●TIME LIMIT〜学歴編〜 おまけ●

※櫻井君と元カノの過去。(元カノ視点)





こんなことになるとは思ってなかった。

ほんの出来心だった。



私が通う学部は8割方が男子で、入学以来ずっとチヤホヤされていて……いい気になってたんだと思う。

アルコールが入ってたのもいけなかった。

彼氏と3年以上付き合って、慣れすぎてたのもいけなかった。

ちょっとだけ、新しい空気が吸いたくなってしまったのだ――







「………え?」



一夜の過ちから約一ヶ月後。

体調不良で婦人科を訪れた私は、病名を告げられて頭が真っ白になった。

付き添ってくれた慎一も…さすがに言葉を失っていた。


癒着が酷く、卵巣を摘出するしか既に手立てがないという……それも両方を。

それはつまり……私は自分と血の繋がった子供を持てないということだ。

一生。




「ごめんなさい…」


浮気して、勝手に病気になった私なのに、慎一は当然のように入院に付き添ってくれて。

退院まで毎日お見舞いに来てくれた。


「大丈夫だよ…」

「治ったら、気分転換に旅行でも行こうか」

「案外二人だけの人生も楽しいかもよ」


優しくされればされるほど、気分がどん底に落ち込んだ。

ああ…もういっそのこと罵って、振ってくれたらいいのに。

優しく励まして来る彼に、私は申し訳ない気持ちでいっぱい過ぎて……もう死にたい気分だった。


(駄目だ…、死んだらきっと一生彼の重荷になる…)



だから、ここは悪女になろう。

慎一が未練なく未来に進めるように。

私のことなんて、綺麗さっぱり忘れてくれるように――



 

 




「もう別れよっか」

「前々から思ってたんだよね。病気になる前から」

「やっぱ年下って頼りないし。だから浮気しちゃったのかも」


完治後、私は慎一にそう告げて、別れを切り出した。

しばらくの沈黙の後、彼は私に言った。

私の思惑なんて……バレバレだったんだと思う。


「…オレはきっとこの先、春華より好きになる人はいないと思う…」

「な、何言ってんのよ〜!まだ21のくせに。いくらでもいい出会いがあるって!」


だからね。

こんな浮気女のことなんてさっさと忘れなよ。


「さよなら、慎一。3年半、ありがとう」


最後は逃げるように彼の元を去った。

涙を見られたくなかった。

彼の涙も見たくなかった。



慎一は私にとって、最高の恋人だったよ。

大好きだった。

だからこそ、幸せになってほしい。

ちゃんと子供を持てる女の子と恋愛して、結婚してほしい。


そしていつか、いいパパになって――


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




それからの私は仕事に生きた。

国家試験合格後、そのまま東大病院で研修医を終えて。

産婦人科専門医の認定を取った後、地元の総合病院の産婦人科で勤務している。

自分の子供が持てないからこそ、人の子の誕生の手伝いがしたいと思ったからだ。



「早産学会学術大会かぁ〜、これは行こうかな」


学会にも知識の習得の為に、出来るだけ参加するようにしている。


(でも都内で開催される学会って、絶対慎一も来てるんだよね…)


私と別れ、大学を卒業した後、彼はT医科大学病院の産科で働いている。

32
歳になった今でもまだ独身の彼。

あんなにイケメンで高学歴高身長で性格もいいのに、周りの女どもは一体何をしてるんだろうって思う。


そういう私ももちろん独身だ。

でも、結婚間近な彼がいる。

バツイチで、前妻との間には3人も子供がいる人だけど。

でも、だからこそもう子供はいらない、二人で生きていきたいと言ってくれる、私にとって条件がピッタリなフィアンセだ。


(ふふふ…、もし学会で慎一に会ったらこの婚約指輪を見せつけてやろう)






学会当日。


「春華」

久しぶり、と慎一が私を見つけて近付いてきた。


「久しぶりね」

半年ぶりの元カレは相変わらずのイケメン顔で、若い女医の視線を集めていた。

でも、半年前と一つだけ違うところに私はすぐに気付いた。


(指輪ハメてる……右手だけど)


この10年間で初めてのことだった。

右手薬指の指輪は恋人がいることをもちろん示している。


「あら慎一、ついにいい人が出来たの?」

「バレた?」

とイタズラっぽく笑ってくる彼。


「普段は仕事中は付けないんだけど…、どうしても春華に見せつけたくて」

「あーら、じゃあこれは何だと思う?」


私も左手薬指のエンゲージリングをキランと彼に見せつけた。


「婚約したんだ?よかったな…」

「お陰様で。年内には入籍予定よ」

「おめでとう…」


彼の瞳には安堵の様子が見えた。

きっとずっと心配してくれてたんだろう。


「慎一は結婚はまだ?」

「うーん…、もちろんすぐにでもしたい気持ちは山々なんだけど。彼女がまだ学生だから、卒業するのを待ってる感じかな」

「あらやだ。一体いくつの子と付き合ってるのよ?」

「19」

「……正気?」

「弟と同じ反応するんだな」

と苦笑される。


「めちゃくちゃ正気だよ。やっともう一度告白したいと思える相手に出会えたからね…」

「そう…、よかったわね」

「うん――」



まだ19歳の看護学生だという慎一の彼女。

もしいつの日か、あなたに会える日が来たら、私はお礼を言ってしまうかもしれない。


慎一を好きになってくれてありがとう…と。

どうか私が与えてあげれなかった家族の温もりを、彼に与えてあげてね。


お幸せに――

 

 


―END―



おまけ(春華さんの結婚話)

 


以上、櫻井君と元カノのお話でした〜。
ちょっと重すぎましたかね?(笑)
まぁいいか、TIMEシリーズだからね。色々重いのがこのシリーズだからね。

愛ちゃんの前ではカッコよくて逞しい年上彼氏の櫻井君ですが、元カノの前ではやっぱりちょっと年下彼氏って感じですね★


ちなみに彼女を寝取られた上こんな目に合わされて、黙って泣き寝入りする櫻井君ではないですよ。
入院中の春華さんに優しく相手の名前を聞き出して、もう徹底抗戦ですよ。
春華さんのお父さんもブチ切れてますからね。
相手の親(勤務医)から治療費と慰謝料、ウン千万と分捕ってやりましたよ。
しかも相手は実は自分が感染してると分かった上で、複数の女性と関係を持ってたという下種野郎ですからね。
相手の親ももちろんカンカンになり、「お前に医者になる資格はない」と退学させて、もう縁も切ったらしいよ。チャンチャン