・設計してもらい、しっかり見比べそうですな!