TIME LIMIT〜学歴編〜 おまけ

櫻井君の母親視点です





「将来を考えてる人がいるんだけど、近々会ってもらえる?」

「……え」


夕飯の席で息子が突然言い出したセリフに、私も夫も固まってしまった――






今日から3日間、急病で急遽お休みとなった医師の代わりを務めている息子。

どうせ明日も朝一から勤務の為、自宅マンションに帰るのも面倒ということで、もう実家に泊まることになった。

(我が家は病院のすぐ隣だ)


そんな息子が突如言い出した『将来を考えてる人』発言。

私は夫と視線を合わせた。


「慎一…お付き合いしてる人がいたのね」

「まぁね。4ヶ月くらい前からかな」

「そうなの…」


マズい。

ものすごくマズいことになった。

息子からずっと「婚活が上手く行かない」と聞いていた私達。

それなら私達で探してあげようと、知り合いに声をかけまくっていたのだ。

そして夫の学生時代の先輩の娘さんを紹介して貰えることになったばかりだったのだ。

だから今日そのことを息子に話すつもりだったのに……どうしよう……


「もちろん会うわ。もちろんよ。いつでも連れてきて」

「分かった」

「でもね慎一…、一つだけお願いがあって…」

「え?」


私と夫は恐る恐るその先輩の娘さんの件を伝えた。


当然

「余計なことを…」

と言われてしまったのだけど。



「だって慎一、もう何年も婚活が上手く行かないってボヤいてたじゃない…!」

「確かにそうだけど、オレに黙って勝手に話を進めないでくれよ!」

「一回だけでいいの!お願い!私達の顔を立てると思って会ってほしいの…!」

「会えるわけないだろ?!今すぐ結婚したいくらい好きな人がいるのに、そんな不誠実なこと…!」


息子の言い分は尤もだ。

恋人を裏切るような真似は絶対にしたくないのだろう。

今回の件は100%、息子の意思も確認せず勝手に話を進めた私達が悪い。


だけど……


「はぁ?!医師会会長の娘?!」

何でまたそんな断り辛い相手を…と息子が顔を引き攣らせる。

「あなたも医者なら分かるでしょ?!こっちからは断れないのよ!」


だからお願い!

一回だけでいいの!

一回だけお見合いしてちょうだい!――と息子に懇願する。


「……分かったよ」

「ありがとう慎一…!!」

「ただし!オレの彼女に先に会って貰うからな!」

「もちろんよ!いつでも連れてきて!」

「あと彼女にもお見合いのことは話すから!」

「もちろんよ!私達からもこうなってしまったことをちゃんと謝るわ!」


 

 




次の日曜日、早速慎一が彼女を家に連れてきた。

とても若くて可愛らしいお嬢さんだった。

まだ19歳の看護学生らしい。

可哀想なくらいガチガチに緊張している彼女に、私は本当に申し訳ないことをしてしまったと反省した。


「愛さん…、私達が早まってしまって本当にごめんなさいね」

「え?!あ…はい、慎一さんから聞きました。全然大丈夫です…、信じてるので」

「愛…」


親の前だというのに、息子が彼女をぎゅーっと抱き締め出した。


「お見合いなんて速攻終わらせて来るからな…」

「うん…」

「オレが結婚したいのは愛だけだから…」

「ありがとう…」



息子の恋路を目の前で初めて見てしまった私達夫婦。

ほぼ病院の方には行かない私と違って、産婦人科医の夫は日々色んな夫婦を目にしてる。


「慎一と愛さんはだいぶ歳が離れているけれど、いい夫婦になれるんじゃないかな」


二人が帰った後、そう夫が口を開く。

『信頼』と『対話』は夫婦にとって一番大事なものだからだという


「そうね…、私もそう思うわ」

「愛さんが大学卒業するまであと3年か…」

「私達の3年なんて一瞬だけど、きっと二人にとっては物凄く長く感じるんでしょうね…」


でも二人はきっとその3年を乗り越えるだろう。

そんな予感がした。


 

 

 

 



更に1週間後、例のお見合いが行われた。

相手の女性は愛さんとはまるで違う、才色兼備なお嬢さんといった感じで、趣味は茶道とお琴、仕事は大手上場企業の役員秘書をしているという。

28
歳という年齢も32歳になる息子とはピッタリだった。

もしあの愛さんとのやり取りを見ていなかったら、とても残念に思っただろう…、こんなにいい人を断らなくてはならないなんてと。


だけど――


「申し訳ないんですけど、私あなたと結婚する気ないのでお断りさせて下さい」


彼女の第一声に、場の全員が固まった。

息子はというと……


「奇遇ですね。私もあなたと結婚する気は全くないので、ちょうど良かったです」

と……


聞けば向こうのお嬢さんにも交際している男性がいるのに、親が勝手に話を進めてしまっていたらしい。

というか、相手の男に不満があるから別れてほしかったらしい。

何でも高卒で、中小企業に勤める年収が300万しかない、しがないサラリーマンらしい。

息子と同じ32歳。

同じ32歳でもこんないい男もいるのよと、親は娘に目を覚ましてほしかったらしい。

(確かに息子は東大医学部卒の年収が1500万の医者だ。忘れてたけど普通に好物件ないい男だわね…)


「もう私、駆け落ちしようと思ってて」

「そうなんですね。でもそれは最終手段にして、親御さんを説得されては?」

「だって聞く耳持ってくれないんだもん」

「彼氏、しょっちゅう転職してるとか?」

「ううん、高校卒業してからずっと同じ会社」

「だとしたら年齢の割に平均よりだいぶ年収低いですよね。そりゃ親御さんも心配するでしょ。転職はチャレンジしてみました?」

「何社かは受けたんだけど全部落ちちゃって…」

「書類で?筆記で?面接で?」

「書類かなぁ…」

「それ一度あなたの方でもチェックしてあげた方がいいですよ。職務経歴書とか彼氏ちゃんと書いてます?」

お見合いの席なのに、何故かお相手の彼氏の人生相談をし始める二人だった。



「駆け落ちされるくらいなら、認めてあげた方がいいんじゃありません…?」

と私もお相手のお母さまに進言する。

「でも苦労するのが分かってるのに…」

「でも親が望むようなお相手と無理矢理結婚させても、お嬢さまが幸せになるとは限りませんしね…」

「…そうですよね」

「息子の恋人にこの前初めて会ったんですけど、ごく普通の家庭で生まれ育ったまだ大学生の女の子でしたわ」

「あら…」

「でもあんなに幸せそうな息子を見たのは初めてでした」


子を持つ親にとって一番の願いは、子供の幸せの他ならない。

親が心配のあまり、それを邪魔するなんてあってはならないのだ。


「今の時代、共働きも普通みたいですし。二人で力を合わせればそれなりに生活出来るんじゃないでしょうか」


決して余裕のある暮らしではないのかもしれないけれど。

自分が選んだ人生ならば人はきっと頑張れる。


「…そうですよね。帰ったら主人に話してみます」

「ぜひそうしてあげてください。大切なお嬢さまの為に」


 

 



お見合いが終了し、息子の運転で帰った。

別々に帰ってもよかったのだけれど、家まで送ってくれるという。


「貴重な休みをごめんなさいね」

「全くだよ。本当だったら彼女と出かける予定だったのに」

「そうよね…」

「でもまぁお見合いしてみて、いかに恋愛結婚がいいか再確認出来た点はよかったかな」


もし今日の相手に恋人がいなくて。

もし息子の方も愛さんに出会ってなかったら、きっとこのお見合いは成功していただろう。

文句のつけようがない素敵なお嬢さまだったからだ。


「でもきっと一生…、物足りなさを感じる人生を送ることになったと思う」

大学の6年間、九大に行かなかったことをずっと後悔してたあの時みたいに――と。

「あらやだ、まだ後悔してるの…」

「でも今の大学病院で働けて物凄く満足してる。やっぱり人生は自分で決めないと後悔するね」


私を家の玄関前で降ろした後、「今から愛のところに行ってくるよ」と息子は幸せそうな顔をして車を発車させた。

今日の報告をちゃんと自らの口で伝えたいのだろう。

彼女を安心さすためにまた抱擁して、愛の言葉をたくさん放つ息子の姿が目に浮かんだ。

(ラブラブね…)


 

 



ちなみに後日、お見合い相手のお母さまから連絡があった。

お嬢さまの結婚を認めてあげたそうだ。

そしてお相手も無事転職に成功し、年収も倍近くなったそうだ。


「おめでとうございます。お嬢さまにお幸せにとお伝え下さい」

『ありがとうございます』




私達も3年後が楽しみだ。

きっと祭壇で幸せそうな息子夫婦の誓いのキスを見ることになるだろう――


 

 


END



おまけ

 


櫻井君の母親視点でした〜。

婚活が上手くいかない息子の為に、お見合いをセッティングしてみたら、実は彼女が出来てたという大変気まずい展開となってしまったお話でした(笑)
まぁ勝手に探すのはマズいわな。
櫻井君もちゃんと恋人が出来たことを親に報告しておくべきでしたな。

櫻井君は実家病院のスタッフの採用面接(一次)も担当してるので、スタッフの名前を全員暗記してるのですよ。
(なので、おまけ2の医療事務の女の子のことも知ってた)
40歳くらいまでは大学病院で働く予定ですが、ちょこちょこ実家病院も手伝ってる櫻井君なのでした。